第4話(4) 高校時代の

「彼氏さん、優しそうな人でしたね」

「後、普通に格好良かった」


 電車に揺られ帰宅のに着く私達は、つい先程別れたばかりの静香ちゃんの彼氏についてそれぞれの感想を口にする。


 静香ちゃんと出会っておよそ十分後、彼氏さんがやってきて彼とも少し話をした。


 お互いの自己紹介に始まり、静香ちゃんとの関係性、近況等々などなど。話をしたのは主に私と彼氏さんで、静香ちゃんは時々口を挟む程度、優子ちゃんに関しては自己紹介以降一言も言葉を発さなかった。まぁ、面識も繋がりもない相手だし仕方ないと言えば仕方ないのだが、優子ちゃんには少し悪い事をしたかも。


 数分会話を交わし、電車が来るというタイミングでホームに全員で移動、来た電車に車両を分かれて乗った。いつまでも邪魔じゃまをしてはいけないと、気をつかった結果だ。


 そして、私達は出入り口付近の座席に並んで座った。


「いい雰囲気でしたね、二人」

「ねー。まさにお似合いのカップルって感じ」


 二人でいるのが自然で、尚且つ幸せそうな空気がその間にはただよっていた。


「姫城さんも、うわさ通りの美人さんでした」

「会ってからずっと見惚れてたもんね、優子ちゃん」


 そう言って私は、クスリと笑う。


「いや、全然、そんな事は。私はみどりさん一筋なので」


 静香ちゃんに見惚れていたという事実が恥ずかしかったのか、優子ちゃんは慌てた様子でそんな訳の分からない事を口にする。


「あの静香ちゃんが相手なら、仕方ないって」


 私も初めて会った時は、優子ちゃんのように見惚れたし言葉を失った。


 というか、そうならない人の方が少数派だろう。なので、恥ずかしがる事は何もない。


澄玲すみれさんも綺麗だけど、静香ちゃんにはなんというか雰囲気があるわよね」

「? 澄玲さん? 姫城澄玲、あっ。もしかして……」

「あ、うん。澄玲さんは静香ちゃんのお姉さん」


 澄玲さんは葵さん同様、私の高校時代の先輩であり現在通っている大学の先輩でもある。


 優子ちゃんも面識はなくても、顔と名前ぐらいは知っているはずだ。葵さんと同じくそれなりの有名人なので。


「ちなみに、さっき葵さんが言ってた自分より生徒会長に相応しい人ってのは、澄玲さんの事」

「あー。なるほど」


 優子ちゃんから見ても、やはり澄玲さんは生徒会長に相応しい風貌ふうぼうをしているらしい。


「いや別に、葵さんがどうこうって話ではなく。それに、姫城さんとは私話した事もないので」

「大丈夫。分かってるから」


 あくまでも、なんとなくそんな感じがする程度の話だという事は。


「でも、言われてみれば、確かに似てますね、あの二人」

「性格は全然違うけどね」

「そうなんですか?」


 静香ちゃんは優しく穏やかで人を立てるタイプだが、澄玲さんは自信に満ちあふれており人を導くタイプ。どちらかがいいと思うかは、完全にその人の好み次第だろう。


「後、澄玲さんは意外と悪戯っ子だから、仲良くなったら注意が必要」

「どこかで聞いた話ですね」


 確かに、葵さんの時にも似たような事を言った気がする。なんだかんだ言って、葵さんと澄玲さんは共通点が多い。葵さんの前ではそんな事、口が裂けても言えないけど。


「それにしても、みどりさんって凄いですね」

「何が?」

「ウチの大学のツートップ両方と仲がいいなんて」


 ツートップとは、言うまでもなく葵さんと澄玲さんの二人の事だ。


 美人で目立つ容姿をしている二人は、大学入学直後から校内で話題となり、その関係性も相まって面白おもしろ半分でそう呼ばれるようになったそうだ。


「葵さんとは生徒会に入ってたからだし、澄玲さんとは葵さん繋がりだからまぁ」


 一人と縁を結んだら、自動的にもう一人とも縁が結ばれた感じだ。


「葵さん繋がりってどういう事です?」

「澄玲さんは葵さんの事を気に入ってて、何かに付けてちょっかいを掛けてたんだけど、反応がかんばしくなくて。で、私に目を付けたってわけ。葵さんが可愛がってる後輩にからめば、葵さんが乗ってくるだろうって」


 実際、葵さんはまんまとその思惑にはまり、澄玲さんの相手をよくさせられていた。


 とはいえ、本当に嫌なら避ける方法はあったと思うので、葵さんも実のところ満更ではなかったのだろう。


「え? みどりさん、姫城さんに絡まれてたんですか?」

「絡まれてたと言っても、少しからかわれたり普通に話したりだから、優子ちゃんが葵さんにされてるような絡まれ方はしてないかな」

「うっ」


 思わぬ反撃を受け、優子ちゃんが小さくうめき声を上げる。


「本当に迷惑してるようなら、私から言ってあげるけど? 葵さんああ見えて真面目まじめだから、普通に止めてくれると思うよ」


 日頃の言動から傍若無人ぼうじゃくぶじんな性格と思われがちだが、葵さんは意外と気遣い屋で引きどころもわきまえている。そのため――


「いえ、困ってはいますが、迷惑してるわけではないので」


 本気で心配はしていなかった。一応聞いてみただけ、というやつだ。


「だったら、いいけど」

「心配してもらってありがとうございます」


 そう言って、優子ちゃんが微笑む。


 優子ちゃんも葵さんも、私にとっては大切な友人と先輩だ。出来れば仲良くして欲しいし、め事は当然ない方がいいに決まっている。


 こういうところをよく幼なじみの一人には、「気にし過ぎ」と笑われてしまうのだが、こればかりは性分しょうぶんなので仕方ない。高梨たかなしみどりの人間性だと思って、諦めてもらいたい。




第一章 物語の脇役 <完>

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