王女の家族



アカリさんが幽閉されてから約一週間後、ようやく異世界へ彼女を戻す準備ができたと陛下から聞かされた。



戻すかどうかは別として、そう前置きをして陛下が口を開く。


「今日もう一度迷い人と話をしようと思っているが、ミリアも同席したいか?」


「…そうですね、正直あまり乗り気ではありませんが、彼女の話を聞く最後の機会になるかもしれません。同席したいと思います」



今朝は珍しく家族揃って朝食の席に着いていた。


公務で忙しいお父様やお兄様達がいることに、ユリウスも嬉しそうだ。


それは私も同じで、ここ最近気分が滅入ることが多かったこともあって、自然と口角が緩むのを感じる。



隣国に嫁いだリアーナお姉様がいたらきっともっと楽しかっただろうに。



「父上、あまりミリアに無理はさせないようにしてくださいね」


王太子であるルシウスお兄様が少し厳しい口調でそう言う。



「そうですよ、父上。ミリアを貶めようとした人間と再び顔を合わせるなど、可愛い妹に何かあったらどうしてくれるのですか」


第二王子のユミルお兄様まで眉間にしわを寄せてお父様を責め立てるのだった。



「お二人共、お父様は私を思って提案してくれたのですよ?」



「しかし、可愛いミリアに何かあったら私達は…」


「そうだよミリア。君はこの国の王女である前に、私達の大切な妹なのだから」



お兄様方はとことん下の#兄妹弟__きょうだい__#に甘く、溺愛していると言っても過言ではない。


お姉様が隣国に嫁ぐ時も反対して大変だった。


勿論ハルト様と婚約する際だって二人は終始ブーブーと文句を言っていた。



それでも最後は私の幸せを考えて許してくれたわけだけれど。




「ミリア、今からでもハルトとの結婚は考え直さないかい?」


「第二王女なんだし、無理して結婚することもない。ずっとこの城にいていいんだぞ?」



この二人に付き合っていたら本当に一生結婚できなくなりそうだ。



「お兄様方もそろそろ婚約者の方々と籍を入れたらいいのでは?」


「私達はお前の幸せを確かめるまで結婚しないと決めている!」


「それは彼女達も理解してくれているからミリアが心配することではないぞ」



ひたすらこの兄達の婚約者を不憫に思った。


…これはやっぱり、早くハルト様と結婚しなくては。



兄様達の気持ちとは裏腹に、そう強く決心するのだった。




「姉上、僕が言えたことではありませんが…その、本当に気をつけてくださいね。今思うと彼女には、何をするかわからないような不安定さがありましたから」


ユリウスが心配そうに私を見つめる。



「本当にお前が言えたことじゃないが、姉を心配するお前は可愛いぞユリウス」


「私達の弟はなんと愚かで愛おしいのか」



勿論兄達は彼のことも溺愛対象だ。


末っ子は妹達にも劣らず可愛いらしい。




「…兄上達はうるさいです。姉上、油断しちゃダメですよ?」


「ええ、わかってるわユリウス」



私は彼を安心させるように微笑んで、その金色の頭を優しく撫でる。



彼は擽ったそうに、嬉しそうに目を細めるのだった。




…可愛い。



視線を横にやるとお兄様達が、ユリウスを、そして彼の頭を撫でる私を、心底愛おしそうな目で見つめていた。



お父様は白けた様な目で溜め息をついている。




兄様達はこれで外では完璧に王子として振舞っているのだから驚きだ。




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