第29話 少女の秘策

「ふぅ……やっと終わったか」


 空中に浮かびながら言う。

 下を見てみるとエネルギー弾による円形のあとが出来ていた。

 あまりにも大きすぎて近くにいたモンスターたちも巻き込んで吹っ飛ばしていたらしい。

 幸い冒険者は大丈夫だった。一安心する。


「まあ、様子でも見に行くか」


 俺は足のエネルギーを緩めて、ゆっくりと地面に降りていく。

 近づいていくと、倒れている少女の姿があった。

 俺はため息をつきながら、そこに向かう。


「……やっぱり生きていたか。しぶといな」


「はは、流石に完全には防げなかったけどね……反則級だよ……」


 いつもよりも弱弱しく返事をした。

 ごほごほと咳をしている。


 しかし、話ができるくらいに体は問題ないらしい。

 まあまあ強く打ったつもりだったのだが、この生命力。

 素直に称賛できるレベルだ。


「一応言っておく。……投降しろ。そして、このモンスターたちをどうにかしてくれ。そしたらすべてが解決する」


「…………」


 俺は勝利の宣言をする。

 少女の体はボロボロだ。

 仮面にはひびが入っていて、もう少しで壊れそうだし、マントや服もところどころ焼け落ちている。

 つまり、あの攻撃をこいつは本当に食らったということだ。

 その状態で戦えるはずがない。


「そうだね、そうしよっかな…………」


「そうか…………」


 一安心する。

 これで一件落着だろう。

 そう思った。


「じゃあ、このモンスターをなんとか……」

  

 しかし、そう思ったのもつかの間、少女は言う。


「…………とでも、言うと思った?」


「は!?」


 少女は倒れながら小さく微笑んだ。

 背筋が凍る。圧倒的に負けているはずなのに、この態度。

 なにが起こっているのかさっぱり理解できなかった。 


「……なにがおかしい! お前はどうして……笑っている」


 俺は焦って激高する。


「ふ、わからないの? 君は勘違いしてるんだよ」


「勘違いだと……」


「うん、それもとっても重要な勘違い」


 嘲笑うかのような含みのある言い方に緊張が走る。

 固唾を飲んだ。


「…………その勘違いとやらを教えろ。じゃないと本気で殺す」


「うわ、脅しとか怖いなあ…………まあいっか。話したところで別に関係ないし。言ってもいいよ」


 俺は手にエネルギーを込めて少女の顔面に向けた。

 当たれば本気でバラバラにするくらいの強さに設定している。

 それを見た少女は反抗することなく、俺の意見に従った。

 本当はこんな脅しめいたことはしたくはなかったが、こうするしか方法はなかったのだから仕方がない。


 そして、少女は語りだした。


「君がしている勘違いは2つもあるんだよね。1つは私たちの目的【極玉】について。あれにはモンスターも関わっているんだよ。私が飼っているモンスター。あれってさ、別に野生にいたモンスターじゃないんだよね」


「野生じゃない……? ならいったい……」


「あれはさ…………私たちが作ったんだよ。いわゆるコピーってやつだね」


「コピーだって!?」


「うん、見分けつかないでしょ? 遺伝子レベルで写し出しているからね。普通の人からしたらどっちがどっちだかわからないはずだよ」


「そんなことが……」


 信じられない。 

 モンスターのコピー。そんなことが成功していたなんて。


 普通に考えれば凄いことだ。

 従えることさえできれば仕事の実用化や、討伐系のクエストの手伝いなどにもなる。

 もしかしたら冒険者という職業自体無くなる可能性もある。


 そんなことを考えているとあることに気づく。

 まさか……


「…………もしかして【極玉】の方も…………そうなのか?」


「そうだよ。私がいま使ってるやつは8号機。ギリギリ使えるか使えないかの瀬戸際だから効果は本家よりも圧倒的に弱いけどね」


「探している理由って……」


「君が想像している通りだと思う。本物があればもっとコピーの研究につなげられるでしょ? 1個はあるけど、それじゃあデータが足りないんだよね」


「…………」


 闇が深すぎる。

 これは俺が突っ込んでいい案件なのかわからなくなる。

 とりあえず、帰ったらギルド長に報告するとしよう。


「…………まあお前の話はわかった。だが、いまそのモンスターによって失われている命がある。今すぐにそのモンスターたちを片付けろ」


 外はまだ戦いが続いている。

 こうしている間にも俺はあっちに向かわなくてはならない。


「まあまあそう焦らないでよ。まだ2つ目があるでしょ。どっちかっていうとそっちの方が重要だし」


「…………わかった」


 そう言った瞬間、仮面の下から笑みがこぼれたように見えた。

 本当はなにも見えないはずなのに。

 嫌な感じがした。鳥肌が立つ。

 俺は少し顔をしかめながら少女の話を聞き始めた。


「君が勘違いしていることの2つ目は私についてだよ」


「お前に……ついて?」


「そう。もっといえば、いま私がしている行動についてかな。君にとっていま私はなにをしていると思う?」


 質問めいたことを言ってくる。 

 俺は考えて真剣に答えた。


「俺にやられて、地面に寝っ転がっている?」


「ぶぶ~残念。正解は…………君の行動を制限することでした~」


「は?」


「うんうん、わからないのも無理はないよ。元々こうなることは想像していたことだし。私が君よりも一枚上手だったってことだね」


「なにを言っている。意味がわからない!」


「だから、君はまんまと私の罠に引っかかったってこと。私にとって君が私に勝とうが負けようがどっちでもいいんだ。私のやるべきことはギルドから君を遠ざけること。ほら、達せられているでしょ?」


「…………待て。それじゃあ……」


 心臓の鼓動が早くなる。

 違うと願いたい。そうじゃないはず。そう胸のなかで思う。

 だが。


「うん、今頃ギルドの近くで私のもう1人の仲間が【極玉】を回収するための最終手段を行っているころだよ」


「…………仲間?」


「君にはほんとに助かったよ。他の冒険者もギルドから引き離してくれるし、勝手に私に仲間はいないと思い込んでいるようだったし。ありがとねぇ~」


 勝ち誇った様子だった。

 さっきまで確実に勝っていた立場だったのに、逆転していた。


「これが私の……私たちの秘策。もう君には止められないよ」


 あの時少女は言っていた。

 『私にはまだ秘策はあるから』と。

 その意味がようやくわかった。俺はてっきり奥義のことを指しているのかと思っていた。しかし、答えは違った。 

 俺は彼女が仕掛けたトラップにとらわれてしまっていた。

 

「……!? なんだ!?」


 その瞬間だった。

 突如として大きな音がその場に轟いた。

 強風がこっちに流れて来て、目を閉じる。


「クソ…………いったい……なにが……」


 目をゆっくりと開けると、そこには3体の巨体があった。


「…………まさか、ボスか!?」


「ご名答だよ。20階層、21階層、22階層のコピーしたボスたち。可愛がってね!」


「っち……」


 俺は舌打ちを吐いて、その場を離れる。

 少女のことは後回しだ。先にこっちが優先。

 今すぐにでもあのボスを止めないと、大変なことになる。

 必ず、どうにかして見せる。

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