【再掲&分割】07 後編 野良犬に与える慈悲か、挽歌か
◇
「……キャプテン……ワタシハ……シヌノ?……」
『……ratatatatt!』『tatatang!……』
「おい、サマーフィールド上等兵! 諦めるな! まだ助かる! クソッ、衛生兵はまだか!?」『TATATANG!』『……tatatatata!』
クソッ、油断した。
俺がサマーフィールド上等兵から目を離した一瞬の事だ。
苦い初陣から彼女は生き残り、戦歴を重ねた今となっては、いっぱしの兵士であり、野良犬の仲間入りしたものだと安心しきった俺のミスだ。
彼女は優しすぎた、故に戦地でさ迷う子供を放って置けなかったのだろう……罠であるとも疑わず。
いつか躊躇なく撃った俺とは対照的に……戦地の理不尽、悪意が巡り巡ってその牙を彼女に向けたのだ。
「……キャプテン……サムイデス……」
突き立てた牙のごとく、彼女のボディーアーマーを突き刺し、貫通した弾丸が体内で暴れたらしい……クソッ、運が悪いな!
今すぐ出来ることは止血……クソっ! 止まれ、止まれ! ジーザスのクソッタレ!
お前に尽くそうとする彼女を救えないのか!?
『Ratatatatt!』「キャプテン! 援護します!」『ratatatatt!……』
『……tatatatata!』
「トム! 頼む! 彼女を救うぞ!」
「イエッサー! covering fire!」『『『ratatatatt!』』』『tatatang……!』
頼もしい5.56mmの援護だ。
この弾幕に紛れて後退のチャンスタイムが訪れたことで、動けぬ彼女を持ち上げ……いや、出血が酷すぎる。
すまん、このまま引き摺るしか無いか。
「ジェニファー、すまんが引き摺るぞ? 傷口をしっかり押さえてろ!」『TATATANG!』『……tatatatata!』
「……ハイ、アリガトウ……キャプテン……ウウッ……ママ……タスケテ……」
「おう、ママのいる家まで送ってやるからな! まだ向こうに行くんじゃねーぞ!!」『TATATANG!』『……tatatatata!』
よし、今からフォレスト・ガンプのように駆け抜けてやろうじゃねーか。
サマーフィールド上等兵、お前を絶対に助けるからな!
「キャプテン!……『ratatatatt!』……伏せて!!」
「 R P G!!」『……zooooooOOOM!』
「クソがっ!……『BUMG!!』……」
サマーフィールド上等兵を救うと、確固たる決意をしたその瞬間、撃ち放たれたRPGー7はこちらへ向かって飛翔し、すぐそばで着弾した。
咄嗟に伏せて耳を覆ったものの、あまりに近過ぎたのか、鼓膜がやられて耳鳴りが止まらない。
『……rat……ata……tatt……!』
『『……ta……ta……ta……ng……!……』』
『キーン』と言う音を縫うように、スローモーションの銃声が入り込んでくる……俺は、生きている?
……手足の感覚はある、身体は痛むものの力はしっかりと入る…』耳鳴りだけはしばしのお付き合いか……帰れクソッタレ!
……それよりもサマーフィールド上等兵は無事か!?
「…………」
駄目だ、よく聞こえない……おい、嘘だろ?
『……ta……ta…!ta……ng……!……』『……rat……ata……tatt……!……』
サマーフィールド上等兵?……おい!……お前、脚はどうしたんだ?……さっきまでは"あった"だろ?
「───!───!」
「…………」
クソが! 止血帯はどこだ!?
クソッタレ! ジーザスのクソッタレ!
お前に仕える為にな!……聖職者を目指している小娘だぞ!? おいっ!
『……ta……ta……ta……』
止まれ、止まれ! 止まれ!!……よし、次!
『……ta……ta……ta……』
クソッ! 落ち着いて処置ができない!
すまん、抱えて走るぞ!
痛いどころじゃないけど我慢しろよ!
お前をママのいる家まで、無事に返してやるからな!……不便な思いをするかもしれないけど……ダン少尉のようにお前を救うぞ!
魔法の脚でも良い、お前は絶対に生き残るんだ!
俺がフォレスト・ガンプのように走って、お前のことを救ってやるからな!
生きて帰るんだ!
退役したらさ、フォレストのように会社を興して……お前を雇ってやるよ! 一生な!
だからさ、お前をババのようには死なせやしない!
『……ta ……tatang!』『ratatatatt!……』
よし、耳鳴りよさらばだ!
「キャプテン! 急いでください!」『ratatatatt!』
「おう! サマーフィールド上等兵! もう少しだ、うちに帰れるぞ! 頑張れよ!」
「……ママ?……ママ……ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……」
ジーザス!……この野良犬に慈悲を!……この迷える子羊を、どうか救いたまえ!……このクソッタレ!───。
◇
「……あんたね、ちょっといい加減にしなさいよ? ここは冒険者ギルドじゃないのよ!……って何度言えばわかるのよ?」
いつものように、『ジーザスのくそったれ!』と念じて天を仰げば、雲の世界で大抵は暇そうにしている、女神見習いであるジーザスを目の前にする様式美。
たまに転生者と鉢合わせする事もあるが、毎度持参する手土産を見ては震え上がり、首実検の様子を見せ付ければ魔王に逆らう気も失せるのか、即転職を希望する賢さは誉めてあげたいね。
もちろん転生した場所を突き止め、抜き打ちで家庭訪問をすれば面白いように取り乱し、命乞いをしてくるものだから無益な殺生は避けられる。
顔が割れてしまっているのは気になるものの、己の力量を知るものは君子危うきに近寄らず、触らぬ神に祟りなしの様子。
その一方、己の力量を弁えずに過信する者は……ま、わざわざ介錯をしてまで持っていく手間が省けて何よりだ。
あの時だったか、生々しい解体の様子にジーザスが粗相するのは仕方ない。出来れば見たくないからね……アーメン。
「お前のところに持ってきた首はこれで60……何人目だったかな? 全く、いい加減にして貰いたいものだよ。旅先で打ち捨てたものも含めるとキリがない。数えるのすら面倒になったよ……」
おかげで介錯、斬首が上手になったもので、例え相手が生きていようといまいと関係ない。
前世で仕込まれたがあまり出番の無かった、最早趣味の領域の技術が向上して弾の節約にもなって善きかな……この手に残る感触、感覚を記憶として刻んでしまったけれどね。
「即席培養の作られし勇者ならまだしもね、選ばれし勇者、転生者がこうも簡単にやられるなんて……あんた、どんだけ化け物なのよ!?」
ジーザスが驚くのも無理はない。
前世以上の戦闘能力を度外視すれば、同じくして引き継いだ、信頼出来る飛び道具の恩恵がとても大きく、扱いに長けていればなおのこと、咄嗟の本能的な動きであってもどうにでもなる……。
おまけに魔法も使える、地味に便利だ。
何より、例えいくら強大な力を持とうが、どうにもならない不確定要素がある事を無視は出来ない。
「戦歴で言ったら少なくとも20年早い。まずはそうだな、戦地に身を置いて生き延びないとな……幸運にも20年生き延びた、そんな俺ですらあっさり死ぬような場所だぜ? それまで武器を持ったことすら無い素人を送り出せば、相当の強運じゃない限りはそうなるだろ?」
不運にも選ばれし孤児や失業者等、身寄りの無い者を国が勇者と称賛して餞別、手切れ金と言う三下り半を渡して送り出せば養う必要もない。
自国の軍事力や財政へのダメージが少なく、おまけに治安も良くなるからか、魔王の存在を有効活用してくれるのは良いが、一々対処、対策、対応しなければいけないこちらの身にもなって欲しいね。
「……あんたを相手する時点で運が無いわよ?」
「それは違いないね、HAHAHA!」
毎度運がないのはお互い様か、どういう訳か出先であっても勇者との遭遇率が高すぎるけどな。
「……鑑定の結果だけど、選ばれし勇者ね……あなた、出先で遭遇したのよね?」
「そうだが……もしかして魔王のところに導かれるとでも?」
「……そうよ、選ばれし勇者は惹かれるようにいずれ魔王の元へ辿り着くわ」
ジーザス!!
通りで遭遇率が高いわけだ。これじゃあおちおち素敵な女性をナンパ出来ない訳だよ……。
もしもだけど、チャーミングなジト目をした狐顔美人で、超ドストライクのお姉ちゃんと良い雰囲気になった時に来たら……ああ、それこそ世界を滅ぼしてやりたいね。
「おいおい、それじゃ俺の気が休まらんだろ? 気配を察知できるだけ良いけどさ……」
「良い様ね、魔王の宿命として受け入れたら?」
おう、ジーザスのくそったれ!
「おかげでこの世界を存分に楽しめないね。素敵なお姉ちゃんとホットな時間を過ごすより、人を斬った数の方が圧倒的に多いなんてね……」
「……最低、セクハラよ!……汝、姦淫することなかれ……汝、殺すことなかれ……。あんたにぴったりじゃないかしら?」
「HAHAHA! 聖書を引用したブラックジョークか? 前世で孤児、今はただの根なし草だった俺に敬う父母なんていないけどね?……しかし、そんなものがこの世界にもあるんだな?」
「……えぇ、似たようなものがあるけど、あんたもよく知っているわね?……それと、ごめんなさい。今のは失言だったわ」
意外と律儀な奴で感心するよ。意外だからたまに弾が出るんだけどね? HAHAHA!
「あぁ、気にするな……そういえば、話変わるけどいいか?」
「何よ?……また、生首の話とかはやめなさいよ?」
あの時のトラウマか、毎度話題を変えようとする度にこの反応されるのはちょっと酷くないか?
またいつものように一呼吸置いてスルーしよう。
「前世でお前と似たような生意気な奴がいてな……いつも空いた時間は、熱心に聖書を読んでいてね。暇なときに読み聞かせてもらったりして教わったんだ。そいつは退役したらさ、聖職者になるんだって、言ってたな……」
「そう……あんたの部下だったの?」
「厳密には違うが、まぁそんなところだ……何の偶然か、ジェニファー=S・サマーフィールド上等兵……ミドルネームは何て言うのか知らんけど、お前と名前が一緒だったな」
「そう……キャプテン、あなたに神のご加護があらんことを」───。
◇
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