第31話 ギルド長からのお言葉

「ありがたいお話だと…………」


 なにを言っているのかさっぱりわからない。

 本当にあの人の考えは理解に苦しむ。


「なんなんだよ……いったい……」


「ってシンヤさん! モンスターです!」


「おっと危ねぇな。ありがとよ、リンちゃん」


「助け合いですから。私が危なくなったら助けてくださいね!」


「おうよ」


 周りも俺と同じ反応のようで、唖然とした様子で立っている者が多かった。

 しかし、モンスターはお構いなしにやってくる。


「…………うざったらしいな。消えろ」


 俺は近くにきたモンスターを手で触れて破壊する。

 モンスターはすべて消えてなくなった。

 

「ほんと…………疲れるな。これだけでも」


 減っては増えて、減っては増える。

 どれだけ倒しても永遠に続いているようで、辛い。

 ゆっくり話を聞いていたいが、どうやらそれは叶わないらしい。

 俺たちはモンスターを倒しながら聞くことにする。


 すると、ギルド長が話し出した。


『このレアルスタルにいるすべての民よ。いま現在、私たちの町はある人物たちによって襲撃されている。確認されているだけでもモンスターは1000匹以上。何故か、ダンジョンのボスも3体ほど出現している』


 ギルド長は続けて話す。


『まあ、そんなことは私が言わなくてもみたらわかるとは思う。実際ギルドにいる私の目の前で戦いは起こっていて、これだけ騒ぎになっているからな。知らない方がおかしいと言っていいだろう。ふふ、非日常的すぎて逆に笑えて来るくらいだからな』


 こんな状況なのにも関わらず、今度は少し微笑んでいるようだった。

 笑い声も町中に響き渡って、俺たちも首をかしげる。


「おい、そんな余裕そうに言う事なのか……」


「ほんとですよね。ちょっと笑っている感じもありますし…………」


「そうだな。これが終わったらギルド長には」


「流石ギルド長って感じだぜ」


「……そんなことはいいからサボらないでくれ。俺に負担がかかる」


「わかってるって。ライオネルこそ、その程度でやられるのかよ。もう少し力をつけたらどうだ?」


「ふ、なめてもらっては困るな。それくらいじゃ俺は負けたりしない。俺はただお前に自分の仕事をまっとうしてほしいだけだ。そっちの方が便利で楽だ」


「はぁ…………相変わらずの奴だぜ」


「はいはい、2人とも! 話なんかしてないで手を動かして!」


 シンヤとライオネルが喧嘩をしていると注意された。 

 2人がモンスターを倒さないせいでこの場所にいるモンスターが増えていたのだ。

 俺の方にまで来ていて、いい迷惑である。


 シンヤは熱心に、ライオネルは少し面倒くさそうにまたモンスター狩りを始める。

 俺の力、分解セパレートは対象に触れていないと発動できないので、凄く不便だ。

 さらにあの仮面の少女でそうとう体力を使った。

 今の状況ではリン以下になっている。


「クソ…………キツイな」


「……レンさん、頑張ってください。私もできるだけ倒しますから!」


「ああ、助かる」


 そんなことを言っていると、ギルド長の話が再び始まる。


『さて、その話は一旦やめておこう…………これからの話しは全員に聞いて欲しい。逃げている者もこれだけは聞いて欲しい。…………今言った通り、この町はピンチに陥っている。冒険者は死に、モンスターの死骸で溢れ、町は破壊されている。簡単に言おう。このままではレアルスタルは占領される』


「「!?」」


 聞いていた全員がビクッと反応する。

 みんなわかっていた。

 そんな事を言って大丈夫なのかと。

 

 これは不安をあおる発言だ。

 怯えていた人たちが逃げ出す恐れがある。

 戦力が…………さらに減るかもしれない。


 しかし、お構いなしにギルド長は言う。


『私たちが必死に作り上げた町が、君たちはそれを…………簡単に許してもいいのか? ……たしかに昨日までは平和だった。なにも恐れることなく生活できた。だが、今は違う。やらなくてはならない時が来たのだ!』


 さっきまでとは違って真剣さが溢れていた。

 俺の体は無意識に話しに夢中になっていて、背後からきたモンスターの姿に気づかなかった。

 噛みつかれそうになったのを避けて、破壊する。


「凄いな…………いつの間にかそっちに耳が傾いていたのか……」


 戦いをしたまま話なんて聞けないと思っていたが、戦いよりもそっちに集中してしまっていた。

 これがギルド長のカリスマ。人を引き付けれる。

 凄い力だ。 


『この町に生きとし生けるすべての民よ。……今こそ、団結してほしい。そして…………戦ってほしい。どんな人間であろうと構わない。女、男どちらでも構わない。剣を取り、モンスターを狩って欲しい。それだけをして欲しい。頼む、冒険者たちを…………助けてやってくれ』


『そしてすべての冒険者よ。ありがとうと言っておく。この町を守ろうとしてくれて。そして、いまもこの瞬間も戦ってくれて。…………私からの話は以上だ。是非、私のありがたい話を参考にしてこれから行動に移してくれ。……健闘を祈ろう』


 そういい終わると、これ以上ギルド長が話すことはなかった。

 

「凄い…………話でしたね」


「ああ、見ろ。あっち側じゃ士気が高まっている」


 ギルドの方へ指を差す。

 おおおおおおお!と雄叫びのような声が遠く離れたこっちまで聞こえて来る。


「これは…………期待できそうですね!」


「そうだな。このままおしきれればいいんだが……」


 流石にボスまではいかないだろう。

 しかし、普通のモンスターには効果的だった。

 士気があがったことで、前まではネガティブだった人たちが元気を出して、戦いにいった。

 これで、こっち側の負担もだいぶ減っている。

 シンヤたちもやる気になっていて、一気に楽になった。


「だが…………俺があのボスを倒しに行くにはまだ心細いな」


 減ってはいるもののすぐにモンスターは寄ってくる。

 一人でもかければ後々疲れた時には対処が出来なくなる。


「あとなにか……なにか一つだけでも要素があれば……なんでもいい。たった一つ…………」


 そんなことを思っていた時だった。

 近くにいたモンスターが一掃された。

 そっちの方へ視点を向けると、シンヤもライオネルも他の仲間もいなかった。

 代わりにいたのは、


「待たせたな……」


「任せろよ、兄ちゃんたち!」


「!? その姿……もしかして……」


「おう、この間ぶりだな。お前たちを助けに来たぜ!」


 武器屋の店主とあの時荷物を拾ってくれた人だった。

 

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