第35話 復学?

カーン、カーン、カーン、カーン、カーン


ざわ、ざわ、ざわ、ざわ、ざわ

パンッ、パンッ、パンッ

「はい、静粛に!皆さん方の中でも、休暇中に色々とあったと思いますが、今日から新年度です。色々と身を引き締めて、新たな気持ちで望みましょう」


バイセル講師は手を叩いて厳格に皆に公言すると、ボクの方を向いてウインクした。

はぁ、ボクは、ため息をして引き続き、彼の講義を聞く体制を取る。


学園に戻って三日目、この数日は怒濤の如くだった。

その理由は、数日前に遡る。





「あなた、男に戻るつもりはある?」


「え、エレノア様!?今、なんて」

「何をそんなに驚いてるの?私は只、『男に戻るつもりはある?』って聞いたのよ」


エレノア様は、改めて木陰のベンチに座り直し、ボクの方を見直す。


そりゃあ、男に戻れるものなら男に戻りたい。戻りたい。戻りたいよ!


こんな隠とん生活じゃ、まともな研究も出来ないし、設備も薬剤も足りてない。

学園の研究室なら、全国の薬草は手にはいるし、外国の薬草だって取り寄せ出来る。

皇国立図書館の文献は無料で読み放題だし、絶えず新しい学術書だって手に入る。

世界で一番、研究を続ける環境が整ってるのが、クライアス皇国国立せんとオーディン学園の研究室なんだ。


「戻れるものなら、戻りたいです。戻って学園で研究を続けながら、薬師試験に合格したい。それがボクの目標でしたから」

「いいわよ、あなたを男に戻してあげる」


「はいぃ!?エレノア様は、ボクが男に戻る方法を知ってるんですか?」

「ええ、知ってるわ」


そ、そんな馬鹿な!?

ボクが偶然の中で出来た、あの薬に変わる物がある?

あらゆる研究資料は、ジーナス皇太子殿下に廃棄され、ボクですら、この半年の研究でも再現出来なかったのに?


「お、教えて下さい!ボクが男に戻る方法を!!」

「なら、私の条件、飲んでくれるかしら?」


「条件……?」

「その条件を飲んでくれないと、私もあなたを男に戻せないの」


ニッコリと微笑む、女神の如きエレノア様。

でも、なんだろうか。

なんとなくだけど、悪魔の囁きにも聞こえる様に感じるんだけど?


でも、エレノア様の条件を聞いてからでも遅くないと思う。


「エレノア様、その条件を教えて下さい」


「ふふ、私の条件はね、あなたがレブン▪フォン▪クロホードとして、私の婚約者になる事よ」

「はい?」


「分かってないようね。つまり 貴女あなたが、のレブン▪フォン▪クロホードとして私の婚約者になり、学園の研究員にもどる事。それが私の条件よ」

「……婚約者?男としてエレノア様の?え??ボクを男に戻せる訳ではない???」


「馬鹿ね、私に貴女を男性に戻せる薬が作れる訳無いでしょう?でも貴女は、この国の戸籍上は男性だし、男性のレブン▪フォン▪クロホードのままなら、そのまま学園にも戻れるわ」

「な、なるほどって?!でも、それじゃあ、あのジーナス殿下に捕まって、無理やり皇妃されちゃいますよ!?」


確かに、レブン▪フォン▪クロホードとして通えるなら願ったり叶ったりだけど、ボクの貞操を狙っているジーナス他、二人に会うのは遠慮願いたい。


「その辺は抜かり無いわ。陛下から三人に対して、接近禁止令を出してもらうから。3メートルでいいかしら?」

「陛下……ええっ!?その、ジーナス殿下の……」


「勿論、ジーナスの父親、クライアス皇王陛下よ」

「ひぇえ、クライアス皇王陛下、本当に?」


「私を誰だと思ってるの?この国の公爵令嬢よ、そのくらいは当然だわ」


流石、エレノア様だ。根回しが凄い。

けど、男として学園に通うのに、何でエレノア様と婚約しないといけないんだろう?


「その話は分かりました。ボクにとっても、大変魅力的なお話しです。けど、元々のレブン▪フォン▪クロホードに戻るのに、何でエレノア様の婚約者になる必要があるのですか?」

「三人だけで済むと思ってるの?」


「はい?」

「……はぁ、あなた、少しは自覚はさいな。貴女の容姿は、男を狂わせるくらいのレベル。言ってみれば魔性の女ね」


「ま、魔性の女!?」


何ですか、その恐ろしげな言葉は!?


「それに、その銀髪は希少。皇国でも殆どいない銀髪。元々、クロホード家は隣国、シスレーン神聖皇国の聖女の流れを汲む家系。この百年、あなたの家では女性が生まれてないから良かったけど、今の貴女なら、あのシスレーンが放っておく訳がないわ」


「はい?シスレーン神聖皇国が!?」

「あの国は、三女神信仰をしているのは知っているでしょ?けど、その中でも一番上の女神、天候を司る女神アイリスを信仰しているの。女神アイリスは月の女神でもあり、その容姿は、銀髪に碧眼、白く透き通るような肌の色よ。そう、今の貴女の様に」


な、何だってぇ!?

シスレーンの聖女なんて冗談じゃない!

貞操は守られるけど一生、籠の鳥だよ。



「だから、私の婚約者である必要がある。万が一にも、シスレーンの聖女探索に引っ掛かるのは貴女も不本意だし、面倒でしょ。その為の婚約者よ。私としても婚約者がいれば、下手な求婚者から逃れられる。貴女は研究と薬師試験に集中出来る。元に戻る為の研究も出来るわ。引き続き、パトロンとしてバックアップはしてあげるわよ」


ここまで考えてくれたのなら、エレノア様の話しに乗らない手はない。


こうしてボクは数日後、エレノア様の手配でクライアス皇国国立せんとオーディン学園の生徒、レブン▪フォン▪クロホードとして、返り咲いたのであった。



勿論、男装した男としてである。

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