第9話

「ふん!」


 ――ダン


 包丁が、まな板に刺さる……。タマネギは、真っ二つだ。


「ちょっと! なにしているの!?」


「念動力の練習です。『自動筆記』の応用です」


 念動力の発現は、結構簡単だった。制御がとても難しいけど。


「全然制御できてないじゃん? 危ないから、ペンから始めてよ! もしくは、同じ動作をする魔法陣とか!」


 まあ、当然の反応だな。

 いきなり刃物は危なかったか。


「それもそうですね。空き時間で試してみます。それでは、今日も頑張りましょう」


 さあ、開店だ。

 今日のメニューは、スパゲッティだ。喜んでもらえるかな?





 その日の晩に、シーナさんが紙とペン、インクを買って来てくれた。


「ありがとうございます。少し描いてみます」


 シーナさんはいい笑顔だ。



 さて……、なにを描こうかな。

 私はまず、空想の生物をイメージしてみた。念動力でペンを動かす……。


『鬼……鬼……』


「ガキの描いた絵だな……。これなら手で描いた方がまだましだ」


 まあ、まだ魔法の使い方が、いまいちなんだろう。

 その日は、鬼と河童を手で描いて終わりとした。


 次の日も魔法の特訓だ。


「今度は、言葉を変換してペンを動かしてみるか……」


 鬼の説明文を考えて、言葉にしてみる。

 念動力で動くペンは、サラサラと流れる様に動いてくれた。


「……ふむ。文字起こしには、使えるんだな」


 これは、便利かもしれない。

 腱鞘炎の心配もない。


 その後、料理のレシピを書き起こして行った。

 シーナさんに後で渡そう。





 数日が過ぎた。

 私は、空き時間に冒険者ギルドへ向かった。

 収穫物を見せて貰うためだ。


 話をして、ギルドの倉庫へ入らせて貰う。


「……うっ。血の匂いが凄いな」


 倉庫には、いろんな魔物が納められていた。


「鹿と猪……は分かるんだけど。六本足の馬ってなんだ?」


 そこには、幻想の魔物が並んでいた。


「おう? シーナの店の料理番じゃないか? なんか用か? 肉か?」


「模写させて貰ってもいいですか? 見たことがない魔物も多いので」


「ああ。漫画も描くんだったな。好きなだけ居ていいぞ」


 ありがたいな。


「危ない魔物は、どれですかね?」


「う~ん。死傷者が多いのは、やっぱ、ゴブリンだろうな~。群れで来られると、ベテランでも逃げるしかなくなる。逆に、ドラゴンなんかは、相当な準備をしないと誰も近づかない」


 なるほどと思ってしまった。

 その後、ゴブリンを模写する。


「……やっぱりだ。見ながら念動力を発現すると、結構綺麗に描けるんだな」


 布に風景画を念写した時のことを思い出して、この方法を思い付いた。


「時間は有限だ。描けるだけ描くか」

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