377「お茶会(1)」

(あー、これは、お茶会というより合コンだなあ)


 男女向かい合った席の並びを見て、思わず遠く懐かしい日の残滓を思い出してしまう。


 11月のとある日曜日の午後、約一ヶ月前にゲーム主人公と私が一方的に決めつけている月見里姫乃ちゃんと他数名の女学校の学友を、鳳の本邸に招待した。

 けど、一方では体の主の言葉を重視しての、姫乃ちゃんへのちょっかいという面もある。


 何しろ放置した野生の姫乃ちゃんは、アブナイ思想をキメて鳳を外から攻撃してくる可能性がある。そして鳳の学園は一気に規模拡大したので、思想を吹き込むような輩をゼロにするのが面倒な状態だ。

 それでも姫乃ちゃんの撃退は可能だろうけど、抱え込んで丸く収める方が寝覚めも良いだろう。


 名目は「お茶会」。勉学で優秀な成績の者数名をお呼びして、有意義なお話をするという建前、もとい目的。

 そうは言っても、学業優秀で言えば私とお芳ちゃんがトップ2で、側近候補2名も学年10位以内。それ以外として5位以内の3名を呼んだ。そしてその中に、姫乃ちゃんも入っていた。

 逆に頭脳担当の側近候補達は、いつも一緒だからと今回は席を外させている。


 ただし、今日の警護担当として、輝男くんは部屋に控えさせてある。なぜなら私の一番の目的は、一度ゲーム登場人物を全員揃える事。なにせ、来年私がハルトさんと婚約してしまったら、完全再現は不可能になってしまう。


 だから一度くらい全員を無理なく揃えるのは、ゲーム『黄昏の一族』を愛する者としての義務だろう。多少違う人も加わるけど、そこは誤差の範囲。主要キャラが揃う事が私的には重要だ。


 鳳の男子達には、決まった相手と関係を結ばざるを得なくなる前に、女子と話し合う場を作ってあげようという意図もあるので、瑤子ちゃんにも協力してもらって勝次郎くん、龍一くんも呼びつけてある。


 そして男子が攻略対象達全員で5人、女子が私込みで5人。ただし、輝男くんは一応除外で私もホストだから4対4。そしてホスト役の私が上座に座り、他がそれぞれ向かい合う。


「玲子よ、招かれて言うのも何だが、玲子は上座ではない方が失礼に当たらないのではないか?」


「それは考えたけど、机を2つにしても1人余るし、この並びが一番据わりが良いでしょう」


 一番私寄りに座る勝次郎くんのツッコミ。対面に座る瑤子ちゃんも、その方がいいんじゃないかって目線だ。

 そこで少し考えるけど、すぐに答えが出た。おあつらえ向きのシチュエーションってやつだ。


「……分かった。シズ、椅子をもう一つ用意して。輝男くん、こっちきて座って。これで5対5。文句ないでしょ」


「畏まりました、お嬢様」


「そうだな。輝男なら見識も十分だろう」


 ようやく及第点を頂けた。そして輝男くんは基本的に私に従順だから、身分とかを盾に断ろうとはしない。

 けど、逆に女子達には説明の必要を感じる。


「輝男くんは見ての通り私の使用人だけど、この屋敷の書生で鳳中学にも通っていて、学業も優秀よ」


「涼宮輝男と申します。卑賤(ひせん)の身では御座いますが、同席をご容赦ください」


 相変わらず平坦な口調でそう自己紹介したら、スマートな執事服姿で綺麗なお辞儀を決める。

 背も伸びてほぼゲーム開始時の身長になったし、顔立ちも無表情系イケメンなので、女子達の瞳の中がハートになりそうだ。

 と、そこに、龍一くんのツッコミ。


「輝男、俺たちまだ自己紹介してないんだぞ。先走るなよ」


「これは大変失礼いたしました、龍一様」


「いいよ。じゃあ、座り直したら、順に自己紹介をしよう」


 そうして、全員がもう少し公平に話しやすいように机と椅子を配置変更し、私を女子の真ん中に座り直す。

 続いて自己紹介を順番にしていくけど、合コンじゃないから名前を言っておしまいで、好感度を上げる為のアピールとかはない。


「それじゃあ、お茶とお菓子を頂きながら、のんびりお話ししましょうか」


「世相を切ったりするんじゃないのか?」


「しても構わないけど、今日は親睦を深めるのを重視したいかな。話題に事欠くなら、小難しい話でもいいわよ」


 勝次郎くんに少し挑戦的な声と視線で挑発してみたら、軽く肩を竦められた。

 そうして歓談というか、ほぼ合コンが始まったわけだけど、男子どもは上流階級の者として躾けられているし、必要な事として知識も勉強しているから、ちゃんとやれば如才なく話ができてしまう。幼年学校の龍一くんが少し無骨な話題が多いくらいで、逆に虎士郎くんは音楽方面を中心に話題には事欠かない。


(対する女子だけど、上流階級って子はいないのね)


 姫乃ちゃんのお父さんはリーマン。他の成績優秀な女子の内もう片方も似た感じ。別の一人は、そこそこ上流の出だ。そして二人とも、姫乃ちゃんほどじゃないけど可愛い。


(スペック高い子って、見た目スペックも高いのが多いわよね。やっぱり、持てる者同士が関係を結んでいくからなのかな)


 話しつつ、埒もないことを思ってしまう。

 そして何より、見た目も中身も超が付くハイスペックなのが鳳一族だ。勿論、ゲームの設定通りだから当然だろ、と言えるのは私だけ。

 それでも財閥としても華族としても地味な時代は、世間に知られていないし華族としてはともかく、財閥として見てくれはどうでもいい。ただ中身がハイスペックでも、目立つ事もなかった。


 しかし、もはや世界的な生ける伝説になってしまった紅龍先生、陸軍で出世街道まっしぐらなお兄様がいて、しかも鳳グループはこの10年ほど空前の成功に次ぐ成功を重ね、今や日本屈指の大財閥。そんなグループを主に率いているのも、一族の人間。だから世間から、鳳一族は注目されるようになっている。


 そんな中での私の評価は、総研が集めた情報通りなら、篤志家気取りの変わり者。しかも持っている財産が破格なので、やる事が世間外れしすぎている、という辺りだ。ただ、一応は善行を積んでいるから、人気が高いというか『鳳の御姫様(おひいさま)』として感謝されているらしい。

 私の死亡フラグ回避の為にも、実に良い事だ。

 『鳳の巫女』という話が水面下に潜ったままなのも、まあそれなりに有難い。


 私以外の子供達は、まだまだ子供としてしか見られていない。

 例外は虎士郎くんだけど、虎士郎くんの評価は音楽分野だから、突飛な才能の持ち主としてだ。知性としてなら、幼年学校首席の龍一くんが、親の七光りじゃないかもしれないと陸軍内で見られ始めている程度だろう。玄太郎くんは、ただの学生でしかない。輝男くんに至っては、誰の眼中にもない。

 山崎家の勝次郎くんも、次世代以降の人材としてはともかく、現時点ではただの御曹司の中坊だ。


 対する今日の女子達だけど、こう言う時は特に如才なさすぎる瑤子ちゃんはともかく、みんな舞い上がっている。姫乃ちゃんも例外じゃない。けどまあ、相手が王子様みたいな男子どもだから、女子としては仕方ないと思う反面、感謝しろよとちょっとだけ思う。

 そしてさらに姫乃ちゃんをこっそり観察するけど、特定の誰かをターゲッティングした風には見えない。


(そう言えば、ゲーム初期の感情ってどうだったかな?)


 そこで、私の本来の目的である攻略対象と姫乃ちゃんの事を、みんなと如才なく話しつつ頭の片隅で思い出す。

 

(基本的に攻略対象は、姫乃ちゃんにあまり関心はなく、一目惚れとかはしてくれない。姫乃ちゃん、というかゲームプレイヤーが積極的にアプローチをかけた相手が、ようやくヒロインの良さ、ヒロインの可愛さに気づくのよね。ただなあ、この男子どもは一族内で美形慣れしすぎていて、分け隔てもしないけど美少女に関心が薄いんだよなあ)


 そう、この男子どもは、私に対しても褒めてはくれるけど、余程の時でもないと意識すらしないのを思い出した。

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