俺の内なる”獅子”はまだ眠っている…ッ‼ ~明日世界が滅んでもおかしくはないのに~

未来超人@ブタジル

第一章 眠れる獅子を解き放て‼俺

第1話 勇者、ギックリ腰で倒れる。

 今から六十年前、アストリア王国の騎士アダンが魔界からやってきた悪魔を倒した。悪魔にも位階ランクというものがあって実は下位悪魔だったらしい。

 

 しかし悪魔は悪魔、そもそもが人間が倒せるようなヤワな存在ではなかった。


 お隣の世界”魔界オブリビオン”の過酷な環境によって強靭な肉体と膨大な魔力を秘めたは現在は聖王国と呼ばれるアストリアの勇敢な騎士たちを殺しまくってほぼ壊滅状態に追い込んだらしい。


 そこで登場したのが勇者と呼ばれることになるアダンだった。


 アダンは素行最悪の騎士だったが腕っぷしだけは強かったので、いやそれでも悪魔を倒す為に大怪我をしてしまった。アダンはその戦いで家族や友人を失い、メンタルにかなりのダメージを受けて真人間になる。十数体(正確な数は不明)の悪魔を倒したアダンは生き残った騎士たちと神聖魔法の使い手である当時の騎士団長つまり今の王様の父親と一緒に魔界とこちらの世界の間に境界と呼ばれる巨大な障壁を作った。

 それから魔界からの侵攻は一度ストップして世界に平和が訪れた。十数体の下位悪魔によって死んだ人間の数はおおよそ三万、人類の全人口が五億人くらいなのでちょっとシャレにならない人数である。それまで種族の違いや利権の不一致などで衝突していた世界各国はアストリア王国を中心に一致団結した。これが障壁の作り出した平和な世界、イージス・シールド連邦の誕生だ。アストリア王国はその中でも第一の功労者であるアダンを擁する国だったので最上位の国「聖王国」の称号を受ける。

 英雄に祭り上げられたアダンは国内の人気投票で国王に推挙されたが辞退。本人曰く「これほどの犠牲を出しておいて偉そうにすることなど出来ない」らしい。アダンは代わりに幼なじみで兄貴分だった騎士団長のピエールを推薦する。ピエールは悪魔によって殺された国王の甥御でもあった為に大勢の国民に祝福されて戴冠式に臨んだらしい。国内に不満はわずかな残ったが。

 

 アダンは騎士団に残り、定年退職するまで国に尽力した。いや正確には定年退職してからも監督役として騎士団をフォローしている。


 平和な時代はこのまま続くものかと思われた。二つの最悪な出来事が同時に発生して世界を混乱に陥れたのである。その一つとはアストリア王国の王太子フィリップの暗殺である。フィリップは父親である先王アンリから聖魔術の秘技を受け継いだ存在であり、戴冠式に障壁の維持する為に聖魔術の秘技を行使する予定だった。

 騎士団はすぐにフィリップを暗殺した人間を捜索しようとしたが、アダンがそれを許さなかった。障壁の力は年々弱まり小型の魔物がこちらの世界にやって来ていたのである。アダンとアダンの息子カインつまり語り手である俺の親父だがこの二人がついに衝突すること原因になってしまった。糞親父、自重しやがれ。

 

 かくしてアダンは親友であるピエールの遺志を引き継ぐ為に自身も習得していた聖魔術【黄金の壁】の儀式を始める。儀式には国中の高い魔力を持った魔術師が立ち合い儀式はつつがなく成功した、かのように見えた。


 「うぐっ‼」


 それは一瞬の出来事だった。儀式の最後にアダンが向こう側の障壁を閉じようと瞬間動きが止まってしまったのである。アダンの家族ならば皆知っていた話でアダンは季節が変わる前後に腰痛を再発させてしまうのだ。最悪のタイミングでアダンは術の完成に失敗してしまった。即ち何が起こったかというと向こう側つまり魔界側の出入り口だけが開きっぱなしになって、こちらの世界からは閉じる事が出来なくなってしまったのである。かくして世界中の障壁は消え去り魔物たちは数十年に渡る雌伏の時を経て解き放たれた。


 だがアダンは最後の力を振り絞って二つの世界そのものを別の障壁で覆ってしまったのだ。強大な力を持った魔物はその力の大きさゆえに容易にこちらの世界に来ることが出来なくなり(※魔力を魔界の大地から供給しているので、供給源を断たれると力を失ってしまう)人類が魔物によって滅ぼされるという最悪の事態だけは回避できたと言っても過言ではないだろう。

 

 「ぬぐうっ‼」


 アダンは新たな障壁を作り出すと、さらにもう一回ぎっくり腰を繰り返して倒れてしまった。なぜならば魔術は立っている作業が多く、腰痛の季節に入っていたアダンにとっては地獄にも等しい作業だったのである。アダンが倒れた後、世界各国の騎士たちはアストリア王国の騎士団長であるカインを旗頭にいつ終わるとも知れない魔物との戦いをすることになった。


 要するにギックリ腰は世界の危機と同じくらい怖いって事だ。


 みんな覚えておこうぜ‼

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