第42話 からのかんむり

 とりあえず一階の探索は完了した。

 掃除用具以外これといった収穫なし。

 台所は整頓されていてホコリさえ払えば使えそうだが、調理器具のほとんどは腐食ふしょくがひどくてとても使う気にはならなかった。


「二階……行くの無理かなあ……?」


 アイシラは未練みれんたらしい表情で崩れた階段を見上げた。

 腐っている所はタカキが踏み抜いた場所以外にもあるだろう。 

 普通に考えれば上らないほうがいい。

 だが二階は皇帝の寝室とか客間があるはずで、お宝が眠っている可能性はそちらのほうが高い気がする。

 そしてそれ以前に『すみずみまで探索しつくさないと気がすまない』のがゲーマーのサガだった。


「俺にはうるさく言うくせに自分は無茶する気?」

「う……」

 

 弟にこう言われてしまっては、姉としてどうにもできない。

 あきらめるしかないのか。

 そう思ってガッカリした、まさにその時だった。


 チチッ。


 階段の上から、小動物の鳴き声がした。

 

「ヒッ、ネズミ!?」


 ベルトルトが女の子みたいな悲鳴を出す。

 さっきはいたふうなウンチクを語っていたが、けっきょくネズミが怖いだけのようだ。

 しかし今度はネズミではなかった。大きさなど似てはいるが、リスだ。


「あっリスだ、かわい~!」


 リーフが黄色い声を出す。

 実際クリクリっとしたひとみでこちらをうかがう小動物の姿は、とても愛らしい。 

 

「あの子どっから入って来たのかしら」


 何気なにげない疑問が、問題解決のヒントになった。

 タカキがほんの思い付きを口にする。


「外の木から登って来たんじゃないの、窓ブチ破ってたじゃん」


 たしかに。

 太い枝がのびすぎて、窓ガラスを突き破っている箇所かしょがあった。


「ああなるほど……ってそれよ! それでいこう!」


 外から回り込んで木の上から飛び移る。

 RPGならわりと良くあるパターンではないか!


 アイシラは元気よく庭に飛び出すと、さっそく木登りをはじめた。

 山猿のようにスルスルスルーっと登りきると、くだんの窓まですぐたどり着く。


「姉さん! 木登りは危なくないわけー!?」


 下から多少の皮肉まじりに言ってくる弟。

 姉は木の上から言い返した。


「危ないように見えたかしらー!?」


 自信たっぷりの笑顔を見せられて、タカキは苦笑するしかなかった。


 アイシラは槍の石突いしづきで中途半端に残った窓ガラスを全部割ってしまい、まんまと中へ侵入成功。

 どうやらここは皇帝の居室だったようだ。

 部屋は非常に広く、ホコリにまみれていてもあらゆる物が高級品であることを感じさせる。

 

「さてさてさーて……おっ!」


 アイシラはこれ見よがしに宝箱があるのを発見した。

 さすがはゲーム。演出が露骨ろこつだ。

 開けてみると、そこには《からのかんむり》という頭防具が入っていた。 


「はて? こんなアイテムあったかな?」


 どうも記憶にないアイテムだった。

 見た目はかんむりである。

 といっても王様が頭にかぶるようなものとはイメージがすこし違って、RPGのメインキャラが身につけているようなタイプのやつ。

 ド〇クエⅢとかⅣの勇者がかぶっているようなやつだ。


 しかし中央の、宝石が埋まっていなくてはいけない場所が空欄くうらんだった。

 つまりこの《からのかんむり》、漢字に変換すると《空の冠》になるのだろう。

 

「フーン」


 はめ込む宝石も屋敷内にあるのかと探してみたが、それらしきものは無い。

 いくつかふつうのアイテムも発見したが《からのかんむり》より良さそうなものは見つからなかった。

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