第4話 書斎

 僕は、隙間から、今出せる全力で書斎に駆け込んだ。

 うろ覚えなのだが、ここで寝ていた(転生前のカイムが倒れていた)時の、霞んだ視界の中、大量の本があったように見えたのだ。


 僕はそれが楽しみで仕方なかったのだ。上司に使われる日々で、大好きなラノベも読めなかった日々が続いたから、ラノベでなくても、活字に触れられると思っただけでも嬉しいのだ。


 僕の目に映ったのは、視界いっぱいに広がる本。

「わぁぁ」

 僕は感極まり、一番近くにあった本棚の気になった一番上の本を取ろうとした。

 あっ、前世の身長の気分でいたから、全然身長が足りない。


「ねぇ、ピーノ取ってくれる?」

「はい、どの本ですか?」

「一番上のね、あの黒い本」

 その本棚の中でも異色を放っているとある一冊。

 背表紙だけでも、黒く汚れていて、所々剥がれ落ちそうになっているカバーの紙。


「あれ読むんですか?お洋服汚れてしまいそうですよ?」

「いいよ!洗濯するの僕じゃないし」

 なんか、喋り方幼児退行してる気がするなぁ。


「ふふっ、わかりました。よっ」

 ピーノがジャンプして取る。ピーノは身長、百五十センチくらいかな。

「どうぞ」

 本を受け取ったときにグッと、腕が下に下がる。重っ!


「ありがとう」

 僕の上半身と同じくらいの大きさのその本を抱きかかえて、ソファーに座る。

 背表紙同様、カバーは今にも崩れ落ちそうになっている。

 僕は、カバーを外し、ミニテーブルに置き、表紙を見ると、カバーから窺えないほど綺麗な漆黒に纏われていた。

 天は、黄色くなっており、やはり年季が入っている本だと分かる。


 表紙を開くと、すぐに読めない文字が現れた。

「これ、なんて読むの?」

 ピーノは扉の部分を覗き込む。


「すいません。私にもわかりません。一応私は、重要五言語と、この国周辺の三言語はマスターしているのですが、これは見たことありません」

 ピーノは教養がかなりありそうだなぁ。


 後で聞いたのだが、僕の家、セルトファディア家は、王家に次ぐ貴族らしく、使用人のほとんどは、セルトファディアより爵位の低い貴族の跡継ぎでない人たちらしい。


「じゃあ、異国語を勉強したいな。その、重要五言語って何?」

「重要五言語は、英語、日本語、リシエル語、マーリヤ語、セルラ語で、私が覚えているのは、あと、ルーン語、オレリア語、西オレリア語です」

「僕は日本語、英語、ルーン語しか聞いたことないなぁ」

「私たちが今話している言語は、リシエル語ですよ」


 急に脳内に音声が流れる。

“翻訳魔術発動中 リシエル語→日本語”

 あれ、僕魔術なんて使ってたっけ?しかも、四大元素じゃない、派生魔術だし。

 まぁ、転生したんだから、少しぐらいは才能があってもいいよね。


「では、カイム様が聞いたことがある、日本語、英語、ルーン語を勉強しましょう。とりあえず、教本を持ってきますから、待っていてください」

 ピーノは慣れた足取りで、教本を取りに行く。

 僕は、勉強三昧の日々になるような気がした。

 

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