第6話 隣国ザナドウ

隣国ザナドウ。

この国はクライアス皇国より北に位置し、広大な魔森という魔獣が住まう森と、北方の山岳地帯からなる山と森の国だ。人口はクライアス皇国より多く、魔森の魔獣を狩る狩猟民族から発展したらしい。

平地が少なく、必然的に農耕に適した土地も少ない。その為一度、飢饉が起き、国民が暴動を起こしかけた。

その時のザナドウの王は、失政に対する国民の怒りの矛先を変える為、クライアス皇国に戦争を起こしたのだ。表向きの開戦理由は、クライアス皇国の国境侵犯というものだったが、今ではそれを信じている者は、殆んどいない。

結局、国境付近で小競り合いを続けている内に、ザナドウで政変が起き、ほとんど刃を重ねぬまま休戦となり、今に至っている。


「と、言うのが隣国との関係かな。まあ、あの国は依然として食糧難だし、最近は凶暴な魔獣が増えて、近隣の町や村が襲われているらしいから、政権は未だ不安定。いろいろ国をまとめるのに苦慮しているから、今のところ、戦争を再開する余力なんてないよ」

「ふーん、そうなんだ。なら、ベナティア村は大丈夫だね」


いつもの事だけど、今日もマイリちゃんがやって来ていた。

なんでも、村の外れに隣国の兵士の姿があったらしくて、心配になってボクのところに聞きに来たらしいのだ。ベナティア村は、隣国の魔森が近い国境の村だから、おそらく魔獣を討伐していた隣国の部隊が、道に迷って村の外れに出てしまっただけだと思う。


「はぁ、マイリちゃん。すっかり常連さんだけど、その後のお母さんの調子はどう?」

「うん、すっかり元気だよ。全部、けんじゃさんのお陰だよ。有り難う、けんじゃさん」


「なら、良かったよ。それでランス君は約束を守ってくれたよね」

「……う、うん」


「そう、ならいいよ。マイリちゃんも、危険だから一人で此処に来るのはもう、最後に」

「大丈夫だよ、けんじゃのお姉さん。だってお姉さんに貰ったボノボ草の【魔獣避け】、スッゴク効き目が有るって、村で評判になっちゃったんだ。教わったレシピ通り作ったら、近くの町からも買い付けに来てくれる人が増えて、大繁盛。お母さんが村長さんから借りたお金も返せたし、これもみんな、けんじゃさんのお陰だよ」


「そ、そう?それは良かった」

なんだ、あのボクが作った【魔獣避け】って、そんなに人気だったんだ?なら、それをボクが町で売れば良かったな。今からでも考えるか。


「でも、先日、領主専属薬師さんが来て、うちで作った【魔獣避け】は薬扱いだから、薬師ギルドを経由しないと販売出来ないって言われたの。今後は領主専属薬師さんに私達が納品し、薬師ギルド経由で販売する事になったよ。納品価格は安くなっちゃったけど、煩雑な接客をしなくてよくなったから、兄ちゃんと母ちゃんも、楽になったって喜んでいたよ」


駄目じゃん?!

また、薬師ギルドに邪魔された!

はあ、ボクはいつになったら金貨十枚を稼いで、隣国に渡れるんだろうか。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



◆とある魔森の奥地

マイリがレブンの所に来る少し前

とある人物視点


『グオオオオーーーッ!!』

『ガオオオーーーーーーッ!』


「な、鬼熊おにぐまつがいだと?!」

「殿下、お逃げ下さい!」


「逃げるだと!私が一人で逃げる訳にいかない」

「殿下、殿下の御身は我が国の宝、こんなところでお命を掛けてよいはずが有りません。ここは我らが死守します。どうか、我らの気持ちを汲んでお逃げ下さい。お前達、我に続け!」


「「おお、ザナドウ、万歳!!」」





ああ、私の逃げる時間を稼ぐ為に、大事な私の従者、三人が 鬼熊おにぐまに突撃して行く。

済まない。私が自ら魔獣討伐に行くと、我がままを言ったばかりに、従者達に命を掛けさせてしまった。

彼らに報いる為にも、何としても生き残らねば!



はあ、はあ、はあ、私は闇雲に魔森を走った為、帰還する方角が判らなくなっていた。

くそ、ここは、いったい何処だ?


ガサッ、ブフーッ

「!?」


ドカァッ、「う、うわあああ!!」

ドカッドカッドカッドカッ………………


あ、ぐっ、ポイズン▪ボア?!

突撃されて、毒の牙を腹に受けてしまった!不味い。解毒薬が無ければ致命傷だ。


うう、身体が寒い、目眩がする。くそ、もう毒の影響が……ぐ、駄目だ。私は何としても、生きて帰らなければならないのに……ああ、意識が 朦朧もうろうとす、る。



ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ


な、んだ、人の気配がする?

私の前で、立ち止まった。近隣の、村、まで来れたのか?


「す、すまない。何処の、誰、かは知らないが、さ、先ほど、ポイズン▪ボアの、牙を受けて、しまった。解毒、薬があれば、た、頼む。礼は、い、幾らでも、す、る。私は、こんなところ、で、死ね、ないのだ、頼む」


「分かった、もう、喋らないで。今、助けてあげる」

「あ、ありが?!」

な、なんて美しい声な、んだ。まさに、玉を転がすような……うう、目が、見えずらい。意識が保っていられない。何としても、助けてくれると言った、この人の、姿、を……


?!!!!!!!


て、天使?!天使が、いる!


それも、大変に豊満な胸の……ああ、神殿の女神像に豊満な胸を付けた様な、あああ、私だけの天使……



神様、有り難う御座います…………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る