第88話 和解
-数日後
@ノア6
「お帰りなさいませ、ヴィクター様」
「「「 お帰りなさいませ、ご主人様 」」」
俺は現在、久々にノア6へと帰還していた。というのも、Cランクに昇格してから……いや、それ以前から調子に乗って車を使い過ぎていたので、用意していた燃料が尽きそうになっていたのだ。その他にも、弾薬補給や武器の整備、俺のメディカルチェック、色々と入用な物(ゴムとか避妊薬とか……)の補充が必要だった。
その為、今回は3日ほど休むことにして、ノア6に休暇に来ていた。カティアは、モニカと留守番だ。まあ、適当な依頼でも受けている事だろう……。
「カイナさんは車の燃料補給、ノーラさんは車内の清掃、ジュディさんは荷台の予備の燃料缶の補充をお願いします。」
「「「 はい! 」」」
ロゼッタの指示に、3人はテキパキと荷台の空缶を運んだり、車内に掃除機をかけたり、給油をしたりと、仕事を始める。
今使っている車は、何の変哲もないディーゼルハイブリッドの車なので、軽油があれば問題ない。軽油自体は街でも販売されているのだが、やはり崩壊後の物は信用が置けない。変な混ぜ物で、エンジンがダメになったら
「ではヴィクター様、こちらに……」
ロゼッタに連れられて、医務室へと入る。崩壊後の世界で活動していて、何か体に悪い影響があるかもしれない為、定期的なチェックは欠かせない。
「では、お召し物を失礼します」
ロゼッタに服を脱がされて、メディカルポッドに入る。採血やら検査をしている間、ロゼッタのたわわを眺めながら会話をする。
「そういや、今日は皆メイド服じゃないんだな」
「ええ。各自、思い思いの物を着て貰っています。……もしかして、以前の方がよろしかったでしょうか?」
「いや、暑いだろ。今のままでいい。……ロゼッタも似合ってるな」
「ありがとうございます。申し訳ありません、あまり適当なものが作れなくて……」
今日のロゼッタは、ゆったりとした白いTシャツとデニムのホットパンツという、涼しげな格好をしている。だが胸が大きい為か、シャツが持ち上がり、チラチラとヘソが出てしまっていた。とてもエロい……。
「あの、ヴィクター様の脈拍が急に上がったのですが……」
「……ごめんなさい」
ロゼッタは胸が大きい為、彼女の身体に合った服が少ないのだ。彼女の胸が大きいのは俺のせいなので、何とかしてあげる責任があるだろう……。幸いにも、それが可能な人間が身近にいることだしな。
「そういえば、前に話した娘……時期を見て連れてくるよ」
「ああ、あのヴィクター様が購入された。確か、モニカさんでしたね」
「ああ。だから、悪いがしばらく我慢してくれ」
「お気使い、ありがとうございます。それで、本日のご予定をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。例のロボット達は準備できてるだろ? あれの配置に行く。昼食後に出発かな」
「了解いたしました。準備しておきます」
「ああ、それから今回はあの3人を外に出す。装備を持たせて、入り口に集合させておいてくれ」
* * *
-昼
@ノア6 入り口
「ヴィクター様。準備完了しました。」
「……こう、数が揃うと壮観だな」
ノア6の入り口には、治安維持ロボットのテトラローダーがずらりと並んでいた。俺が銀行から回収した物や、死都でうろついていたのを拉致してきた物達を、整備・改修した物達だ。
これらを死都に一定の間隔で配置し、パトロールさせることで、ノア6-秘密基地、秘密基地-カナルティアの街間の安全な経路を確保して、移動時間を短縮するのが今回の目的だ。
今回の仕事は、連れて行くロボットの数が多く、一度に出発できる機体数が限定されることと、効率を考えて2チームに分けて行うことにした。
第1陣は、俺とジュディで秘密基地-カナルティアの街間のロボットを配置しに行く。続く第2陣は、ロゼッタとカイナ、ノーラの3人でノア6-秘密基地間の配置を行う予定だ。
正直、俺とロゼッタだけで充分だが、3人もたまには外に出ないとストレスが溜まると思い、同行させることにした。
「では、私達は第2陣で出発致します。お気をつけて……」
「ああ、頼むぞ。ジュディ、来い!」
「は、はい!」
今回は、皆安全の為に強化服を着ているのだが、まるで映画のキャットスーツを着た女スパイ集団にしか見えない。これはこれで、目の保養になるな。
ロゼッタとジュディに関しては、二人共良い身体をしている為に、セクシースパイといった感じだ。……バイクとか乗り回してそう。
カイナとノーラも、仮装イベントに気合い入れて来た娘って感じで、これはこれでいい。
「あ、あの……ご主人様?」
「ん? ああ、じゃあ車に乗ってくれ」
「では、ゲートを開きます!」
ロゼッタの号令と共に、ノアのゲートが開かれる……。
* * *
-数時間後
@死都 秘密基地周辺
「さてと、コイツで最後だ。ちょっと、設置がてらガラルドに挨拶して行くかな。それと……」
ノア6を出てから、俺は秘密基地までを直線で駆け抜けた。何せ後ろには、最強のロボット兵団がいるのだ。途中、何度かミュータントの襲撃があったが、全てねじ伏せてしまった。
順調に経路上に配置を終え、後は秘密基地内に設置すれば完了だ。念のため、秘密基地の内と外に1台ずつ配置することになっているので、いずれにせよ、中まで入る必要がある。
*
*
*
秘密基地の地下駐車場に入って、ロボットの設置を終えると、ジュディに向き合う。今回ジュディと来たのは、彼女が裏切らないか……完全にこちら側に引き込めているかを、確認したかったのだ。箱から出した時は恭順を誓っていたが、気持ちが変わらないとも限らないからな。
一応、ロゼッタによる精神鑑定の結果は問題無さそうだったが、自分で確認しておきたかったのだ。
「ジュディ、聞きたい事がある」
「な、何でしょうか……ご主人様……?」
「それだ。お前、前はもっと勝気だっただろ? 無理してないか?」
「そ、それは……」
「まさか、演技してるのか?」
「ち、違います! そんな事してません! 口調は今、直してるところで……」
「まあ、いっか。とりあえず、ソレ外すぞ」
「えっ?」
カチリと言う音と共に、ジュディの拘束首輪が外れ、地面に落ちる。これで、ジュディは俺に対して危害を加える事が出来るようになった訳だが……。
「えっ……外れ……た!?」
「ほら、首輪が外れたぞ? 今なら、自由になれるがどうする?」
「ッ!?」
「お前はどうしたいんだ?」
ジュディは驚いた表情を浮かべ、呼吸を荒くする。困惑しているのか、額からは汗が滴っている。
「このままでいいのか? それとも、野盗に戻るか?」
「……や、いやだ! もう、そんな事したくないッ!! 私はここで、皆と一緒にいたいんだッ」
「そうか。それで、お前は俺が求めたら、その身体を差し出すか?」
「もちろん、いつでも!!」
「え、なら証明して欲しいなぁ……なんて……」
ジュディは、おもむろに強化服のチャックをおろしながら俺に抱きつくと、俺の唇を奪った。
「……!?」
「ぷはっ……ど、どうですか? このまま最後までヤりますか?」
「す、ストップ! お前、今日ダメな日だろ!? 分かったから、やめろ!」
「は、はい……」
「お前の気持ちはよくわかった。これからも俺たちといろ!」
「はい、ありがとうございますッ!」
「それから……ジュディ、すまなかった!」
「えっ?」
そう、俺はジュディに謝りたかった。ジュディにした仕打ち……アレは酷すぎたと後悔していた。とても許される事ではないと思うが、今日は二人きりのこの機会に、先の仕打ちを謝ろうと思っていたのだ。
「その……前に色々と酷い事をしただろ? ずっと謝りたかったんだ。ほんとにすまん」
「い、いや……あれはアタ……私が悪かったんです! 意地を張って、ご主人様の手を煩わせて。マ……ロゼッタさんから聞きました。あれは私を更生させる為に、仕方なかったんだって!」
「……」
「ご主人様のおかげで、私は自分の居場所を見つける事が出来ました。感謝こそすれ、恨む事なんてありません!」
「でも、無理矢理お前の純潔奪った男だぞ? そんな奴を許してくれるのか?」
「確かに、あの時は恨みました……。でも、ご主人様はちゃんと責任を取ってくれてるじゃないですか!」
「ん、責任? 何だそれ?」
ジュディから聞いた話をまとめると、崩壊後の女性は貞操観念が高く、“男女の仲になる=結婚が前提”と考えている者が多いみたいだ。大方、男に責任感を持たせる様にする為だろう。
最近フェイがやたらと、俺との結婚をチラつかせてくる理由も分かった気がする……。
どおりで、俺が性欲を溜め込んだ時、街中でナンパが上手くいかなかった訳だ。……もちろん、単に俺に魅力が無かっただけかもしれないが。
それに、この話を今日聞けて良かった。この3日の休暇の間に、カイナとノーラを頂こうと思っていたのだ。……いつも以上に気を遣わないとな。
「それに……」
「うん?」
「私……じ、実は自分より強い男にしか抱かれたくなかったので……だから、ご主人様は私の理想の男性なんですよ?」
「ア、アリガト……」
「ですので、私に出来る事であれば、何なりと……」
「あっ……じゃあさ、喋り方を元のヤンキー姉ちゃん風に戻してくれよ。お前、何か無理してそうだし」
俺は、ジュディが
「えっと……ヤンキー姉ちゃんって、何ですか?」
「……ウチに来る前の喋り方でってことで」
* * *
-30分後
@死都 ノア6近郊
「スゲェ、あっという間に着いちまうな……」
今まで、秘密基地からノア6までは、2〜3時間かかっていたので、これは物凄い時間短縮になる。全く、ロボット様々だな。
「あの、ご主人様」
「ごほん! ……口調」
「あっ! えっと、ヴィクター……聞きたいん事があんだけど……」
「何だ?」
「アタシらに頼みたい仕事は分かったよ。けどさ、そんな遠くないじゃん……わざわざアタシらが常駐しなくてもいいんじゃないの?」
「……」
ジュディには先程、彼女達に任せたいと思っていた、秘密基地の管理人の仕事について話した。その話を聞いて、自分達が何の為に日頃から訓練されているのかを理解したようだ。
だが、ジュディからの思わぬツッコミに「確かに……」と思ってしまった。安全な経路が確保された以上、定期的に様子を見に行けば、秘密基地の保全は出来るだろう。
……うん。彼女達の事は、考えておこう。
* * *
-数分後
@ノア6
ノア6に帰ると、先に帰還していたロゼッタ達が待機していた。
「ヴィクター様、お疲れ様でした」
「ああ、そっちもご苦労様」
「この後は、如何しますか?」
「う〜ん。久々に、ウェイトトレーニングでもするかな。ジムに行くよ」
「かしこまりました」
「あっ、ジュディを連れてくから。お前達は自由にしていいぞ」
ジュディは、アスリートみたいな身体をしているので、どの位の重量を挙げるのか気になるのだ。趣味も筋トレらしいし、運動する女性は美しい。目の保養にさせてもらおう。
「ほらジュディ、行くぞ」
「はいよ、今行く」
「「「 !? 」」」
「あのジュディさん、言葉使いが……」
「ああ、ロゼッタ。言葉使いの矯正、今日でやめていいぞ」
「は、はい。分かりました」
彼女達に丁寧な言葉使いをさせていたのは、彼女達が孤児だと聞いて、俺が偏見を持ったからだ。孤児だから、丁寧な言葉使いとか知らないんだろうなと思って、ロゼッタに矯正を頼んでいた。
だが、いざ彼女達の出身であるウェルギリウス孤児院を見たら、子供達はあの神父の下に厳しく教育されていた。まあ、カティアのような例外のバカもいるだろうが、見る限りこの3人は大丈夫そうだ。やれと言われても、できるだろう。
その後、ジムでジュディとトレーニングをしたのだが、彼女は体重当たりの出力がとても大きかった。女性なのにそこら辺の男では、まず挙がらない重量のウェイトでトレーニングしていたのだ。
流石に俺のウェイトの方が重いが、負けられないと感じ、いつもより張り切った結果、後日バキバキに筋肉痛が襲いかかってきた。
良かった事と言えば、パンプアップしていたせいか、夜カイナに「ご主人様って、超ムキムキっすね!?」と言ってもらえた事か。……褒め言葉だったかは分からないが。
□◆ Tips ◆□
【合成石油】
人工的に調整を施された藻類や、微生物から生成された炭化水素より作られる人工石油製品。計算上は、炭素循環を崩さず、合成石油の燃焼により生じる二酸化炭素は、合成石油精製時に相殺されるとされ、エコなエネルギーとして利用されていた。
また、これらの藻類や微生物は、浄水施設でも利用されており、水の浄化と燃料の精製が可能であった。しかし、大量の水を浄化するのは無理があり、生活排水の少ない地域の浄水施設に採用は限られていた。
この技術の確立により、電気自動車の製造にかかる環境負荷と製造コストが、従来の内燃機関車を上回る事になった。結果として、内燃機関からEVへと主流が移っていた自動車産業は、完全に内燃機関へと主流が逆転することになった。
【死都用テトラローダー】
テトラローダーに、セルディア中央銀行から頂戴したレーザータレットを改造した、小口径レーザー砲を搭載した物。多数存在し、死都を常時巡回する事で、ノア6までの安全な経路を確保している。
安全な経路といっても、それはヴィクター達にとっての話であり、他の人間にとっては危険度Aのロボが
テトラローダーは、衛星で発電された電力を無線送電されて動いている為、実質無限の動力源を持つ。その為、電力を動力とするレーザー砲との相性が良く、従来の機種よりパワーアップしているといえる。
[武装]・6.8mm口径機関銃×2(両腕)
・18.4mm小型滑腔砲×2(.12ゲージ用スタン弾を主に使用、両腕)
・60mmグレネードランチャー(右肩)
・小口径レーザー砲(左肩)
【秘密基地防衛用テトラローダー】
地下駐車場内という閉所での戦闘を想定して、外付けの装甲板を増設し、いざという時に敵の攻撃から守ってくれる、遮蔽物として機能するようになっている。また、肩部のグレネードランチャーを撤去して、代わりに小口径レーザー砲を両肩に装備した。それに伴い、コンデンサーやラジエーターを背中に増設した為、通常のテトラローダーよりもゴツい外観をしている。
[武装]・6.8mm口径機関銃×4(両腕)
・小口径レーザー砲×2(両肩)
・発煙弾発射機(腰部)
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