15 面白れぇ女、お前はオレ様と肩を並べるに相応しい←断る

 何度目かの検証実験の結果、それが成功だと結果が出た。そのことに研究区画に勤める人や講師も雄たけびを上げ、涙していた。フリーザンネック王国から来ている人もいたからだった。

 

「やったぁぁぁ!!」

 

 もちろん、ユウヴィーも叫び喜んでいた。彼女は自分の仮説が正しいと結果で確かめることが出来たからだ。

(やった、瘴気はウイルス的なものなら、他の瘴気問題も似たようなもののはず! これなら応用が効くわ!)

 彼女は他の瘴気問題もどうにか出来ると前向きにとらえていたのだった。

 

+

 

 実験の結果を図書館でフォーラズと共有し、二人は笑い合っていた。

「フッ、お前は本当に面白れぇ女だ」

 不意にフォーラズが目元にうっすらと涙を浮かべ、微笑んでいた。

 

 外はすでに暗く、図書館内に残っている生徒も少なかった。エリーレイドの影の魔法で誘導しているのだが、ユウヴィーは気づいていなかった。

 

 つまり、とてもいい雰囲気だった。

 

 ユウヴィーの心は揺れ動いていた。不意に見せたその笑顔は、彼女の中で――

(くっそてぇってぇぇぇ!!)

 オタク特有の雄たけびを上げていた。

 

 それと同時に、ユウヴィーはハッと気づき顔をそらした。

 

(あ、これヤバイ。これは積んでない?)

 

「あぁん? どうした」

 

 ユウヴィーさぁーと血の気が引いてきていた。しかし、頭を振り、冷静さを取り戻した。

 

「いえ、ちょっと疲れが出ただけです。今日はもう遅いのでまた明日にしましょう」

「フンッ、そうだな――」

 

 ユウヴィーが立ち上がり、その場を後にしようと片付けをしているとフォーラズの腕がスッとユウヴィーの腰に自然と据えられた。そのまま吸い寄せられるように、フォーラズの胸の中にユウヴィーは抱き締められたのだった。

 

(あ、ヤバイ。これはヤバイ)

「フォーラズ殿下、ちょっと苦しいです」

「なぁ、オレ様の――」

「お放しになってください」

 

 なんとか無理やり引き剥がし、距離をとるユウヴィーだった。若干肩で息をしており、フォーラズがそれを見て鼻で笑うのだった。

 

「オレ様の誘いを断るなんて、やはりお前は――」

「フォーラズ殿下、また明日話しましょう。それではごきげんよう」

 

 ユウヴィーはフォーラズが喋っている最中に食い気味に言い放ち、その場を去っていった。残されたフォーラズは肩をすくめていた。

 

+

 

 その場から離れ、小走りになっていたユウヴィーは、叫びまわりたい気分だった。

(このままだとフォーラズルートに行ってしまうぅぅぅヤバイ!)

 小走りをしているが、表情は貴族令嬢特有のお澄まし顔を張り付けていた。貴族教育の賜物である。

 

 すれ違う生徒たちから声がし、ユウヴィーの耳に入った。

「あの方が例のフリーザンネック王国の救世主となった――」

「特待生の聖女さまはフリーザンネック王国の問題を救ったらしい――」

 

 周りの声から、ユウヴィーは非常に厄介な状況に陥ってる事を再確認し、外堀を埋められている状態だと次第に理解していった。

 

 次の日、フォーラズ殿下の婚約者にお茶会に誘われたのだった。

 

(この場で弁明し、違います、そうじゃないんです! としっかり言えば伝わってくれるはずだ。人の婚約者をとるなんて行為はさすがに問題過ぎる。外交問題だ)

 

「お待たせ致しました。ユウヴィー・ディフォルトエマノンでございます」

 貴族のお辞儀をし、お辞儀したままで相手の言葉を待った。

「ユウヴィー様、お顔を上げてください。この度は、我が国を救っていただきありがとうございます。心より感謝申し上げますわ」

 

 ツンな婚約者だったのだが、目じりが下がりにこやかな表情を浮かべていた。

(これはガチ切れしてるッ)

 ユウヴィーはそう感じ背中につぅーと冷や汗をかいていた。

 

「発言をよろしいでしょうか?」

 ユウヴィーは頭の中で考えていた、フォーラズ殿下との関係性について弁明を言おうと思っていた。

「お待ちになって、ユウヴィー様。お話したい事がございますの……」

 スゥと目を細め、ユウヴィーと視線を合わせた。

 ユウヴィーは表情を崩さず、頷いた。

(これは人の婚約者と何イチャついてるんだ? おぉん? っていう流れだ)

 

 ユウヴィーは覚悟をし、唾を飲み込んだ。

 

(甘んじて受け止め、謝罪しなければいけない。瘴気対策とはいえ、フォーラズ殿下と二人っきりで居続けるのは確かにおかしい。婚約者がいるのに、そういう事をするのはビッチがすることだ。私が全面的に悪い)

 

「私は、ユウヴィー様をフォーラズ殿下の第一夫人に推しますわ。フォーラズ殿下にも進言してあります、此度の功績から鑑み、私が第一夫人としての婚約者は不釣り合いです。フォーラズ殿下もユウヴィー様の事を大変お気に入りの様子でした。重ねて、ありがとうございます」

 

 ユウヴィーはあのツンな婚約者ライバルから発せられた言葉が耳に入ってきていたが、全く理解できませんでした。

 

「申し訳ございません、あのつまり……」

(どういうこと?)

 

 その後、再度説明されてもユウヴィーは理解できていなかった。それもそのはず、フリーザンネック王国が一夫多妻制であり、妻同士協力し、夫を支え、養ってもらうのが当たり前の文化の国であることを知らなかったのだった。

 


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