第24話 裸の小夏
小夏はヴァイオリン教室に、週3日通っている。
いつものように学校から一回帰宅し、時間があるためヴァイオリン教室へ行くまでにざっとシャワーを浴びた
共働きの両親がまだ帰宅していないため、ミンチルは平然と脱衣所の洗濯機の上で丸くなっている。
「あー、さっぱりしたー」
シャワーを終えた笑顔の小夏が、全開放で浴室のドアを開け放つ。
ミンチルは片目を開け、大股で闊歩する全裸の小夏を見て、「この子、どうしてこれでスカートが短いことを気にするんだろう?」と疑問に思った。
元が猫型おもちゃであるミンチルは、人前とそうでないの区別があまりわかっていない。
「小夏ちゃん。あの姫子さん? って人は、どういう人なの?」
「え? なに? ミンチル? ど、どうしたの急に?」
バスタオルでがさがさと雑に髪を拭きながら小夏が振り返る。家猫と同じように、濡れることが嫌いとプログラムされているミンチルは、全裸で濡れている小夏に近寄らない。
「なんていうかな。もしかしたら……その小桜姫子って人が、仲間になってくれるかなと」
「え? そうなの? 小桜さん……姫子さんって魔法少女になれるの? もしかしてそうなの! やったー!」
姫子は魔女である。
魔女であることを知らない小夏は、仲間になれると諸手を挙げて喜んだ。全裸で。
「う、うれしそうだね」
「そりゃもちろん! 姫子さんって女子生徒から見て憧れなんだよね~。まあ上級生とか、こう……嫌ってる人も多いといえば多いけどさ。対抗するつもりがなかったら、素敵な人だしね~」
「そうなんだ。小夏は姫子が好きなんだね」
「好き……っていうか、憧れ? おっぱいが大きかったら、好きになってたかな~」
身体を拭いたあとは、髪だけ乾かし、全裸のまま自室へと向かう。
自室は二階の奥まったところだ。お風呂は玄関入ってホール挟んですぐという設計なので、小夏は自宅内のほぼすべてを全裸で移動することになる。
玄関入ってすぐ水回りという設計は、とある世界的なパンデミック時に両親が自宅を建てたため、つい導入してしまった。
子供のころは外で汚れててもすぐお風呂に入れられると、両親には好評で小夏には不評だったが今は逆転している。
帰宅後すぐ風呂に入るという習慣が小夏に付いてしまった。そのうえ、着替えを準備せず帰宅後すぐにシャワーを浴びるため、下着を自室まで全裸で取りに行く。
母親はできるだけ着替えを脱衣所に用意しているが、小夏は「今日はあの下着がいい」とわがままなため、やはり全裸で自宅を縦断してしまうのだ。
小夏はまだまだ子供、という身体なのでまだいいが、いやよくないが、いや、やはり男性にとってはいいぞもっとやれというところだが、そろそろこの悪癖は直さないと心配だ。
まず小夏はリビングに到達した。全裸で。
「というわけで、もし姫子さんが仲間になってくれるなら、姫子ちゃんって呼ぼうと思います!」
「憧れなのにちゃんづけなんだ。で、あらためて聞くけどどういう子なの?」
ダイニング前のテーブルを迂回し、ソファの間を抜ける。全裸で。
リビングの窓は薄いカーテンだけなので、かなり危険である。幸いリビングの窓の外は狭いながらも庭があり、隣家があって道路ではないので不特定多数に目撃される可能性は低い。
「清楚で優等生! 柔道とか強くて男子も投げちゃうし、優しくて、まあちょっと厳しいところもあるけど、綺麗で可愛いとか反則な感じ? ま、あたしが男だったら押し倒してるね」
「柔道で挑戦するの?」
「そういう意味じゃないけどさぁ」
日本語の言い回しと、人間の営みに疎いミンチルは、小夏のお尻を見上げながらついて歩く。
小夏はリビングを抜けて、自室のある二階へ続く階段を登る。全裸で。
「冗談で姫って呼んでる人たちもいるよ。なんか姫子さんが洗脳してる! っていう人たちもいるけど」
「洗脳……」
洗脳という言葉に、ミンチルが食いついた。
階段もまた全裸では危険である。スケルトン階段で手摺の柵は最低限、その上、吹き抜けをぐるりと回る形になっている。普段、リビングにいる家族から、小夏の大切なすべてが丸見えという環境だ。
しかもその行為を両親に怒られると、大股で駆け登って行くのだからさらにひどい。そんな全裸の小夏である。
二階の子供部屋へ行くため、かならず子供がリビングを通るという動線設定が裏目に出た結果である。
「そう。洗脳してくるくらい凄い女の子ってこと。わかるかなぁ。上級生とか同学年の一部の女子から酷評……ぶっちゃけ嫌われてるところもあって、そういう子が姫子さんにちょっかい出すんだけど、みんな仲良くなって信奉者になっちゃうんだよ」
「そうなんだ……」
ミンチルはどこか「やはり」という顔をした。猫の「やはり」という顔がどういったものか分からないが、猫ならわかるだろう。
二階に上がると正面には納戸のドアがあり、廊下が左に真っすぐ続いている。廊下の奥手にある左のドアが小夏の部屋だ。突き当りはトイレである。
ここからしばらくは安全だ。左の書斎、右の両親の寝室で、何の危険もない。
小夏の部屋の反対側、そこはバルコニーの出入り口で、ブラインドを下げないと全面ガラスのドアなのだ。
多少の目隠しがバルコニーにあるが、隣家の二階や三階から、小夏の部屋のドアが見えているのである。全裸の小夏が、毎日自室に出入りしているため丸見えとなる危険性があるのだ。
両親はなるべくブラインドを下げているが、今日は運悪く上がっていた。
「すごいんだから。みんなからは取り巻きって言われちゃうだろうけど、姫子さんをイジメようとしたクラスメイトなんてもう一番の親友だし、オカルト好きな子が姫子に呪いかけてたって言われてた子も、仲良しになってるし……。オカルトの子、仲間ってことない? 今日の朝も居たから、ミンチルも見たかもしれないけど」
「どうかな? ピンとこないなぁ」
「そっかー。その子、おっぱい大きいからいいんだよね。仲間になれたら、どんなコスチュームでおっぱい見れるか楽しみなんだけど」
小夏のぺったんこな胸は、今丸出しである。彼女こそ、誰かに見られかねない状況だ。
気にせず小夏は廊下を進み、全面ガラスのドアにおしりを向けて自室のドアを開けた。
「ま、一年生の時、姫子さんと一緒のクラスだったから、こっちから話しかけるのもできないことないから、仲間になれるか、ミンチル。調べてみてね」
「わかったよ。任された」
自室に入ると、やっとお気に入りの下着を手に取った。
「そうだ。あたしのコスチュームとか変更できないの? スカート長くするとかボトムを変えるとか?」
「できないかなぁ? どうして変えたいの?」
「だって、恥ずかしくない? あれ?」
全裸で家の中を玄関からここまで闊歩し、下着を履こうとして足を上げたまま止まっている十三歳の美少女が、短いスカートが恥ずかしいなどと言った。
人間社会に疎いミンチルも、これには眉をひそめた。猫の眉は触毛になっているので、実際に眉をひそめたわけではないが、そう見えた。
「キミが、それをいうの? その恰好で?」
「あのコスチュームさあ、レオタードなのにパンツとか言われてるんだよ! いやだよ、そんなの」
下着に片足を通した状態で、バランスを崩した小夏はボスン、とベッドに腰を下した。椅子の上に飛び乗ったミンチルの目線からでは、乙女の乙女なところが丸見えであった。
「パンツだよ」
乙女を曝け出す乙女に、ミンチルは事実を告げた。
「え?」
「アレ、パンツだよ。コスチュームの下になにもつけてないし、レオタードのようだけど前後の四つのボタンで引っ張って上げてるだけで、実質パンツだよ」
「え?」
小夏は下着を穿く手を膝下で止めて、呆然と立ち上がった。
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