第4話 クエスト開始

 ダンジョンについた。

 今日はいつもよりも入る人が多く、にぎわっていた。

 俺たちもその流れにのって、ダンジョン内に入っていく。


「5階層まで行くぞ。昨日よりも深いから注意した方がいい」


「はい! もちろんです!」


 元気よく片手剣を準備しながら言う。

 リンはさっきの出来事からずっとやる気で満ちていた。

 普通ならば、あれを見て俺から離れようとするはずなのだが、想像とは全く違っていた。


 俺たちは5階層を目指して道を進んでいく。

 知っているルートを通って降りているから安心していける。 

 2階層の途中で、


「出ました! モンスターです!」


 3体で群れている【ドーベルマン】を発見する。

 俺たちに焦点を向けて、睨んでいる。


「任せろ」

 

 俺はただ単に睨み返す。

 一瞬で、【ドーベルマン】はおびえ、逃げ出した。

 簡単な仕事だ。

 

「……改めてみると、便利ですね……睨むだけなんて……私も練習すればできますかね!?」


「どうだろうな。リンの目は可愛いから睨むとかは効かないんじゃないか」


「か、可愛い!?」


「そこに執着するのか……」


 ちょっとしたいじりだったのだが、予想と違う反応が返ってきて、少し驚く。

 可愛いとか子供扱いですか!?とか言われるのかと思っていたのに。


「…………もう、いきなり変なこと言わないでくださいよ!」


「別にそこまで言われる筋合いはないんだが……」


「まあ……いいです! とりあえず練習として次にモンスターが出てきたら私が対処しますよ。買ったばっかりのこの片手剣で倒します!」


「本当はあまりそういうことはして欲しくはないのだが……わかった。リンがやりたいなら任せる。俺もできるだけフォローするから」


「ありがとうございます! ……これで、方針も決まったことですし先に進みましょう。まだ2階層ですからね。5階層まではほど遠いですよ~」


「なんでそんなに嬉しそうなんだ……」


 リンの喜怒哀楽が読み切れない。

 いったい彼女のなかでなにが起こっているのか。

 そんな事を考えながら、下の層へ降りていく。

 目的である5階層まで長くはなかった。


「ここが5階層……」


「ああ、少し危険だから絶対一人で行動とかはするなよ」


「わかってますって! それにレンさんがいるから大丈夫でしょ!」


「俺への信頼が厚すぎるだろ……」


「それよりクエストの奴ってどれですか?」


「ああ、その草なら後少し歩いた……あのあたりにある」


 指を差す。

 その近くまでいくと。


「あ、もしかしてこれですか!?」


 小さくて青い花を見つける。

 これが目的の【ランベルカ】だ。


「それだ。良く見つけたな」


「たまたまというか、直感ですけど……」


 リンは持っていた鞄のなかに【ランベルカ】を入れる。


「……なんにしろこれでクエストは完了だ。あとは来た道を戻るだけ。簡単だろ」


「はい! まあ、でもレンさんみたいに採取する草を覚えているわけじゃないので私一人とかだと少し難しそうです」


「その辺はちゃんとパーティーを組めばいい」


「え~、レンさんが私を助けてくれないんですか!?」


「言っただろ。俺たちは今日特別の関係なんだ。これが終わったら赤の他人なんだ」


「たまにはいいじゃないですか。あと数回は一緒にやりましょうよ!」


 手に身を寄せてすがってくる。

 まるで赤子がわがままをいうときのようだ。


「……ダメだ。さっき見ただろう、道具屋で。リンがわざわざ俺なんかにすりよったせいで矛先がリンに向くことだってあるかもしれない。だからやめておけ」


「そこは大丈夫です! 私も一緒に戦うって決めたので!」


「なんでそこまで俺に……」


「…………」


「なんだよ、急に黙り込んで……」


 元気いっぱいの声が急になくなり、静かになった。

 リンは下を向いてうつむいたまま、なにも言ってこない。

 数秒間そのままだったが、顔が突然起き上がるとなにか覚悟したようなまなざしで俺を見て来る。


「……私がレンさんに肩入れするのには理由があるんです。命の恩人とか、そういうのではなくて単純に……」


 なにかを言おうとした瞬間。

 バタバタと物凄い音が近くから聞こえてきた。

 俺たちはすぐにそっちの方向を見る。


「……また出たか」


 前から5体の【ドーベルマン】が走ってくる。

 

「もう! なんでこんな時に!?」


「だだこねるのは後にしろ」


「わかってますよ。私が戦ってみます!」


 リンが片手剣を装備して、俺の前に出る。

 怖がっているのか、手が震えていた。

 危なくなったら手助けしてやろう。


「く、来る……」


 【ドーベルマン】が俺たちの方に走ってくる。

 しかし。


「え……なんで……」


 モンスターたちはそのまま俺たちの近くを通り過ぎて行った。

 攻撃するわけでもなく、ただ通り過ぎていった。

 まるでなにかから、逃げるかのように。

 それを呆然と俺たちはながめていた。


「なんだ……いまの……」


「なんだったんでしょうね……なんかあのモンスターたち焦ってるように見えましたけど」


 リンは剣をしまって一息つく。


「モンスターが見逃していくなんて……見たことがない……いや、待てよ。まさか……」


 いやな予感がした。

 俺は瞬時にモンスターが走ってきた方を向く。


『ガヴォォォォォォォォォォォォォ』


 物凄い雄たけびがその場に轟く。

 

「マジかよ……」


「レンさん……あれ、なんですか……めっちゃデカいんですけど!?」


「なんで……なんで……ここにいるんだ……」


 巨大な蛇がいた。

 名前は【竜蛇】。

 文字通り竜のように大きな図体を持ち、蛇のごとく人をかみ砕く恐ろしいボス。

 さっきの【ドーベルマン】はこいつから逃げているのだと悟った。


「こ、これヤバいんじゃないですか!?」


「……ヤバいなんてもんじゃない。普通に戦ったら死ぬぞ。あれは10階層のボス【竜蛇】だ。本来なら数十人のパーティーを組んで倒すはずのボスなんだ!」


「え、10階層ですか!?」


「ああ、まぎれもなくあれは10階層のボスだ。なぜここ5階層にいるのかどうかは知らないが、居るんだから仕方がないだろ」


「倒したりとかは……」


「……無理だ」


「えええええええええ、レンさんでも倒せないんですか! じゃあいったいどうしたらいいんですか!」


「逃げるしかない」


「えっと……あ、はい!」


 俺はリンの手を強引に引っ張り、走りだす。


「っち、やっぱり追いかけてくるか……もっとスピード上げるしか……」


 走る速さを上げる。


「え、これ以上ですか!? む、むりですって! あ……」


「……おい、リン!」


「レン……さん……」


 走っている途中でリンが俺の手から離れてしまう。

 つまづいて転んでしまってようだ。

 俺は慣性にしたがって進んでしまい距離があいてしまう。


『ガヴォォォォォォォォォォォォォ』


 真後ろには【竜蛇】がいて、今にもリンに飛びつきそうな勢いだった。

 手を伸ばしても多分間に合わない。

 つまり絶対絶命な状況に陥った。


 


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