小説『妖琦庵夜話(1~9)/榎田ユウリ』

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『妖琦庵夜話(1~9)』榎田ユウリ/著 角川ホラー文庫

以下角川文庫公式サイトより

「美貌の青年茶道家・洗足伊織は、妖怪のDNAを持つ異質な存在。しかし明晰な頭脳と、不思議な力を持つがゆえに、警察に頼られて、妖怪がらみの事件に巻きこまれることに。茶道家探偵、鮮烈に登場。」


いわゆるキャラクター文芸です。

レーベル的に角川ホラー文庫から出ていますが、そんなにホラーではないです。どっちかというとミステリー要素多めかな。


モノローグが作中に毎回入るのですが、これがミステリー要素となっていることが多く、誰のいつのものか、とか想像しながら読んでいき、事件の全容を知った上で再読するとまた大変おもしろい、というお得な作品です。何回読んでもおもしろい。


妖怪がキーワードとして出て来ますが、妖怪は出て来ません。

人間とはちょっと異なる特徴のある人が、その特徴から妖怪に準え「妖人」と呼ばれ人に混じり生活している。そんな現代の日本が舞台のローファンタジーです。

まあこの辺は作品の肝となる部分でもあるので、作中できっちり説明されています。


とにかく人間とは異なる特徴がある人たちがマイノリティとして登場します。

まあ、起きますよね。差別。

人間っぽいけど、人間とはちょっとだけ違う、そういうX-MEN的な人たちをどう扱うか、そして当の妖人達はどう生きるか、そんな感じのお話です。


警視庁妖人対策本部、通称Y対の新人刑事、無知でおバカな脇坂洋二くん(狂言回し)が、妖人で美貌の青年茶道家・洗足伊織(主人公・探偵役)にお小言を頂戴し嫌味で小突き回されながら、事件解決のために奔走する、っていうのがほぼ全巻に共通するあらすじ。

コージーミステリーではありません。時に人が死ぬような事件が起き、妖人は差別され、惨い仕打ちを受けることも、その逆ももちろんあります。

ただ、救いもちゃんとあります。ほっこりとした優しさも、楽しいことも嬉しいこともちゃんと存在します。

なので軽い気持ちで読んで大丈夫です。どうぞどうぞ。


あとは、キャラクター文芸だけあって、キャラクターが大変魅力的です。

物語が進むにつれ、主人公である洗足伊織にまつわる過去や因縁もぐるんぐるんに絡んできます。

洗足家の家令で管狐の夷さん、洗足家の小豆とぎマメくん、叩き上げのベテラン刑事のウロさんに、おっかねえ青目、その他各巻で事件のカギとなる妖人の方々が登場し、たいへん賑々しく物語を彩ります。


9巻「ラスト・シーン」で、本編としては完結済みです。

たぶん番外編とか短編集的なものが予定されているのだと思われる。


最後はね、もう、納得するしかないけど「ああああああああああああああそうですかああああああああああああああ」ってなる、尊くて美しい終わり方です。

だってもうしょうがないじゃん、ご本人がそれで納得しちゃってるんだからさあ! みたいな。

唸った後で、ちょっとしょんぼりして、しばらくしてやっと吞み下して「……尊い」って呟く感じのラストでした。伝われ。


とにかくすごく好きな作品。今後も繰り返し読む予定です。

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