第2話


 それでどこまで話したっけ…そうそう、モニカとの運命の出会いを果たし、真実の愛の元に行動していた僕は、学園からの卒業が近づいた頃に気付いたんだ。モニカと正式に結ばれる為には、この婚約をどうにかしないといけないと、ね。正直言ってものすごく悩んだよ。僕は第一王子と言っても母は側妃だし、その実家の身分も特別裕福でもない伯爵だから資産も碌に持ってない。母が側妃となったのだって、学生時代から幾つかの功績を挙げるくらい賢い女として有名になって、その優秀さを認められてからこそ側妃に選ばれただけ。父である国王陛下に愛されて結婚した訳じゃない。正直言って、二人の関係は夫婦と言うより仕事仲間のように僕には見えていたくらいさ。



 そんな母と比べて、国王陛下の正妃で隣国の王の娘でもある王妃様は国王陛下から熱烈なプロポーズを受けて結婚したそうだし、当然家の格もその資産も母の実家とは比べる方が烏滸がましいくらい。第一王子の僕が王太子候補になれたのは、その王妃様の子が二人の王女しかいなかったからこそで、男児が生まれていたならば僕は第一王子であっても候補にさえなれなかっただろうさ。…それくらいは当時の僕でも理解出来ていたんだよ。古くからあり資産も豊富な侯爵家である彼女との婚約、ひいては結婚は、碌な資産も権威もない僕が王になるための必要な後ろ盾だという事も。つまり、彼女と結婚しなければ、僕は王になれないと分かっていたんだ。悩むのも当前のことだろう? …でも、僕は真実の愛を知ってしまった。知らなかった頃には戻れないし、僕を受け入れ明るく笑うモニカが僕の隣にいる幸せをずっといて感じていたかった。モニカがいれば何でも出来る気がしたし、どんな苦労も乗り越えられると信じた。だから僕は、真実の愛を選んだんだ。



 そうして僕は婚約の解消を決意し、僕の方から国王夫妻とウルファング侯爵夫妻に婚約解消を申し出て、それに伴う経緯と僕の固い意志をしっかり伝えて――え、何かのパーティーで婚約破棄宣言しなかったのかって? どうしてそんなことする必要が? 意味が分からないよ…。だって、婚約は親同士で決められたモノだ、彼女と僕の意思じゃなかった。なら、まずは取り決めたその親に伝えるべきだろう。そもそも僕が申し出たのは婚約『破棄』ではなく『解消』だよ。『破棄』と『解消』では印象も対応も全く異なるからね。…あぁうん、確かに彼女からモニカについての苦言がよくあったけれど、彼女は貴族令嬢として当たり前のことを言っていただけだ。モニカが貴族令嬢らしくないのは分かっていた事だし、勉強が得意じゃなくても僕はモニカであれば良かったから僕からモニカに注意することもなかったし。僕と一緒に居たモニカに色々と注意出来たのは彼女しかいなかったんじゃないかな。ほら、彼女は僕の婚約者ってだけじゃなくて、王族を除いて同学年の中で身分が一番高い侯爵令嬢としての立場もあったからね。上の身分を持つ者が下の身分を持つ者の間違いを注意するのは貴族として当然のことだろう? なら、侯爵令嬢の彼女が、男爵令嬢のモニカに注意するのは当然の事だったのさ。そんな訳だから、僕としては彼女には何の遺恨もなかった。だから双方の和解をもって成立する『解消』を申し出たんだ。……婚約が『解消』としてそのまま通ったのは彼女の温情だと気付いたのは後になってからさ。…うん、そうだよね、その時の僕は真実の愛を謳ってモニカ中心の生活をしていたから、僕の有責による婚約破棄を彼女の方から申し出されても可笑しくなかった。賠償金とかの請求もあっても可笑しくなかったんだよ。王族だから、真実の愛だからって、許される行為じゃなかったんだと……ほんと僕って、気付くのが遅すぎるよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る