一日一首(令和三年十一月)

晩秋に「新春随想」のネタ探し気分を令和四年へ飛ばして


肥大せる前立腺の影みとめポケットエコーにサイズを尋ぬ


ひさびさの晴ゆゑ散歩する〈文化の日〉コラムを新聞へ投稿もして


診察後に握手をすれば恥ぢらひて笑む媼らは母にもおぼゆ


レントゲンにぐしゃりと潰れし椎体二個 これでは腰もさぞ痛からう


エイジズムも肯定的に唱へれば亀の甲より歳の功なり


妻さそひウォーキングに汗ばみて半袖姿に。立冬の日に 


忙しく朝からバタバタ飛びまわり気づけば夕陽の山の端を染む


老人を包括的に診らるるは老医なりとふ言や宜なる


診断書に老衰と記し捺印す窓打つ氷雨の音のかそけさ


車いすに座らせっぱなしの介護では媼の心もささくれだたむ


風呂なれば流れ作業で…とふ洒落か、介護の業に合点のいかず


老健のマネイジメントの要諦は有限リソースの賢き遣り繰り


病院から老健へと変はり視座もまた個々の老人介護に活力探す


どんよりと津軽の空はよどみゐる心の芯まで鬱々となる


受けざれば気づかぬ事も多からむ介護の業と情けのかかはり


痛がりし翁もぷつくり腫れたる膝の穿刺受け笑顔に変はりぬ


巻き爪と爪白癬の処置なせば媼らは笑まひ疲れ吹き飛ぶ


「おかえり」と妻の迎へは変はらねど金曜日にはひときは弾む


週末は小春日和に。妻さそひ散歩をかねて煎餅屋へ行く


いさぎよく丸刈りせむと思へどもバリカン持つ妻はそれを許さず


老いの身に週休三日はありがたくあと数年は医者つづけたし


妻と吾と勤労感謝の日の朝に労ねぎらひ合ひ珈琲うまし


初雪が地吹雪となれど迷ひなく完全防備で回診へ向かふ


水虫の巣食ひし爪に刃をあてて抉りとるなり彫師のごとく


高飛車な家族の言に難儀するも医師の矜持で軽く受けながす


初雪の庭に八手の緑映え厄除け念ず一病息災をと


ペダル漕ぎ養生訓を唱ふれば脚と脳と喉にもよろし


雪空を連なりわたる白鳥の鳴き声のむた墨絵にまがふ


タクシーのスノータイヤの走行音うるさけれどもいつしかララバイ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る