文書24 作戦会議
ふうっとグレイスは深々と椅子に沈み込んだ。
「ここで私たちの現状を確認しよっか。
まず、敵と思しき人物は以下の通り。
おけさ笠の不審者、異能は恐らく何かと何かの位置を交換するという能力。
今のところは、う~ん、おけさ笠の怪人とでも呼ぼうか。
外見、性別、名称、何もかもが不明の怪奇現象実行役、異能は恐らく事象を繰り返させる能力。
こっちは、裏方とでも呼ぼう。
そして、依り代。
これは上記の二人との重複も考えられる、と。」
グレイスが白紙にスラスラと現在手に入れている情報を書き込んでいく。
楓も脇から補足と疑問を挟んでいく。
「この、笠の怪人についてだけど、恐らく入れ替えられるのは位置だけじゃない可能性もある。
自分があの夜、急激に眠気に襲われたのだってこの人物の仕業かもしれないからね。
あと、この裏方とおけさ笠の怪人が同一人物という可能性はないの?」
グレイスが身を乗り出して返答する。
「確かに、おけさ笠の怪人の異能がもっと汎用的な可能性は大いにあるね、訂正しとこう。
それと、二人が同一人物ってことは少し考えづらい。
異能っていうのは基本的に一人につき一つしか持たないし、この二人の異能が引き起こした現象はあありにもかけ離れていて同じだとは思えない。
………続けるよ?
現状、怪奇現象が確認されているのはあのクチナシの群生地、学校の家庭科室、君の神社の周りの田んぼ、それぐらいかな?」
グレイスが確認するように楓を見やる。
「ああ、たぶんそれぐらいで大丈夫だと思う。」
まとめあげた紙を二人で囲む。
「さてと、これからどしよっか。
この怪奇現象を起こしている異能、君の異能で打ち消せたりはしない?」
ダメ元、といったような口調でグレイスが尋ねてくる。
「どうだろう、明日にでも家庭科室で試してみるつもりだけど、相手が自分よりも強い思念をこめていたら、異能は機能しないから。
相手のほうが手練れで異能も使い慣れていると思うからちょっと厳しいかも。」
実際問題、あのおけさ笠の怪人に異能が効いたのは楓の実力というよりもむしろ不意打ちでたまたま成功しただけなのだろう。
万全の状態で準備されただろう家庭科室の異能は恐らく打ち消せない。
いくら記述を見たりしてある程度異能を使いこなせるようになってきたからと言って無茶なものは無茶だ。
グレイスがはあっと大きなため息をついて伸びをした。
「まあ、そうだよね………。
私も記述を見る限りだけど、相当な大能力者だからキツイかも。
と、なると今のところ私たちが接触できそうなのは、おけさ笠の怪人だけってことになるのかな。」
楓が相槌を打つ。
「と、いうことになるね。」
グレイスが眉間にしわを寄せる。
「おけさ笠の怪人のほうも相当な手練れだからあんまり相手にしたくないんだけどなあ。
………まっ、仕方がないか。やるしかないね。
幸いにしておけさ笠の怪人を捕捉する方法は大体分かってるし。」
楓は驚いてグレイスを見つめた。
おけさ笠の怪人と遭遇したのはたったの二回こっきり。
それだけでおけさ笠の怪人の動向が把握できたというのはいったいどういうつもりなのだろう。
「捕捉するって、どうするのさ。」
全くグレイスの語る方法の見当がつかない楓は疑問の声を上げた。
グレイスは当たり前のように返答した。
「決まってるじゃないか、張り込みだよ。」
予想だにしなかった答えに楓の目が点になる。
「うん?」
グレイスが自慢げに持論を語りだす。
「いい、君の話を聞くに、あのおけさ笠の怪人は怪奇現象が続いているか確かめている素振りを見せたんでしょ?」
それは事実だ。
確かにあの夜、おけさ笠の怪人は一つ一つちゃんと繰り返しが続いているか確かめていた。
「それなら話は簡単だよ。このクチナシの祠と家庭科室。
二つのポイントを見張っていればいつかは姿を現すって。」
さらっととんでもないことを言う。
そもそも前提としてあのおけさ笠の怪人が定期的に異能が効いているか定期的に点検しに来るというのも希望的観測だ。
「もし警戒して姿を現さなかったらどうするのさ?
それに、二人だけで四六時中見張っているわけにもいかないよ?」
楓がちっちっと指を振った。
「そこもちゃんと考えてるさ。
当時異能のいの字も知らないのが丸見えだった君は一般人だと見逃されているかもしれないが、私は違う。
異能者界隈でも顔がある程度割れている私と遭遇したことで、相手側はもう既に敵対勢力の存在に気がついているはずだ。
そうなると当然、異能が機能しているか気になる。
絶対にいつか痺れを切らして尻尾を出すさ。
それに相手は今まで夕方から夜間にかけてしか活動していない。
恐らく、おけさ笠の怪人は大事になって世間の耳目が集まらないよう人目を避けているんだ。」
グレイスがこれで話はまとまったとばかりに机の上の紙を丸めて片づけ始めた。
それを楓は慌てて制止する。
問題点はそのほかにもある、圧倒的な人手不足だ。
今のところあてにできる人間はグレイスと楓だけ。
しかも実質的に戦力になるらしいのはグレイスだけときた。
「待って、それだけじゃないよ。どうやって二か所も見張るのさ。」
そして、なによりもそこが問題だった。
祠のある森と学校は随分と距離が遠い。
「もちろん、分担するに決まっているよ。
私は家庭科室、君はクチナシの祠。
どちらか一方がおけさ笠の怪人を発見したら、もう一方に連絡して、追跡を開始。
二人が合流してから接触を図る。いい考えでしょ。」
なんというか、随分と穴だらけの計画だ。
祠と家庭科室なんて急いでも十分以上かかる。
その間におけさ笠の怪人に追跡がばれたら、その時点で一人で対処しなければいけない事態が発生してしまう。
が、これしか手がないのも事実だった。
楓は渋々賛成せざるを得なかった。
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