自称妻でヤンデレなお隣さん

寄紡チタン@ヤンデレンジャー投稿中

「美味しそうですね、ありがとうございます」


 少し音が大きなインターフォン。


 築三年でまだまだ綺麗な扉。


 まだ一度も呼んだことのないあなたの苗字が書かれた表札。



 すぅ、と優しく深呼吸をしている間にあなたは私の目の前に現れました。


「ひゃっ、あ、あの」


 こんなにすぐに出てきて下さると思っていなかったから、冷静になるための深呼吸が、しゃっくりみたいになってしまいました。


「あ、あのっ、こんばんは。こんな時間にすみません」


 扉の奥に見えるのはすぐ隣の私の家と全く同じ間取り。その筈なのに僅かに香るあなたの生活感や少し雑多なリビングがまるで童話の中の異世界のように私の胸をときめかせます。


「えーと、夕飯作り過ぎてしまったので……もしよかったら、食べていただけませんか?」


 なんてベタな誘い文句でしょう、と私は今更ながらに恥ずかしくなりました。

 あなたに食べて欲しくて余分に作った得意料理を、この為に今朝買ってきた可愛いタッパーに入れて、いけしゃあしゃあとお裾分けしているのですから。もしこれが全て計算故だとバレては恥ずかしくて生きていけません。


「これ、なすのみぞれ煮なんです。スーパーでお野菜がとってもお得だったから買ついたくさん買ってしまって……食べきれないのも勿体ないので、お嫌いでなかったらいかがですか?」


 まるでラブレターを渡すように両手でタッパーを差し出す私。あなたは純粋無垢な笑顔でそれを受け取って下さいました。


「い、いえいえ! 寧ろありがとうございます。一人暮らしで食べてくれる人がいないもので……誰かに食べてもらえると、嬉しいんです」


「ふふっ、ありがとうございます。ではまた…………」


 バタン、と扉が閉まったと同時に全身から力が抜けてしまいます。ふにゃふにゃになった足を奮い立たせて私はすぐ隣の自分の家になだれ込むように帰りました。


「……………き、緊張しましたぁ。変じゃなかったでしょうか? 上手く喋れていたでしょうか? ちょっと自分ではわかりませんね」


「でも、受け取ってもらえてよかった。また明日入れ物を返しに来てくれるようですし、その時に好きな食べ物なんて聞いてみたりして……ふふっ、流石に気が流行りすぎでしょうか」



 ◯月✖️日

 今日は思い切ってお隣さんに手料理を差し入れしました。最初は驚いていましたがとても喜んで受け取っていただけました。

 まだ会話をするのは三回目だったので遠慮されてしまうかとも思いましたが、偏った食生活を少しでも改善して差し上げたかったので勇気を出してみました。お隣さんはいつもカップ麺ばかり食べているようで、自炊も殆どしていない方ですから、きっとお野菜不足に違いありません。せめてお米くらい自分で炊いた方が良いと思うのですが、レンジで温めるものかコンビニのお弁当が殆どでした。それに、お弁当を買うときについ新商品のスナック菓子等を買ってしまうようで、良くないですね。購入時間も深夜近いことから夕飯はかなり遅くとっているのでしょう。それなら、今度からは私がお隣さんの分までご飯を作ってあげた方がいいのかもしれません。幸い料理は苦手ではありませんし、少なくともカップ麺やコンビニ弁当よりはずっと良い筈ですから。

 明日、それとなく提案してみようと思います。どうやらお部屋に出入りするような関係の女性もいないようですし、休日もお家で過ごしている方ですから断る理由もないでしょう。お隣さんに会えると思うと、明日がとっても楽しみです。










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