髭RUN!!

星 太一

プロローグ

「ハッ!?」


 気が付くと見慣れない場所にぶっ倒れていた。

 いつも歩いている街のようだが街じゃない。ビルがぎっしりと両側に建ち並び、目の前には一本の道。横道もなく唯一本。それが何だか不自然だ。

 そして赤い空。あたりの空気は生気がなくどこか静かすぎる。

「ここ……どこ?」

『気付いたようじゃのお、髭』

「うっ! うわわぁ!!」

 いつの間に後ろに可愛い女の子が立っている!

 つやつやの長い金髪に大きな瞳。シルクのシンプルなドレスに何だか煌びやかな宝石飾り。金色のティアラみたいなのも何だか神秘的だ。

『お、女の子とは失敬な! 妾は齢1000の女神じゃ!』

「め、女神様!?」

『左様。妾は髭全肯定型過激派女神。お前を助けに来たのじゃ!』

「……??」

『そうじゃ!』


『髭以外は庇護対象外、髭を生やしておきながら髭のイメージを落とそうとする悪人のことは「悪魔」と呼んで地獄行きリストに名前を連ねる、そして妾の庇護に入ろうとする為だけに髭を生やす人のことは「にわか」と呼んでガン無視! それが妾! 髭全肯定型過激派女神なのじゃ!!』


 ばばーん!

 決めポーズキラーン! 背景で爆弾ぼかーん!


「……」


「女神にしては余りに欲望丸出し過ぎじゃないですか?」

『うるさぁい! お前だってちょっと前は金運アップの神に縋ってた癖にその翌日には恋愛運アップの神に縋ってたじゃないかぁ!』


「だから自分も庇護する対象は選びたいと?」

『ついでに地獄に落とす奴も自分で選びたいのう』

 そういってカッカッカと婆臭く笑う。

 予想以上に過激派な女神かもしれない。何だ、髭生えてるだけじゃ駄目なのか。

『当たり前じゃろ! 髭は生やせば良いってもんじゃない! 先ずなぁ、髭はお洒落の一部として認識していないと駄目で……って、そんな暇は今無いんじゃった!』

 一人で説明始めて一人でツッコミ。

 忙しい女神だ。

『取り敢えずお前! 後ろを見るんじゃ!』

「ん」

 言われて振り返ると何だか黒と赤と紫を混ぜたみたいな邪悪で巨大な何か概念みたいなのが凄い勢いで迫ってきていた。

 って!?

「ええええっ!? 何だアレエエエ!」

『カッカッカ! うむうむ、お前みたいな素直な髭は妾の好物じゃぞ』

「そ、そんな事言ってるばやいじゃないんでしょ!? アレ何ですか!」

『うむ。あれはなぁ、所謂「悪魔」、「死」とかってやつじゃ。お前を飲み込もうと迫ってきておる』

「絶対ヤバいやつじゃないですか!」

『ああ、ヤバイやつじゃのう。だから助けに来たんじゃよ、最初に言ったじゃろ』

 そう言ってちょっと素敵に微笑む。

「え?」

 あれ、ちょっと格好い――


『最近のお前は余りの忙しさに髭を剃る暇もなく日々をわたわた過ごしておった。その経過で妾の好みドンピシャの顔になったので、お前をこの危機から救う運びとなった、そしてあわよくばそのまま髭を残していて欲しいと思うようになった。そういう次第じゃ! 良かったな! 忙しくって!』


 ――やっぱ全然格好良くない。唯の面食い女神じゃないか!


 嬉しいんだけど嬉しくない。この気持ちを僕はどうすれば良いんだ。

『さて、ことは急を要する。あれに完全に飲み込まれてしまえばお前は確実に死に至ってしまうだろう』

「それは困る!」

『妾も困る! この御尊顔だけは絶対に死守するんじゃ! じゃないと妾もお前を追っかけて死ぬ!!』

「そんな所にまで過激派出してこなくても!」

 それ最早メンヘラとかじゃないのか!?

『じゃから最強助っ人を用意した。見よ、髭よ! を!』

「……?」

 何の話だ?

『アレはお前を助けてくれる髭教狂信者! 最近お前を隠れてストーキングし、盗撮とか盗聴とかしながらこっそりお前の家の玄関前にあったかい手料理を置いておったやつじゃ!』

「ああ、あれアイツの仕業だったんですか!!」

 ってか、ちょっと待て。盗撮と盗聴もしてたのか!?

『カッカッカ! 安心せい! ちょっと勢い余って犯罪行為をしちゃうだけの信頼できる救世主じゃからの』

「や、何でよりによってそんな人が救世主なんですか! というか何ですか『髭教』って!!」

『あらゆる御尊顔素敵な髭を崇め奉りながら世界の悪と悪いイメージから髭を守るべく戦う集団じゃ。妾はそこの祭神、そして最近の議題は余りに疲れた顔をしておるお前をどうにか助けられないかということじゃった』

 え? 今までそんな怪しさ満開の怪奇集団にストーキングされてたっていうのか?

 怖すぎる。


『ま、そういうわけじゃ。お前はどんな手を使ってでもあの「悪魔」から逃れなければならない』


 そう言って指差した先。

 あの「悪魔」の概念とやらは先程よりも迫ってきていた。それだけで腰を抜かしそうになる。

『しかし妾はこの世界の中では限られた所でしか力を発揮できぬ。だからほら、お前の手も妾の体をすり抜けるじゃろ?』

「ええっ!?」

 今までこんなに大口叩いてたのにこの姿は幻影なの!?

 無理無理無理無理! 死んじゃうって!!

『じゃからこその狂信者じゃ! そ奴と一緒に妾の待つ場所まで逃げ切って来い。それがお前の助かる唯一の方法。そこまで来れたら妾がこの力でこの状況下からお主を助けてやろう』

「……出来るでしょうか」

『大丈夫じゃ。さっきも言ったがお前を今から助けるのは髭教狂信者、よもやお前を死なせることはあるまいて』

 またそういって余裕そうな顔でカッカッカと笑う。

 ……本当に大丈夫かな。

 僕、今本当に疲れているんだけど。


『大丈夫大丈夫! 安心せい。髭教は全力を挙げてお前を守るぞ』




〈ゲーム説明〉

 これよりゲームが始まります。狂信者であるあなたは兎に角髭に優しくする選択肢を取り、ハッピーエンドを目指してください。EDは三種類あります。


 これより各エピソードの最後に選択肢が表示されます。皆さんが直感的にこれだ! と思う方を選択し、その数字が書かれたエピソードに移動してください。




▶『さあ、狂信者よ! この今にも死にそうな髭に最初の指示を与えるのじゃ!』


 『お主の思うというのは――?』



*疲れていて可哀想なのでお布団を敷いてあげよう →2

*危ないぞ! 逃げろ髭!            →5

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