第8話 澪と泡瀬の邂逅

 鍵を開け入ってきた俺と泡瀬からすれば、救世主のような存在の澪は俺を見た後、泡瀬を見て怪訝けげんな顔をする。


 何か気になる点でもあったろうか? 俺が疑問に思っていると澪が口を開いた。


「あれ、なんで泡瀬さんとてっちゃんが一緒にいるの? 確か仲悪かったよね?」


 なんだ、そりゃそうか。考えてみれば簡単なことだった。俺と泡瀬が何度も口喧嘩してるのを見てきた澪だから、俺達がこんなとこで2人一緒だと疑問を持って当然だ。


 すると泡瀬が慌てたように澪に対して喋り始めた。


「たまたまです。クラスメイトに追われて困っているようでしたのでたまたま助けてあげただけで」

「へぇ、2人って仲悪いって思ってたけど嫌いじゃないんだね?」


 泡瀬にしては珍しく俺への煽りを忘れた対応に澪が珍しいものを見た反応をする。あと、澪と話す時は喋り方が固いな。俺の時は、もっとフランクなのに。


「いや、嫌いですよ? 私が1位を取るのに非常に邪魔ですし、なにせ鳥田ですから」

「最後の理由なに!? てっちゃんはいい奴だよ!!」


 うん、やっぱりいつも通りだわ。そうだよね。俺と泡瀬はライバルだもんね。前までならこれで済んだはずなのに、今は少しだけ悲しくなった俺がいる。


「ですが…」

「ですが?」


 泡瀬のつぶやきに澪が反応する。


「好きでもあります。勉強に対しての努力の姿勢とか…優しいところとか」

「「えっ!?」」


 まさかの回答に俺と澪は固まってしまう。

 やべっ、なんかクラクラしてきたんだけど?

 俺も熱が出てきたか?


 すると泡瀬は俺の存在に気がついたのか、急に慌て始めた。


「と、鳥田いつから!?」

「うん、お前と一緒に最初からいたよね? そんなに俺存在感ない?」

「す、好きとは言っても異性としても好きというわけじゃないから!! 人間としてだから」

「大丈夫、俺も基本的に同じ思いだから」

「むしろ、嫌いの方が勝ってるから」

「大丈夫、俺もだから」

「それは、それでムカつく」

「理不尽!!」

「待って待って、2人とも仲良くなってない?

 少なくとも今までの2人だとあり得ないくらい距離感近くない? もしかして…何かあった?」


 澪がなにかを勘ぐるような顔をしている。まずいな、なんとか誤魔化さないと。


「「いや?」」

「むぅ、やっぱり怪しい。何かあったね?」


 クッソ、これじゃあ誤魔化せないか。なんとか本当ぽい嘘で誤魔化さないと…泡瀬にとってもあんまり知られたくない案件だろうし。


「じ、実はな? 昨日、学校に現れたドラゴンを俺と泡瀬で一緒に倒したことがあってな。

 そこで、少し絆が生まれたというか」

「てっちゃん…それで誤魔化せるとでも本当に思ってるの? なんで毎回、嘘がやけにファンタジーなの?」

「はぁ、鳥田本当ことを言ってもいいよ?

 平井さん、本当はね。私と鳥田は昨日学校で炎系統のドラゴンを一緒に倒したことがあって、少しだけ絆が生まれたといいいますか」


 俺は感心していた。すごいな。澪に俺の嘘がバレたのはリアリティがなかったからだと思う。そこで、泡瀬はリアリティを出すために「炎系統」という情報を足して具体性を上げてリアリティを出したわけだ。


 最早、当事者の俺ですら本当の話に聞こえるのだから、これは澪も騙され______。


「騙される訳ないよ!? こんな嘘で人を騙せると思ってる学年1位と学年2位ってどうなの!? あと、2人ともなんで「なんでバレたんだ」って顔してるの!? 君たちにそんなことを思う資格ないんだけど!? バレバレすぎるから」


 なんでバレたんだ!? 実は、澪は頭がいいのかもしれないな。テストだとダメだけど。

 くっそ、もっとリアリティのある嘘をつくか。


「実はだな、俺と泡瀬は昨日学校の近くの川の土手でお互いに、なんかこう殴りあってそのおかげか少し絆が生まれたというか」

「仲良くなる要素無かったよ!? あと、泡瀬さんが殴るイメージが全く想像つかないし。

 そして、「なんかこう殴りあって」って何!? 語彙力なさすぎるよ!?」

「全く…鳥田は。本当は、私と鳥田は世界を崩壊させようと日々暗躍してたんですが…昨日、お互いが世界を崩壊させようとしていることに気がついてそこで少し絆が生まれました」


 なるほど。自然だ。自然すぎて大自然だ。変にファンタジーでもなければ、絆が生まれる理由も変じゃない。これで、誤魔化せるは_。


「だとしたら2人とも人類の敵なんですが!? なんで、急に物語に出てきそうな悪役キャラみたいになってわけ!? もう、いいから。言いたくないなら言わなくていいから。

 2人相手はツッコミするの疲れるから」


 澪は心底疲れたように言うと、俺の制服の袖を掴む。


「じゃあ、てっちゃん行くよ? 教室で弁当食べよう?」

「いや、あの教室で食べれる気がしないんだけど…って聞いてる!?」


 俺は、そのまま澪にズルズル引っ張られていく。


「あ、じゃあ泡瀬。今回は本当にありがとう。借りを返すためだとは思うけど俺は感謝してる」


 俺は澪にズルズル引っ張られながら泡瀬に感謝を伝えた。


 *


「なぁ、澪? 俺教室に戻っても殺されるだけだと思うんだけど?」

「あぁ、大丈夫。ちゃんと、

「?」

「中庭の方でね。全員を叱ってもうしませんって誓わせた」

「えっ、でも叱られた程度で止めるようには見えなかったけどなぁ」


 俺は慌てて中庭の方を見る。すると…。


「あの〜澪? 叱っただけなんだよね? なんでさ…中庭の地面にでっかい穴が開いてるわけ?」


 俺は若干冷や汗をかきながら言う。あの穴関係ないよね? なんか半径1メートルくらいあるけど?


「叱っただけだよ? ちょっと、地面を殴ってね。でも、人間に手はだしてないから」

「どこの戦士だよ!! 地面殴ってあれだけの穴開けるの最早、少年ジャン◯だろ!!」

「私は少年チャ◯ピョン派」

「そこに関しては詳しく聞いとらんわ!!

 俺はあの穴について聞いてるだけど!?」


 そんなことを言いながら、澪の新たな一面を知った俺は「澪を絶対怒らせないでおこう」と思うのだった。


 あと、何故か中庭ではヨウだけ時計の辺りに縄で縛られていたけど…自業自得だからしょうがないよね? 神様ならぬ、紙様からの裁きを受けたヨウは澪様からも裁きを受けたらしい。


「ヨウ、授業までに来いよ?」

「助けてくれよ!!」


 俺と澪は教室へと向かっていくのでした。


「無視すんなあぁぁ」



 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 少しだけ泡瀬さんと主人公の仲がまた深まった話でした。


 次回、澪のお弁当を食べる主人公。美味しのかな? まぁ、人を思って作られたお弁当ならなんでも美味しいよね!!


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