第7話


 でもそんな大事な時に限って、僕達の邪魔をするヤツが現れたんだ。妊娠が分かってようやく仕事を休んで家に居たモニカが突然、迎えが来たからって言い残して何故か家の前に留まった豪華な馬車に乗ったまま、それきり帰って来なくなってしまった。探そうにもどこに行ったのかも分からず、唯一の手掛かりとなる豪華な馬車にあった家紋を調べたら、相手が貴族で伯爵家であることが分かった。更にその伯爵家について調べたら、領地持ちで商売も手広くしていて裕福な伯爵家で、その当主は若い男で独身だけど女たらしの遊び人で有名。更には最近、特定の愛人を囲い始めたって話を知ったんだ。そこまで調べれば誰でも分かるだろう。その伯爵が愛らしいモニカを愛人にして、屋敷で監禁しているんだってさ。確かにモニカは愛さずにはいられないほど可愛らしい存在だけど、今はもう僕の妻であるのになんて酷い男なんだろうね。モニカはきっとお金の為に無理矢理納得させられているんだろう。もしかしたら、お腹の子供の安全を脅されているのかもしれない。もちろんこの事は義理の父にすぐに伝えたけれど、モニカが帰ってくるまで待ちなさいとしか言われない。モニカ自身で脱出できない状況なのかもしれないのに、悠長なことだと思わないか。僕が直接伯爵家の屋敷に何度か出向いたけど、当主が出てくるどころか家令すら姿を見せずに、頑強な門の前に立つ門番に手酷く追い返されるだけだった。モニカの名を叫んだけど、その返事も姿さえも見えず仕舞いさ。



 他に僕に出来る事はないかと必死に探した。…さすがに僕の両親にも母の実家にも連絡が取れないことはもう理解している。結婚式の時と同じようにまた手紙がそのまま送り返されてきたら、手紙代が勿体無いしね。それでも僕なりに色々手を尽くしてみたんだけれど、どうにもならなくて。この時ばかりは少しだけ、身分を捨てた自分が愚かに思えてしまったよ。王族であれば、伯爵なんてどうにでもなっただろうに。早くモニカと我が子を取り返さなければいけないのに…。もう本当に何も出来ないのかって悩んで、いっその事王宮に直接訴えに向かおうかとまで考えた時、ふいに思い出したんだ。王子の時に受けていた教育の中で知った、『目安箱制度』の事を。



 先々代の国王が設けた国民であればどんな内容でも国王に直接訴え出る事が出来る制度。手順も簡単で各役所に設置されているその特別な箱に書簡を投函すればいい。知った時は何でそんなモノが必要なんだと思っていたけど、今の僕みたいにこういうどうにも出来ない状況の中にいる人にとって最後の希望なんだと実感したよ。この制度を利用して目安箱に書簡を投函すれば、正当な手段だから書簡が送り返される事はないし、必ず国王である父の目に触れるし、僕が書いた書簡なら確実に目に留まる。…あぁ、子供の頃だけど忙しい父と直接会う機会が少ない時、手紙のやり取りをしていた時期があったんだ。今思えば大した内容では無いモノばかりだったけど、どんな内容でも必ず返信をくれたからね。厳格な父だけれど、僕からの書簡ならば重要視してすぐに動いてくれるさ。



 ほら、こうして王宮からの使いであるお前たちが僕の元へ現れたという事は、父が動いてくれた証。王家の力があればあの悪質な伯爵からモニカを救出することだって容易いだろう。まずは話を聞かせて欲しいと言われたから、僕は語ったし質問にも答えた。少し長くなってしまったけれど、もうこれぐらいで充分だろう? さぁ、今すぐに伯爵家に行って僕のモニカを救い出して来てくれ。



 ――…え? 事実調査の為の調査官だから、そこまでの権限はないって?


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