第8話2022年10月4日 自死について。

私が死のうとしてからあと1ヶ月程で1年になる。

よく生きていた。

気持ちが落ち着かなくて、死にたい死にたいと小学生の頃には言うことがあったような子供だったけれど、あの時ばかりは本当に死ぬつもりでいた。


いきなり限界になって部屋を飛び出して近くの川までダッシュした。

しかし、急ぐ作業があったのでそんなことをしている場合ではないと1度は部屋に引き返した。


それでも数分後にまたすぐ限界になった。


なんだかんだで止めて欲しかったのか、せめて連絡すべきだと思ったのか、とにかくパニックになって叫ぶような気持ちだったのか、癇癪を起こす子供のように、母にLINEをした。


もう無理。

死ぬ。

もう無理。

と。


文面だけでは疲れた人間が死ぬ〜wと冗談で言うのと何ら変わらないので母は最初冗談だと思ったのか、頑張れとかその話は家に帰ったらねとか、的はずれなことばかり返信して余計に私は死にたくなった。


もう頑張れないのだ。

というか、もう頑張ったからもう無理なのだ。

頑張ってもどうにもできないから、それについてどうにもできないならもう死ぬしかないのだ。

それができないなら私は死ぬしかなかったのだ。


この人は本気で私の話を聞いていないんだと思ってしまった。私からしたら、互いの返信の間には奇妙な程の温度感があった。今思えばまさか本気で死のうとしてるなんて思わないかもしれないし、仕方ないのだろうけど。


……仕方ないのかぁ……


死ぬ、と何度目かで返信した瞬間、私は近くの大きな川の橋の上まで泣き叫びながらダッシュした。人の目などどうでもよかった。LINEの文面からなにかおかしいと思ったのか、母親から通話がかかってきた。


3回くらい無視した。


どうでもよかった。その瞬間限界だった。いますぐ橋から飛び降りるつもりでいた。


ただ、もう一度かかってきたとき私は電話にでた。話を聞いて欲しかったのかもしれない。


開口1番、母が、


「あなたが死んだら周りの人に迷惑がかかるんだよ」


と、言った。


なんで死ぬ時まで人の迷惑を考えなきゃいけないんだ。

死んだら人が迷惑被ったとかどうでもいい。

それによって迷惑かけたなと罪悪感を抱える自分が居なくなるのだから。


死ぬ時まで周りの人の迷惑、なのか。


ここであなたが死んだら私お父さんに私のせいだって言われる。そしたら離婚だよ。

おばあちゃんはお父さんを責めるよ、お父さんに迷惑がかかるよ。


ずっとそんなことばかり言っている。


私のことはどうでもいいのだ。

小さいころからいつもそうだった。私が泣いていれば、大丈夫?よりも先にうるさいからもう少し静かにして、近所迷惑。怒った時も兄弟喧嘩をした時も話を聞こうともせず、近所迷惑、お願いだから静かにして、と言うばかり。

小さい子供なのに、近所迷惑、という言葉はやたらと覚えてしまった。


母は、いつだって私のことはどうでもいいのだ。

死のうとしているその瞬間まで。

絶望した。


しかし、私は生きた。

とりあえず母と話す中で死ななければいけない原因は取り除けたので。

しかし、家に帰ってから父に死ぬっていうな、それは脅しだ、それを言われたらお母さんはお前の言うことを聞くしかないだろ、と言われてしまった。


結果的にそうなったとしても脅しではないのだが。

脅しではないのだが。

脅しではないのだが。


ただ、あなたが死んだら悲しいよ、死なないで、と言って欲しかったのかもしれない。


断じてそう言ってもらうことで愛情を確かめたくて死のうとしたわけではないが。

ただ、私だけを見て、私だけを案じて欲しかった。死のうとしてる時くらいは。


娘が死のうとしたときくらいは。



実家にいる今だって私はひとりなのだ。いつだって私はひとりなのだ。

親というものは、所詮人間なのだ。子供であろうと、1番に心配してくれることなどない。自身を取り巻く世間体の方が大事なのだ。


結局人はひとりなのだ。幼子であっても。一人で生きていくしかないのだ。


親への幻想を抱いた私が間違っていた。勝手な絶望感の中で今日もまた生きるのだ。



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