入学~一年目 さぁ恋、なぐり愛
01 ルマンティオーク学園、私は転生してる!
入学式の時間ギリギリになってしまった事に、このルマンティオーク学園に通いたくなかったという思いが脳裏によぎる。本来なら子爵系の私はこんな所に通えるわけもなく、特待生で王から勅命がなければ正門をくぐることすら許されない。
息を切らしながら、使い魔の犬が私よりも早く駆けていった。純白の毛色は、太陽の光を淡く反射し、ダイヤモンドダストのような光の粒子をまき散らしていた。
「ちょ、ちょっと待って」
彼女は、ユウヴィー・ディフォルトエマノンは貧乏子爵家の令嬢である。もう一度言おう、貧乏子爵家の令嬢である。
それがなぜこのルマンティオーク学園に通う事になったのか、それは彼女が光の魔法を使うからだった。大なり、小なり光の魔法を扱えるものは、必ずどの国に居てもこの学園に通わないといけないとなっていた。このルマンティオーク学園は、様々な国が関わっており、今なお瘴気に対する研究と国と国の協力が行われている学園だ。というのを入学前に知った。
大正門から使い魔の犬が走っていくのを追いかけていると、金髪の男性に使い魔がぶつかった。
ユウヴィーは冷や汗をかいた。この学園内には、各国の王族や爵位がある貴族が来ているのだ。下手なことをすれば、外交問題に発展するからと入学前に言われたのを思い出す。
「――ッ!」
走る速度を上げ、即座に謝罪をしようとした所、金髪の男性が振り向き、足元の私の使い魔を見つけ微笑んだ。
「子犬ちゃん、君は誰の使い魔かな?」
そっと跪き、私の使い魔の犬を撫でた。気持ちよさそうにしている使い魔の犬に何してるんだとドキドキした。そこでふと、何かデジャビュを感じていた。どこかで見た事あるような、でもそうじゃないような、という不思議な感覚だった。
本来は「小鳥ちゃん、君は誰の使い魔かな?」が正解であり金髪の彼の肩に止まり、聖桜並木道と絵になる一枚のスチルとなる。そして、そのまま奥の校舎がアップになり、タイトルがドーンとなってユウヴィーはそこで一目ぼれしてしまう――のだけど、なんだこの記憶? と困惑した。
しかし、実際は子犬のため、金髪の彼はしゃがみ込み「本来のスチル絵」とはかけ離れた一枚だ。そう誰も写っていない。
ユウヴィーは知らない言葉が脳裏に駆け巡り、何かとてつもないデジャビュを感じていた。
その金髪の彼が王太子であることを彼女は知らない。名乗ってすらいない、でも何となく自国の王太子じゃないかという感覚を持っていた。しかし、知っている景色とは違うような気がし、来たくもない学園に来た事でユウヴィーは気疲れし、混乱してるのだろうと思った。
「あ、すみません。私の使い魔のスナギモです!」
――ブフォッ!
どこからか、くしゃみのような、笑いをこらえて噴き出したような音が聞こえた。しかし、ユウヴィーが音の方を見ても静寂。そよ風が木々に咲いている花びらが舞い、空耳だったようだと思ったのだった。
「かわいい使い魔だね。人懐っこい……君もこのルマティオーク学園の新入生かい?」
「は、はい。あ、私は――ユウヴィー・ディフォルトエマノンです」
「あ、もしかして――」
ユウヴィーは、王太子でしょうか? と言いそうになり、それが不敬罪に該当すると感じ、口を閉ざした。
「私は――いや、自己紹介はやめておくよ。それじゃ、また入学式で」
そういって彼は学園のある方へと向かっていった。彼女は助かった、と思った。なぜだかわからないけれど、何か不安が付きまとっていた。
金髪の彼が向かっていった方向に校舎がそびえ立つのをユウヴィーは見て、どこかで見た事あると感じた。ずきりと頭痛がし、さっきの意味不明なタイトルがドーンやら、スチル絵のことを思い出し、いろいろと思い出すのだった。
(私は、死んだんだ。死んで転生してこの世界に生を得たんだ。あれ、どうやって死んだんだっけ、確か……)
と思い出そうとすると足元ではっはっはっと息を切らしている使い魔の犬であるスナギモが見上げてきた。
知っている乙女ゲーの使い魔は小鳥であって、犬ではない……と感じていた。
(どこかで聞いたことある学園名なのよね……もしかして、前世で遊んだ何かの乙女ゲーの世界? いやまさかね……普通に異世界転生よね……?)
とりあえず、彼女は入学式に遅れないように急いだ。前世の事は長ったらしい学園長の話があるはずだから、その間に思い出すことにした。遅刻していいことはないし、何かこの世界の事をなんか知ってるような気がするけれど、数々の乙女ゲーと異世界悪役令嬢ものの小説を履修していたからそう思うだけだ。
そう彼女は思い込んでも嫌な予感は付きまとっていた。
入学式会場に間に合い、講師の案内のもと特待生の席に案内され、着席し、程なくすると入学式が始まった。学園長の長いスピーチが始まり、その間に自分の前世の事を可能な限り思い出そうとした。
過酷な職場と顔を覆いたくなるようなプロジェクトのことを思い出し、神妙な顔つきと苦しみに耐えるような表情になった。あまり思い出したくない記憶だった、エナジードリンクを水替わりに飲み、終電と始発か泊まり込みか、その末に過労死だったのだ。
前世の嫌な記憶から
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