第25話 襲来

「マジかよ、ありえねぇ……」


「1000匹……にわかには信じがたい数字だ」


 シンヤとライオネルが言う。

 口に出してはいないが、その場にいた全員が彼らと同じ感情を持っていた。


 周りを見れば、現状に絶句している者もいれば、頭を抱えている者もいる。

 この町は終わりだと絶望している者もいた。


 しかし、そんな状況下においても一つの場所だけは違った。

 絶望で満ちていなかった。

 ギルドの受付、もっといえばギルド長を中心とした場所だった。

 冷静にこれからのことを相談している。


「1000匹か。見たことのない数だな」


「……本当ですよね。ギルド長なら対処できますか?」


「私にもわからない。なにせ、そんな量のモンスターを相手にしたことがないからな」


「そうですか……」


「ギルド長としてどうにかするつもりではいるが……どうなるのか私にもわからない」


「……はい、わかりました。一応、冒険者を統制しておきますね」


「ああ、頼む」


 少し残念そうに受付の子は言う。

 町がこんな状態になっている。

 彼女にとってもゆゆしき事態なのだろう。

 もしかしたら明日にはなくなっているかもしれない。


「いったん、外に出よう。1000匹という数もそうだが、どこの方角から来ているのか見ておきたい。君たちもついてきたまえ」


 ギルド長にそう言われ、俺たちも外に出た。

 外の景色を堪能する。


「うぅ……本当にこれはヤバそうですね」


「だな、この量は流石に……無理だ」


「私も戦えたら戦いたいですけど……普通にやらせそうです」


「そうね。私たちも協力すれば少しばかりはいけるかもしれないけれど、全部は無理ね」


 見てさらにわかる。

 これは異常だと。

 1匹、10匹くらいなら今の俺にとって敵ではない。 

 だが、桁がおかしい。

 

 町を埋め尽くすくらいの量のモンスターが外側から来ているのがわかった。

 種類も豊富で馬のような奴もいれば犬型もいる。巨大で強そうなものも居るし、小さくて素早いやつも居た。


 距離は相当近く、すぐにこっちにくるはずだ。

 時間にして数分、数十分といったところだろう。


「あれ……ヤバいな」


 見た感じだと通った場所は跡形もなく、塵にように消えてしまっていた。 

 もし、この量のモンスターが町にくれば確実に破壊されるだろう。

 せっかく過ごした時間も思い出も消えてしまう。


「…………どう、対処するべきですかね、ギルド長」


 俺はおそるおそるギルド長に聞く。


「……ふ、そんなのレンがこいつらを一蹴するぐらいしか方法はない。少なくとも能力タレント持ちはレンしかいないのだからな」


「もっと作戦らしいものはないんですか?」


「ないな、仕方ないだろう。突破口がありそうなら私にもいくらか策は出せるが、そんなものはいまのところない」


 きっぱりとそういった。

 勝つ可能性はほぼほぼない。

 あのギルド長がそういったのだ。

 

 近くにいた俺たち6人の背筋が凍った。

 緊張感が走る。


「それにどうやってそんな量のモンスターを用意できたかもわからない。ダンジョンから連れ去るにしても難しい。【極玉】でモンスターを保存していたことぐらいしかわからない。だから、もしかしたらモンスターはさらに増える可能性だってある」


「たしかに……その可能性、ありますね!」


 リンがうなずく。

 俺も見落としていた。

 モンスターは出現したわけ。

 【極玉】から解放された。それはわかる。だが、いったいどうやってモンスターを集めたというのだろう。

 謎すぎる。


 すると、シンヤが。


「ちょっと待て、あれ、仮面の奴じゃね!?」


 とんでもないことを言いだした。


「…………は!? どこだ?」


「ほら、あれだよあれ。一番奥にいるあの小さい奴!」


 シンヤが指を差す。

 その方向の方を目を澄ましてみてみる。


「う…………まったくわからない」


「私も見えないです……」


「まあ、俺の目はいいからな。昔からそうだし」


「意味わからないよね、シンヤの目がいいのって」


「多分だけど遺伝だな。俺の父ちゃんもじいちゃんも視力は高いって言ってたし」


「そういうものか……」


 俺には見えないものがこいつには見えている。 

 それもある種の能力タレントなのかもしれないと思った。


「ほう、あれが君たちが言っていた仮面の少女か。たしかに強そうなオーラをまとっているな」


「……え、ギルド長も見えるんですか!?」


「当たり前だろう。これくらいなら私だって…………ん」


「…………どうかしたんですか?」


 急にしんとした感じになる。


「いや、あの仮面の少女……あの仮面。あれは……どこかで見たことがあるはずだ」


「…………!?」


 さっき言っていた。

 6種類ぐらい仮面に見覚えがあると。

 そのなかの一つなのかもしれない。


「どんな奴なんですか」


「それは…………うん、やはりダメだ。どこで見たのかさっぱり思い出せない」


「あーそう、ですか……」


「まあ、正体がわかったところで特に意味はないからな。別にいいだろう」


 少し期待したがわからないのではしょうがない。

 相手がどんな奴なのかは知りたかった。


「まあとにかくだ。あれを倒すこと以外に方法はない。必要なのは人と火力。だから私は一度ギルドのなかで冒険者に説明してくるとするよ。君たちは自由にしていてもらって構わない」


「え、いいのか!?」


「ああ、その代わり、活躍には期待している。ざっと一人100匹くらいはやってもらわないと困る」


「えー! 無理ですよ!」


「冗談だ。君たちが死なない事を祈っているよ。成果をあげたらそうだなあ……追加討伐というていで報酬をあげてもいい。ではな」


 それだけを言い残して戻って行った。

 冗談にしては重かったと思いつつ、もう一度、モンスターの方へ向きなおす。


 俺たちはこんなのと戦わないといけない。

 決意をあらわにする。


「とりあえず、これからどうするかでも話し合おうぜ。あの馬っぽいモンスターは俺が倒す!」


「ほんとお金に目がないんだから……」


「当たり前だろ。男は金と女に目がないんだ」


 シンヤは無言でどつかれる。


「で、真面目にどうするんです?」


「俺はあの仮面と対峙するつもりだ。リベンジして見せる」


「それはそうよね。あの子を止めれるのレンさんぐらいしかいないもの」


「俺たちはダンジョンの時と同じように全員近くでモンスターを連携して狩ればいい。危なくなったら一目散に逃げてしまえば問題ない」


「そうだね。私たちはいつも通りやろっか。町の

運命もかかってるし、本気でやらないとね」


 そっちの方も方針は決まる。

 

「リンもいけるか?」


「任せてください! レンさんの分も私が働いて、たくさん倒します。せっかくこの町に来たんです。守って見せますよ!」


「それは心強いな」


 全員のやるべきことが決まる。

 俺は深呼吸をしてこう言った。


「じゃあ、いまはいったん休憩にして、あいつらがある程度こっちに来たら行動開始にしよう。この戦い必ず勝つ」


「「おおお!」」


 片手を腕を空に掲げる。

 リン以外は今日あったばかりだが、強い仲間だ。

 なんとかしてくれるはずだ。


 俺は俺の使命を果たす。

 あの仮面の少女を倒してみせる。

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