第19話 クソサン全滅の危機、笑うしかないよね!

 校門にて、恐怖の塊である男が立っていた。

 何が怖いかと言うと、多分早く来て私が来るまで待っている事である。

 周りに女子が集まって、その男を囲んでいる。

 ちょうど良いので、横を過ぎ去って行こうと思ったら気づかれた。


「世羅ちゃん!」


 手を伸ばしながら迫って来る。昔から使っているボロボロのマフラーを上げながら横目で見る。

 勿論、顔では無く胴体だ。


「おはよう」


「うん。おはよう」


「⋯⋯ね、その頬の傷どうしたの?」


「止めっ」


 顔に触れようとして来た手を反射的に弾く。

「止めて」そんな簡素な一言よりも先に手が出た。

 今の私はかなりレベルが高い。二人で攻略出来る様になり、レベルアップスピードは上がった。

 スキルも少し増え、レベルも上がっている。

 軽く弾いただけでも、少し痛かったらしい。

 手をスリスリしながらこちらを見ている。


「本当に大丈夫! 何かあるなら、俺に言ってね。絶対、なんでも力に成るから。世羅ちゃんの為なら、なんでも出来るから!」


 少し食い気味に言って来る。

 なんでも力に成る? なんでも出来る? 言ってやりたい。「アホくさい」と。

 無駄に心配して無駄に関わって来て迷惑だと、真っ向から言ってやりたい。

 自分の思いを真正面から相手にぶつけてやりたい。

 だが、それは、オークの意を汲むよりも何段階も難易度が高かった。


「大丈夫だよ」


 だから、私は問題ないと言うんだ。

 ここ以上先に足を踏み込めない為に。無難で、すぐに会話を打ち切れるようにする為に。

 これ以上、ここに居たら他の人の目が集まってしまう。

 それがアイツらの耳に届いたら、また今日も酷いモノになる。


「それじゃ」


 早足でその場を去ろうとするが、腕を掴まれた。

 振り払いたいけど、無理に払って吹き飛ばしたくは無い。

 そのくらい、強く握っている。

 私に武道の心得があったら、この拘束も抜け出せたのかもしれない。


「本当に、大丈夫?」


「大丈夫だよ。私は元気だし、怪我もしてない」


「じゃあ、その顔の傷はなんなの!」


「これは、怪我じゃないよ。これは、御守りだよ」


「無理しなくても良いって言ってるじやんか!」


 ⋯⋯なんで否定するんだろう。なんで否定されるんだろう。

 私は昔よりも全然元気だ。栄養のある食事、朝昼晩のご飯、毎晩入れるお風呂、私の心を癒してくれる空間、心休まる人達。何よりも、最高の家族が居る。

 今の私は元気だ。何よりも元気だ。

 私のどこをどう見て、元気じゃないと、決めつけるんだろう。


 ウザイ。うるさい。めんどくさい。気持ち悪い。鬱陶しい!


 なんで痕の事を怪我だと決めつけられる必要があるんだ。

 私は心を込めて言ったろ。『御守り』だって。

 私の言葉はそんなに軽いか? そんなに説得力が無いのか!

 お前は私の何を見ている。お前は私の何を知っている。

 この痕は、私が本質を曲げずに上辺を曲げた証拠なんだ。

 変わろうとして、そして少しだけ変わった証明なんだ。

 痛みと恐怖に打ち勝った証拠なんだ!


 なんで、なんでそれを他人なんかに否定されないといけないんだ。

 裕也さんにも、紗波さんにも、大丈夫だと心配された。だけど、きちんと言ったら伝わったんだ。

 なのに、なんでこの男は私を一番心配する風を装っているのに伝わらないんだ。

 こいつの偽善が一番私を汚す。不快にする。


 だから、今の気持ちを込めた瞳で、相手の目を見てやった。

 なんかもう怖くない。今あるのは怒りだけ。


「大丈夫だからさ。もう、良いでしょ。解放してよ」


 そう言った。

 イケメンの偽善を私は否定した。そしてそれを証明する証人達がここには大勢居る。

 悲しき事かな。こうなると、悪いのは私であり、そして誰も近づきたくないアイツらにも近づく。

 そして情報が渡るのだ。


 こうして、再び私はいつもの場所に呼ばれる。

 だけど、勘違いしないで欲しい。私は私だ。昔の私とは少し違う。

 もうそろそろ、これも終わらせる必要があるだろう。


「調子に乗っているお前の腹に、拳をめり込ませてヤラ!」


「何その傷きっっも! 気取ってんの?」


「やれやれ〜バズるかなぁ?」


 いつもの拳。それを避けた。

 うん。今の私はこの女のレベルよりもかなり高い。

 動きが遅く見える。レベルの差があれば、技術も素の身体能力も凌駕する。

 それがこの世界。理不尽な世界の権化。ある種の平等体現。


 躱された事に怒りを覚えたらしく、スキルを利用した拳を飛ばそうとする。

 流石にそれはきついと思い、防御姿勢を取る。

 だが、その時、この学校に居る全ての人間が予想不可能の事態が起きる。

 体育館を破壊し、中から大きな鬼が出て来る。

 オーガ、その言葉が良く似合う鬼。武器は金棒である。

 太いトゲトゲの金棒。


「なんだ? 【火風の拳】【鉄拳制裁】【炎龍の咆哮】!」


 美波が速攻でオーガへと接近する。そのスピードは確かに速かった。

 そして、生み出した遠心力を利用し、拳に火を纏わせ、スキルで自分を強化し、拳を突き出す。

 だが、射程の差が存在した。


「ごふ」


 金棒が体にめり込み、第二体育館の壁まで吹き飛ばされる。


「へ?」


 それによって、クソサンの他二人が呆然とする。

 当然だ。一番強い奴があっさり負けたんだから。


「ヒノ、後ろに飛んで」


 近くに潜んでいたヒノが私の隣に来て、後ろに飛んでその場を離れる。

 それに気づいた他の二人が手を伸ばして来るが、その横にある体育館の壁がもう一体のオーガに破壊された瓦礫に潰される。


「あああああああ!」

「いぎゃああああ!」


 その光景に私は、高揚感を感じた。

 続々と近場の人間から集まり、管理局に連絡する人も居る。

 モンスターを退治に来るプロ達が来るまでに、一体どれだけの人が犠牲になる事やら。

 責任は学校と政府に求められるだろう。ただ、責めたい人達が。

 何もしないくせに一丁前に否定するカス共が群がる事だろう。


 カメラを握った人が乗るヘリコプターが来るだろうか。

 悲惨に成るであろうこの場を全世界に報道するのだろうか。

 楽しみだなぁ。


「たずっ」


「だれが」


 足が瓦礫に埋まり、身動きが出来ない二人が掠れた声で目を見開き、手を伸ばして必死に、文字通り命を懸けて助けを懇願する。

 だが、どうだろうか。

 これが答えだ。答えを示すように、誰も奴らを助けにいかない。

 いくら金持ちの子供だろうが、死んだら何も変わらない。

 誰だって死にたくない。犠牲になる人が他人ならそれまでだ。


 すぐに移動した私を二人は見てくる。


 なんだ、その目は?

 今まで散々、暑い夏の日にお湯を掛け、寒い冬に氷を入れた水を掛け、掃除は丸投げ、日頃のカツアゲ、ストレス発散の暴力、罪の擦り付け、言えばキリがない事をして来た奴らが?

 この私に、助けを、求めるのか?


 笑うしかないよね!


 今までして来た事を棚に上げて助けを求める。

 生きたいから全てのプライドやこれまでの事を捨てて助けを求める。

 どうしてこうも滑稽に見えるだろうか!


 因果応報、まさに君達に合う言葉じゃないか!

 さぁ、もうすぐオーガがその金棒を振り下ろす。

 それで奴らの命はそこで終わりだ。

 あっさりと、終わるんだ。


 必死に助けを求める馬鹿どもに、私は笑みを返してやった。

 これが、お前らのして来た結果だと、伝える為に。


 ◆

 七瀬世羅

 レベル:61

 スキル:【神器保有者】【魔剣契約者】【痛覚超耐性Lv3】【精神保護Lv3】【気配遮断Lv4】【投擲Lv4】【遠目Lv3】【暗視Lv6】【敏捷強化Lv3】

 ◇


 ◆

 神器:ヒノ(枕)

 所有者:七瀬世羅

 レベル:7

 スキル:【破壊不可能】【自由移動】【自由意志】【回復魔法Lv7】【回復強化Lv7】【催眠術Lv7】【硬質化Lv7】【睡眠回復】【サイズ変化】【性質保護】【収納空間】【高速移動】【睡眠質向上】

 ◇


 ◇

 血飢えた魔剣ブラッド・シュヴェールト

 所有者:七瀬世羅

 レベル:3

 スキル:【破壊不可能】【血液保存】【吸血Lv3】【血流操作Lv3】【自己再生Lv3】【成長加速】

 ◆

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