第44話 ひらめきの死闘

 パーティの中でもっともHPの高いリーフが、たった一発の大技で戦闘不能になってしまった。

 

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 リーフ HP 0/230 戦闘不能


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 アイシラの中に油断と慢心まんしんがあったこと。これは認めるしかなかった。

 まさかボスですらない、入り口をふさいでいるだけの敵がこんなに強いとは。

 いまパーティの中に戦闘不能をいやせる者はいない。

 かわいそうだが、リーフにはしばらくあのまま耐えてもらう必要がある。

 

「うおお!」


 キュインキュインキュイン!


 こんな場面で。いや強敵と戦っているこんな場面だからこそ。

 タカキは課題としていた槍の新技をひらめいた。


《ダブルインパクト》!


 ガスガスッ!


 素早い二連撃がカエルのわき腹に二つ穴をあける。

 だがそれでもまだ倒しきれない。

 本当にしぶとい敵だ。


「あ、ああこんな、こんなことって……」


 リーフのあわれな姿に動揺して動けなくなってしまったベルトルト。

 アイシラはそんな彼に駆け寄りながら回復魔法をかける。


《みずのいやし》!


 水の魔力がベルトルトの身をつつむ。

 1/3ほどしか残っていなかった彼のHPは全快になる。


「リーフはまだ助かる、戦って」

「う、うん、でも」

「ここで負けたら助かるものも助からない! 戦って!」

「わ、分かった!」


 ベルトルトは顔面蒼白そうはくになりながら剣を振る。

 もう相当ダメージを与えているはずだが、まだ終わらない。


 敵の番(ターン)。

《おおがえる》は、HPマックスのベルトルトやアイシラではなく、タカキをねらった。


《キック》!


 ドゴォッ!


 カエルの巨大な後ろ足がタカキの身体を蹴り飛ばす。


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 タカキ HP 0/200 戦闘不能


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 あっさりと。うめき声すらなく。

 あまりにも簡単にタカキは戦闘不能になった。


「しまっ……」


 アイシラはまた自分が判断ミスをしたことに気づいた。

 ついうっかり・・・・・・心身ともに傷ついていたベルトルトを優先してしまったが、より攻撃力の高いタカキを優先するべきだったのだ。

 それなら今の一撃は耐えられたし、そもそも攻撃対象に選ばれなかった可能性まである。


 戦場は非情なものだ。

 勝つためには貧弱なベルトルトなんて後回しにすべきだった……。


 残されたのは、アイシラとベルトルト。

 貧弱なほうの二人だ。


 ――GAME OVERの八文字が、脳裏のうりをよぎる。


 だが。


「ざっけんなあぁー!!」


 ここで終わってたまるか。

 またあの劣等感にまみれたみじめなニート生活に戻るなんて。

 家族から侮辱ぶじょくされまくるサンドバッグのような人生に戻るなんて、冗談じゃない。


 キュインキュインキュイン!


 アイシラはこの土壇場どたんばで技をひらめいた。

 奇跡、と呼ぶにはちと安い。

 強敵との戦いでは特に能力が上がりやすい仕様のゲームなのだ。

 だからこれは、やや必然に近い幸運。


《りゅうせいキック》!


 最近放置ぎみだった体術の上級技。

 気絶している弟にとっても最大の火力をもつ、強力な技だ。


「うりゃーっ!」


 ドゴオォン!


 今まで自分が出したこともないような、大きな数字ダメージが飛びだした。

 巨大カエルは大きくよろめく。

 だが、それでもまだ、この化け物を倒すにはいたらない。 

 

「ウソでしょ……!?」


 さすがにもうどうしようもない。

 自分は限界をこえて力を尽くした。

 これで倒せないんじゃ初めから無理だったって話だ。

 

「ゲロォ……」


 カエルは舌をのばして攻撃してくる。


《した》


 ドガッ!


 強烈な打撃がアイシラの全身を打つ。

 それだけにとどまらず、カエルの舌はアイシラの身体をつかまえてそのまま口の中へ。


 バクッ!


 あわれアイシラは巨大カエルに食べられてしまった。


(最悪……、よりにもよってカエルのエサとか……)


 食道、あるいは胃壁が乙女の身体をしめつけてくる。

 呼吸ができない。そもそも酸素が薄い。

 これでは消化するしないの前に窒息ちっそくしてしまう。


(ダメだこれ、マジでどうにもなんない……)


 薄れゆく意識の中で、彼女は鳴り響く希望の音を聞いた。


 キュインキュインキュイン!


 そうまだパーティには一人だけ残っていた。

 これまでさんざん貧弱だの臆病おくびょうだのお坊ちゃんだの馬鹿にし続けてきた、貴族の色男が。


「うおおーっ!」


 外から声がする。

 何がおこったのか、正確にはまだ分からない。

 だが朦朧もうろうとした意識の中、アイシラはまぶしい太陽の光が自分を照らすのを感じた。

 

「い、生きてる……?」


 ようやくそれだけ声に出せた。

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