第33話 ボス戦

 周りを見ながら俺は飛び続ける。

 足取りが重い。

 疲れているのもあるが、怖さが一番だった。


 もし、あのギルドにいるボスたちを倒せなかった場合。

 破滅し、絶望してしまうこと。

 決意したけれど、少しだけそんなことを考えてしまう。


「……やらなくちゃ。俺が倒さなかったら……この町が終わってしまう……」


 不安もある。

 だけど、俺はやらなくてはいけないのだ。


 元の俺だったら考えられない。

 誰かのために、こんなことをするなんて。

 人を力を使って助けようとするなんて。


「俺…………いつの間に変わっていたんだな。いや、変えられたと言うべきか」


 リンと出会ってからだ。

 俺がおかしくなったのは。


 奇想天外で、いつも笑顔で、俺がどんな人間か知った時でえ、一緒に居てくれる。

 本当におかしな奴と思う。


「クソ……まさか……あいつがいなくなるのは嫌だと思うなんてな。やっぱり、俺が……守るんだ」

 

 俺はそうつぶやいて、スピードを上げた。

 体は軽かった。

 瞳には燃えるような熱い色があった。


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 やがて、目的の場所に着く。

 空高くにのぼって、見てみると、3体のボスは別々に行動していた。 

 ギルドの状態はすさまじく危ない。

 いまにも壊れそうだったが、奇跡的に壊れずにすんでいるみたいだ。


「ギルド長はどこに居るんだ。あの人がいれば、先導してくれるっていうのに」


 大事な時にはいない。

 どこに行っているのだか。


「まあいいか。それよりも…………」


 ちょうどそこには襲われている冒険者が見える。まだ若い少年だった。

 ハチのようなボス。20階層のボス【ビーズイン】。その奴によって針で一突きされそうになっていた。


「うわあああああああああああああああ死にたくないいいいいいい」


 少年が寝きながら騒いでいる。

 俺は力を使う。

 空を飛び、少年の前に出る。


「……もう大丈夫だ」


「え?」


「お前は俺が助けてやる」


 針が俺の体を串刺しにしようと刺しにくる。

 俺は手で振り払い、針に触る。

 その瞬間、その針の部分は壊されて、消え去った。


「ふぅ……間に合ってよかった……」


 一安心だ。

 あと少しでも来るのが遅れていればこいつは死んでいたかもしれない。


「も、もしかして……あなたは……」


「……そんなことはどうでもいい。早く逃げろ。ここから早くな」


「は、はい!」


 少年を逃がし、俺はボスと向き合う。

 このハチのボスだけじゃない。他の2体も俺に気が付き、焦点を俺に向けた。 

 俺を敵と認識したようだ。


「周りに……もう冒険者はいなそうだな」


 死んでいる冒険者は多々いるが、生きているものはもういないらしい。

 さっきの少年と一緒に逃げ出したのだ。

 

「まあ、冒険者じゃない奴は一人いる見たいだけどな」


 仮面の女。  

 髪は長く、リンのような身長に沿う結論付けた。

 あの鎌の少女とは違う。

 体格、背の高さ。全くの別人だ。少女よりも大人だった。

 あいつが言っていた仲間という奴だろう。


 俺は死体を見る。

 冒険者もいるが、一般人も見える。

 このギルドを、この町を、守ろうとしてくれたのだ。


 こいつらのおかげでギルドは半壊で済み、【極玉】は奴らの手に奪われなかった。

 奪われていたらこれよりも大変なことになっていたかもしれない。

 感謝しかない。


「よくも……ここまでやってくれたな。クソ野郎ども」


「…………」


 女は答えない。

 少しずつ下がっていき、ボスの陰に隠れてしまう。

 

「まあ、こいつらを倒してからじっくりと話を聞いてやればいいか」


 ここには俺が守るべき人はもういない。

 力を込め、そして使った。


「…………くたばれよ」


 最初に攻撃したのは目の前にいた【ビーズイン】だ。

 瞬間移動テレポーテーションで後ろに回り込み、力を使う。

 エネルギーを手に込めて、発射。

 ボスは吹き飛び、地面に落とした。


「悪いが、いまの俺に優しさなんてない。必ず殺して、こいつらが受けた痛みってやつをお前らに与えてやる。覚悟しろ」


 すると、別のボス、ゴリラのような体をした奴が俺に突進してくる。

 21階層のボス【ラグラヴァン】だ。


 いつもなら瞬間移動テレポーテーションで避けてもいいのだが、後ろにはギルドがある。

 逃げるわけには行かなそうだ。


「まあ、今の俺には効かないけどな」

 

 突進してきた【ラグラヴァン】がきた直前で、右手の先に力を入れる。

 すると、突進は俺に手よりも先に進むことはなかった。

 俺の手の力だけで止めて見せた。

 先に進もうともがいているが、結局進むことはない。


「俺に触れようと思っていた時点でお前の負けだ」


 そして、消す。

 跡形もなく、殺した。

 残りのボスは2体になった。

 

「あーあ。少し形を残して、じっくりと殺してやろうと思っていたが、すべてやってしまったか。……ふ、まあいい。次はお前らの番だ」


 残りに2体に向き合う。

 一番厄介そうなのが、21階層のボス【グレオス】だろう。


 炎が身にまとってあって、あれでギルドを燃やされたりでもしたら面倒だ。

 予想だが、このギルドがここまで悲惨な姿になったのはこいつのせいが大きいと思う。

 一瞬でも燃えてしまえば消すのは難しい。

 きっと、こいつらはたくさん苦労をしたのだろう。


「……だがまあ、すべてを消し去ってしまえば、関係はないけどな」


 厄介ならば攻撃を出す前に息の根をとめてしまえばいいのだ。

 殺してしまえばなにもできまい。

 それも恐怖を与えるくらいに強い攻撃で。


「……2体同時に殺す。これで…………終わらせる」


 空を飛び、エネルギー弾を創り始める。

 だが、ただのエネルギーじゃない。


 暴走しないくらいに本気の力で創った最強のエネルギー。

 威力も鎌の少女の時よりも段違いに違う。

 絶対に殺してやるという願いがこもった破壊の象徴だ。

  

「死んでくれ…………」


 ゆっくりとエネルギー弾を振り下ろした。

 放出していく。

 そして衝突。


 衝撃波がこっちに襲ってきた。

 霧のように前が見えなくなるくらい強い。

 俺は手でその霧を振り払う。


 再び、見えるようになるとそこには……なにも残っていなかった。

 たった一撃にてボスは死んだ。


「…………流石にやりすぎたか。これは…………」


 当たった場所をみる。

 するとそこには大きな穴が出来ていた。

 したが見えないくらいの大きな穴だった。


「……これ、あとあと損害賠償とかされないよな……」


 苦笑しつつ、少しだけ恐怖する俺がいた。

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