第6話

 今日は、紙を用意されていた。

 それに、採集の薬草を描いて行く。

 主人公は、またもや若いシーナさんだ。

 吹き出しに、『根を掘り起こして持って帰らないと、ギルドが買い取ってくれないのよね』と書く。

 とりあえず、一枚だ。


 それを、ギルド長に渡して、次の紙に毒草を描く。

 この毒草は、根が曲がっているのが特徴だ。地面に水平に伸びて行くみたいだ。しかも根が数本ある。

 葉も、丸みがある。薬草の方は、葉の先端が尖っている。

 そして、樹液が皮膚に触れるとカブれる。

 主人公の吹き出しに、『これは、毒! ギルドは買い取らない!!』と書く。


 それもギルド長に渡した。


「その二枚を、初心者冒険者に見せてください」


「……ふむ。分かりやすいね。複製してもいいのかな?」


 著作権? いらないんだけど……。


「食材を、融通してくれれば、無料でいいですよ」


「ありがとう」


 こうして、ギルド長が帰って行った。



「良かったのかい? 結構なお金になったと思うんだけど?」


「私に大金は不要ですよ。料理人を辞めて、世界を周るとか言い出したら、シーナさんも困りませんか?」


「それもそうだね。ユージには、料理人を続けて貰いたい。少なくとも、私が覚えるまではね」


「それじゃあ、賄いを作りましょうか。その後は、掃除します」


「りょ~かい。残った食材は……、今日も少ないね」


「煮込み料理……。雑炊を作りましょうか」





「シーナさん! オーダーストップ!!」


「あ~、もう!!」


 あれから一ヵ月後、店は大繁盛していた。

 理由は、初心者冒険者が押しかけているからだ。

 私が相手を見て、ボリューム満点、栄養満点、格安の料理を作ったのが、評判となった。

 それと、中級冒険者以上は、来なくなった。

 ジャンヌさんも……、グスン。


「さて……、今日はなんだ?」


 それと、もう一つ。私に仕事ができた。


「今日はさ、俺のホーンラビットの討伐の話を描いてくれよ」


「……聞こうか」


 私は、薄い漫画本……、いや同人誌といえそうな本を書いていた。それをギルドが買い取って、複製している。他の街では、売れてもいるんだそうだ。


「始めはさ、槍で倒そうとしたんだけど、躱されて懐に潜り込まれた。そんで、角で腹を抉られそうになったんだけど、防具に刺さって、軽傷で済んだんだ。動けなくなったホーンラビットを持ち上げて、石に叩きつけてから、首の骨を折ったんだ。いやー、危なかったね」


「小さくて素早い魔物に、槍は向かないぞ? 小回りの利く武器か、盾で弾くのがセオリーじゃないかな?」


「ギルドでもそう言われたよ。見てくれよ、ユージさん。胴鎧に穴が開いちまった」


 危ないな。鳩尾部分じゃないか。


「今日は、失敗の話だな。明日までには作っておくよ。ギルド長によろしく」


「おう! 頼むね。ユージさんの『初心冒険者物語シリーズ』は、皆楽しみにしてんだ」


「死者が減るんであれば、私も嬉しいよ」


 新人冒険者は、笑顔で帰って行った。





 店の掃除を終わらせて、紙の束に取りかかる。


「お人好しもそこまで行くと、特技だね?」


「ジャンヌさんを主人公にした、迷宮攻略物語が、失敗でしたね。まさか、毎週描くことになるなんて」


「ジャンヌの物語か~。勇者の補佐の目線で描いたあの『漫画』だろう? あれは、私も分かりやすくて面白いと思ったよ?」


 気合を入れて書いたのが失敗だった。

 大人気になって、ジャンヌさんの知名度が一気に上がってしまった。

 それで、ジャンヌさんは首都へ。当分会えないとのこと……。グスン。


 泣き言を言っても何も変わらない。


「さて、書くか……。タイトルをどうしようかな」


「ユージの薄い漫画本も結構増えて来たね」


 本棚には、百冊以上の冒険譚が収まっていた。一冊数ページの漫画本なんだけどね。

 これが、この街での初心者冒険者の生存率を上げていると言われると、書き続けないといけない。


「ホーンラビットの本は、数冊描いてんだよな……。まだ失敗する奴がいる。伝わっていないのかな……」


「数冊纏めてさ、『ホーンラビット討伐編』にしたら」


 目の前のシーナさんが、提案してくれた。

 なるほど……。


「私は、とりあえず描きます。ギルド長と出版社の交渉は任せますよ」


 シーナさんは、いい笑顔だ。

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