第73話 腕潰し
-夕方
@街北部地区 ブラックマーケット
《3人の様子はどうだ?》
《皆さん、ちゃんと話を聞いてくれますが、教えるという行為は実に難しいものですね。マイクロマシンが無いと、こんなにも苦労するとは思いませんでした》
《すまん、苦労をかけるな》
《いえ。ですが、同時に楽しさを感じています。この調子で、ヴィクター様がお帰りになるまでに、大体の事は仕込みますので……》
《ああ、期待してるぞ。ロゼッタなら、きっと良い先生になれるさ》
《はい。期待に応えるよう、務めさせていただきます。それで、ヴィクター様は今何を?》
《俺か? 俺は今ギャンブルはしない方が良いって学んでる所だ》
《はい?》
カナルティアの街……北部地区にあるブラックマーケットでは、日々、勝負人達が集い、己の運を頼りに賭け事に興じていた……。
「……入ります!」
目の前の男が、指に2つのサイコロを掴み、反対の手に持つカップに放り込むと、テーブルの上に置かれた台の上にドンッと力強く叩きつける。
ざわ… ざわ…
「お願い!
「はぁ……まさかギャンブルに走るとはな……。借金背負って後がない奴って、救えないな」
俺とカティアは、死体から回収した武器やら道具を、スカベジングステーションで
賭博場と言っても、少し広いだけの部屋の中で、壺振りに向かい合うように椅子に座り、テーブルで何名かが金を賭けて勝負している感じだ。カティアに金を渡すと、彼女は真っ先に全額ぶっ込んだのだった。
「勝負!」
「「「「 ……ゴクリ 」」」」
沈黙の中、壺振りが壺を開けて、サイコロの目を皆に見せる。
「
サイコロは、3と2の目が出ていた。
「ああああ〜っ!」
「そ、そんな……!」
──予想した目が外れて落胆する者
「よし!」
「ヘッヘッへッ……」
──予想通りの目で至福のひとときを過ごす者
「いよっしゃぁぁぁッ!! 今日のカティア様には、勝負の女神が微笑んでるわッ!!」
このように、俺の隣で馬鹿騒ぎする者などで、賭博場は賑わっていた。
「お兄さん……アンタはいいのかい?」
「ああ、もうちょっと見学させてくれ」
「冷やかしはお断りなんだが……まぁいいか」
壺振りの男に声を掛けられた。というのも、俺はこの賭博に参加していなかったのだ。
丁半博打……という、どっかの国のギャンブルらしいが、映画でも見たことはあったし、ルールは大体わかる。2つのサイコロを振って、出た目の合計が偶数か奇数かを当てるのだ。偶数だったら「丁」、奇数だったら「半」……だったか?
ギャンブルといえば、ポーカーとかカードゲームを想像するが、これは単純で面白そうだ。
何より、この辺りでは珍しく、興味をそそるギャンブルだ。それは崩壊後の人間も同じようであり、このギャンブルは人気があみたいだ。カティアも一目見て興味を持ち、これで勝負すると即決したのだった。
「ウヘッ、ウヘヘへへ……」
「カティア、1回勝っただけで騒ぐな! うるさいわッ!」
「では、次の勝負! さあ、張った張ったぁ!!」
壺振りの男が、次の勝負の開催を宣言して、周りが丁!半!と叫ぶ中、俺は一人違和感を感じていた……。
(……なんか、俺の知ってるルールと違うんだよな)
*
*
*
「じゃーんッ! どうよ? ちゃんと倍にして返したわよ?」
「……」
カティアは、その後勝ち負けを繰り返しながら、着実に勝ちを掴んでいき、最初の金額の倍以上を稼ぐに至った。……マジかよ。
「い、インチキだ! こんなのイカサマだッ!!」
「はぁ!?」
カティアに預けた金を返して貰っていたその時、負けが続いたオッサンが、カティアに絡み始めた。
「さっきから、嬢ちゃんだけ勝ちが続いてるだろう! イカサマに決まってるッ!!」
「はっ! オッサンのツキが無いからって、私に八つ当たりしないでくれる?」
「何だと!」
「てか、私がイカサマしてるって証拠はあるの? 無いでしょ? してないからね!」
「こんの、クソアマッ! タダじゃおかねぇ!!」
カティアの煽りに、オッサンが拳を振り上げる。俺も身構えたが、何と壺振りの男がオッサンの腕を抑えた。
「……お客さん、困りますよ。ダメでしょ?
「はっ……い、いやこれは」
「こっちもプロだからな? 見ればわかるよ、あの嬢ちゃんは強い……アンタと違ってね? イカサマなんてしてないよ」
静かに……かつドスの効いた声が、壺振りが裏社会の人間だということを感じさせる。オッサンはすっかりビビってしまい、大人しくなった。
……一方、カティアはドヤ顔をしている。
「じゃあ、場を白けさせたケジメをとってもらいましょうかねぇ……。オイ、連れてけ!」
「「 へい! 」」
「け、ケジメ!? ああ、ま、待って! 待って下さ……モゴゴゴ!?」
壺振りの裏に控えていた用心棒が、二人掛かりでオッサンを麻袋に詰めると、どこかへ引きずって行く……。凄い! マフィア映画の世界に入ったみたいで、興奮する!
「あー、皆さんシラケちゃってごめんなさいね! 次の勝負でまた盛り上がって下さい! ……嬢ちゃんも続けるよな?」
「もっちろん! まだまだ稼ぐわよッ!」
「おっ! あの嬢ちゃん、まだやるみたいだぞ?」
「よし! 次は負けねー!」
「俺はあの嬢ちゃんと同じ方に賭けるぜ!」
カティアの参戦表明に、周りは盛り上がりを取り戻した。
その騒ぎの中、壺振りは唇を舐めて呟いた。
「……そう来なくっちゃな」
*
*
*
「ど、どうして……」
あれから数十分……カティアは、連戦連敗だった。遂には全財産を失い、やめとけと言ったのに賭博場から金を借りてまで勝負しては負けていた。
「勝負は時の運……ってね? ところで嬢ちゃん、かなりの額借りてるけど、返せんのかい?」
「あ、当たり前でしょ! まだまだこれからよ!」
「ああ、そうそう。もう
「なっ!? ……ヴィクター?」
「俺はもう貸さないぞ? てか、金返して欲しいのは俺の方だ」
「くっ……あと少し! あと少しで勝てるのにッ!!」
これはもう、典型的なギャンブル中毒者じゃん……。なんでこんな女と組んでるんだ、俺?
「くっ、今日のところは諦めるしか無いの?」
「ああそうそう、出てくなら借りた金、全額返していってくれよ?」
「な、何ですって!?」
「……おい、嬢ちゃん。まさか、返せねぇとか言う訳じゃねぇよな?」
「はぁ……だからやめておけって言ったのに」
壺振りは、先程の絡んできたオッサンの時のように、ドスの効いた声でカティアに迫る。因みに、カティアが金を借りる際に、全額返してから出て行くという文面の書類にサインしているので、よく読んでいなかったカティアが悪い。これは明らかに、ギャンブラーを嵌める罠だ。
おそらく、ギャンブルに夢中にさせ、借金漬けにして、闇ルートで奴隷という流れだろう……。
「返せねぇなら、その身体で返してもらうしかねぇな!」
「からだ……って、そんなの嫌よッ!」
「ヒヒヒ……嬢ちゃん中々上玉だから、高く売れるぜ? 良かったな、借金返せて!」
「ど、どうしよ……ヴィクター?」
「はぁ……しゃーねぇーな」
「何だよ兄ちゃん。アンタが払うってか?」
「ああ。だが、このままだと足りない。だから、俺も勝負させてくれないか?」
「ひゃっはっはっ! いいね、乗ったよ!」
「ば……ヴィクター正気なの!?」
「……少しは頭が冷えたか?」
「な、何を……!?」
「俺とチームを組むなら、もっと冷静になって欲しいね」
「あ、アンタ……それを私に分からせる為に!? ……ごめんなさい」
カティアが、申し訳なさそうな顔をしている。……だが悪いな、俺はお前が負けるって初めから分かってたんだ。だって壺振りの男……イカサマしてるからな!
「さあ、勝負だ! 張った張った!」
「丁だ!」
「……入ります!」
この時点でおかしい……。普通こういうのって、サイコロを振り終わってから賭けるモンじゃないか? これだと、親にとって都合のいい目を出せれば、ボロ儲けになる訳だ。
実際にカティアの勝負を見ていたが、全ての勝負がどこか不自然な感じがした。少額だが、着実に親に利益が出るような勝負になるのだ。まあ、賭け事というのは全て胴元が儲かるシステムになっているらしいが、カティアが勝ち続けたのは、親に利益が出る方に常に賭け続けていたというのが大きい。
……カティアの運が良いのは、本当なのかもな。一種の勘や、本能みたいなものかもしれない。だが目立ちすぎたのか、初めから狙われていたのか、明らかに壺振りはカティアを潰しにかかってきたのだ。
「勝負!」
「5と6だな」
「ん!?」
「……何言ってんのヴィクター?」
俺は、壺振りの男が壺を開く前に、出目を呟いた。
「いや、独り言だ。どうした? 開けろよ、壺振りさん?」
「……
「……えっ? あ、当たってる?」
「ああ。だが、賭けたのは丁だからな、負けだよ」
「ちょっと! マジメにやんなさいよッ! 私の処女が掛かってんのよ!?」
カティアの貞操はどうでもいいとして、今ので仕組みは分かった。おそらく、サイコロの中に小さな鉄球か磁石が仕込まれていて、台の下に磁石を敷いて調整してるのだろう。
ちなみにどうして出る目が分かるかと言うと、スラムの拠点襲撃の際も使用した、スカウトバグという小型偵察ドローンを、壺の内壁に張り付かせているのだ。あとは電脳を介して、直接見ればいいというわけだ。
今、壺の中を見ていたが、壺の中でサイコロは転がらずに、ベタっと台に張り付いたので、何らかの仕組みがあるのは間違いない。
「し、勝負ッ!」
「4と5だな」
「なっ!?」
当然、次の目も当たる。壺振りの顔が、みるみる青ざめていき、額から汗が流れ落ちる。
「し、勝負!」
「1と1だぞ?」
「ほ、本当だ……!」
*
*
*
「……」
「どうした?」
「い、いえ……」
「ああ、次の目なら5と6だよな? でも不思議だよなぁ? 目はわかるけど、こう負け続きだとさ」
「な、何が言いたい?」
「イカサマやるなら、バレないようにしないとなって話だよ」
「ッ、テメェ!!」
壺振りが立ち上がり、裏に控えていた黒づくめの男達が銃を突き出してくる。
俺は素早く立ち上がると、腰の拳銃を抜いて男達の腕を狙い撃ちする。
──ガシャ! バババンッ!
「ぎゃあッ!」
「ぐっ!」
「があッ!?」
用心棒は、武器を落として腕を抱える。周りは、突然の出来事に騒然としている。……逃げ出さない所を見るに、ここはカティアが暴れた東部地区の歓楽街よりも、こうした修羅場に慣れてる人間が多いのだろう。
俺は、壺振りの男に拳銃を突きつけた。
「ヒィッ! こ、こんな事して、タダじゃすまねぇぞッ!!」
「ちょ、ちょっとヴィクター!? 何やってんのよ!?」
「カティア……そのサイコロ、割ってみろ」
「えっ?」
「いいからやれ!」
カティアはナイフを取り出して、サイコロを半分に割る。すると、中から小さな鉄球がコロコロと飛び出した。
「なっ、コレ……サイコロに何か仕込んでるじゃない! イカサマよッ!!」
「……!」
「なあ……何だ、あれ?」
「し、知らねぇ! 俺は知らねぇぞ!!」
「お前のサイコロだろうが! とぼけるなよッ! おい、カティア! 次は、壺振りの台をひっくり返してみろ」
「なっ!? ま、待て!!」
「ラジャっ!」
カティアは、壺振りの目の前の台をひっくり返す。すると、中から円柱状の磁石が出て来た。俺の予想は当たっていたようだ。
『イカサマだ……』
『イカサマだってよ』
『マジかよ……』
『こりゃあ、どえらいこっちゃ』
ざわ… ざわ…
周りの客達が、壺振りがイカサマをしていた事を知り、騒ぎ出した。
「で……どういうことなのか、説明してもらえんのかな?」
「そーよ! お金返しなさいッ!!」
「く、クソ……!」
壺振りの男を追い詰めると、賭博場の奥から一人の男が
「ふぁ〜あ。何ダァ、賭場荒らしかぁ?」
「ど、胴元ォ! 助けて下せぇ、コイツらに仕掛けがバレやしたッ!!」
「はぁ……。口を閉じろよ三下がァ!!」
「グガァッ!!」
胴元と呼ばれた男に擦り寄る壺振りだったが、胴元は壺振りの顔面に拳を叩き込み、抜けた歯が宙を舞った。そりゃそうだ。今のやり取りで、この賭博場は胴元公認でイカサマしているのが分かるのだから……。
「ん? ……げぇッ、お前は乱射姫! それから、その相棒ってことは、お前が噂のヴィクターって奴か!?」
「ああ、そうだが?」
「チクショウ! テメェら、俺の首を取りに来やがったなッ!? だが俺はヤグリの奴みたいに甘くはねぇぞ!!」
「ヤグリ? いったい、何の話だ?」
……後から知ったが、ヤグリとは以前俺がミシェルと捕まえた賞金首の事らしい。確かにそんな名前だった気がする。
胴元は笛を取り出すと、息を思いっきり吹き込んだ。すると、建物の奥から用心棒と見られる男達が、武装して飛び出して来て、客達は慌てて逃げ出していく。
そしてあっという間に、俺たちは包囲されてしまった。
「あ、思い出したッ! ヴィクター、こいつ賞金首よ! 前に見たことがあるわ!」
「何だって!?」
「い、今頃気付いたのかッ!? いや、騙されんぞ! それに多勢に無勢だ、お前らに何ができる!」
「くっ……どうするの、ヴィクター?」
「んなもん、こうするだろ……」
「はへっ……? な、何ィ!?」
俺は、余裕たっぷりで目の前に立っていた胴元の背後に素早く回り込むと、膝裏を蹴って体勢を崩し、首に腕を回しながら余った手で拳銃を押し当てた。余裕ぶって、敵の前だというのに調子に乗るからこうなるのだ。
こうして、あっという間に胴元を人質に取ることに成功した。
「おい、お前ら! どうした? ほら、撃ってこいよ!」
「ま、待て撃つなッ! 俺に当たる!」
突然、自分たちのボスを人質に取られた用心棒達は、その場で混乱し固まってしまう。
「ほら、何かやる事あるだろ?」
「お、お前ら……武器を下ろせ」
「違うだろ。お前ら、武器を捨ててその場に伏せろ! それから、手を頭の上に置いてじっとするんだ!」
「い、言う通りにしろ……!」
用心棒達は一瞬躊躇ったが、渋々といった感じで武器を捨てて、その場に伏せる。
「よし……カティア、コイツらの武器を回収してこい。それから、他に隠してる武器が無いか調べて、武装解除しろ」
「わ、分かった……!」
「クソ! テメェ……後で後悔するぞ!」
「うるせぇな……少しは黙ってろよ」
俺は、ダートピストルの麻酔薬シリンジを取り出して、胴元の男に針先を押し当てる。ゼロ距離なら、こうしてわざわざ銃で発射しなくてもいいので、圧縮空気を消費せずに済む。
「な! ……んだ、こりゃ……あ……」
「おやすみ」
「ヴィクター、終わったわよ! って、あーッ! 貴方、賞金首殺しちゃったのッ!? せっかく生け捕りだったのに、報奨金半額になるじゃないッ!!」
胴元が倒れてるのを見て、カティアは俺が殺したと思ったらしい。崩壊後には、敵を殺さずに無力化できるような非殺傷武器が少ないために、誤解を招くのだろう。
「安心しろ。眠っているだけだ」
「な、ならいいんだけど……。それより、これどうする?」
カティアは、武器が積まれて、ちょっとした山になったところを指差す。
「武器は頂いてく。はぁ……今回は特別だ。武器の売却費は、お前にやるよ」
「えっ! う、嘘……本当に!?」
「ああ。だから、次から言う事をやってきてもらうぞ?」
「ふふふ、任せて!」
「はい」
「何これ? 袋?」
部屋の隅に置いてあった、先程カティアに絡んだオッサンを詰めたものと同じ袋を、カティアに渡す。
「ほら、テーブルの上とか、床の上に散らばった
「えっ……いいのかな、それって?」
「ん〜。分からんけど、多分いいんじゃね? ああ、それからコイツらが出てきたところ……多分事務所みたいなところだから、そこも漁って来てくれ」
賭博場にいた客は逃げ出しているし、金は捨てたものと見ていいだろう。それに、この賭博場はイカサマをしていたので、その迷惑料を受け取る権利が、俺たちにはあるはずだ……。
カティアが、金を回収しに行くと、俺は床に伏せている用心棒達の元へと近づく。……不安要素は排除しないとな。
* * *
-10分後
@ブラックマーケット 賭博場
──ゴキリッ!!
「あんぎゃーッ!!」
「ヒィッ!? お、俺は雇われただけで関係ないんだッ! ま、待って待ってッ!!」
「よし、お前で最後だな!」
「た、助け──」
──グギリッ!!
「オピョーッッ!!」
「ヴィ、ヴィクター……終わったわよ!」
「どれどれ……おお、結構集まったな!」
「グ……重いぃ……フゥ。この小さな賭博場で、こんな大金が動いてるなんて驚いたわ。それより、何してるの? さっきから凄い声が聞こえてるけど……」
「ああ、コイツらの腕を折って回ってたんだ。抵抗されたら面倒だしな」
「うわ、容赦ないわね……」
俺の背後では、用心棒の男たちが皆腕を抱えて悶絶している。
用心棒達が反抗できないように、俺は彼らの腕の骨をボキボキと折って回った。許しを請われたが、不安要素を排除する為に仕方ない。ダートピストルの麻酔薬もそんなに数が無いし、かといって縛るのも面倒だし。
まあ、運が無かったと思ってくれ! 少なくとも、命を奪わないだけマシだろう。
「で、どうするのよ。金も、武器も結構重いわよ? 二人じゃ無理じゃない?」
「ああ、大丈夫だ。3人いりゃ何とかなるだろ」
「えっ? さ、3人……?」
「ああ。なっ、壺振りさん!」
「げぇ!?」
俺は、床で気絶したフリをしていた壺振りの男を蹴って立たせる。胴元に殴られてから、ずっと動いていなかったが、俺が用心棒達の腕を折る時に、彼らの絶叫を聞いて震えていたのだ。意識があるのはバレバレだ。
先程も言ったが、
「あ、あっしは……た、ただの下っ端でして……ゆ、許して下せぇ!!」
「あ〜、そういうのいいからさ、ほらこれ持てよ」
「うっ!? お、重いぃ……!」
「ほら、命が惜しかったらしっかり運べ!」
──バンッ、バキュンッ!
「ひ、ひぃ! わかりましたぁ!!」
「……私、絶対ヴィクターと敵対したくないわ」
(いや、カティア。お前、もう十分俺に迷惑かけてるからな?)
壺振りの男に、カティアが回収した金の詰まった麻袋を持たせる。崩壊後の金……メタルは、文字通り金属だ。それが袋一杯に入っていると、相当な重量になる。そんなの持ちたくないので、この男に運ばせることにしたのだ。
その後、カティアが武器を、俺が胴元を、壺振りが金を持って、賭博場を後にした。野次馬からは、「あ、あれが腕潰し……!」とか言われたが、何のことだか。
「よし、こんなもんか……」
「あ、あの……じゃあ、あっしはこれで……」
「ああ、もう行っていいぞ」
「へ、へい! 失礼しやす!」
車に捕らえた胴元や、奪った武器や金を積み込んだ。壺振りも、ここまでよく運んでくれた。……そういえば、まだお礼してないな。
「あ、ちょっと待て!」
「ひ、ひぃ! な、何か用ですかい!?」
「ああ、お礼してないと思ってさ」
「い、いや……あっしはそんな……」
「いいから、ほら。腕出せよ」
壺振りの男に、腕を出させる。俺は、その腕を掴むと膝を支点にしてボキッ!と腕の関節を増やしてやる。
「いっ……ギャァァァッ!! 腕が、俺の腕がぁぁ!!」
「これで、イカサマもしばらく出来ないだろ。うん、良い事したな♪」
「ひ、ヒィィィィ! 鬼! 悪魔! 腕潰しィィ!!」
「ぎゃあぎゃあ喚くな、さっさと行け!」
──バキュン、ズダンッ!
「ひ、ヒエェェッ!!」
初め見たときは、任侠者って感じだったのに情けない奴だなと、壺振りの男に対して酷評するヴィクターであった……。
その一方で、その光景を目撃したヴィクターの相棒は──
「……私、もしかしてヤバい奴とチーム組んじゃったのかしら?」
──と、一人で後悔と期待が入り混じった様な複雑な気持ちで、呟くのだった。
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