契約三昧 後半 その四
一九一九年七月 帝居地下 神殿区画
◇
衝撃法を併用し
目標は瑠璃家宮 像。
剛身法で肩部を硬質化させ、一撃の下に砕く積もりなのである。
一方の瑠璃家宮 陣営は虚を突かれた。
あまりの噴進力に〈
〈
多野が最後の防波堤として
「ラ~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」
「ラ~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」
「ラ~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」
突如水平方向に吹っ飛ぶ橋姫。
〈
窮地を脱した瑠璃家宮 陣営は報復行動を開始。
墜落した橋姫に、
この状況を黙って観ていられる気狐ではない。
身の危険を
「ああくそっ!
後先考えず突っ込みやがって!」
風天・自在法で大気を纏い、水中で息が続くよう準備する気狐。
一方の橋姫は、剛身法を使っている事が
それと云うのも、剛身法は体内に鉱物を生成して硬化させる秘術。
そう、生成した鉱物分の重量が体重に加算されてしまうのだ。
そのため身を守れてはいるものの、
このまま霊力切れになれば、
「てめえらあああああああぁぁーーーーーーーーーーーーっ!」
怒りに我を忘れそうになる気狐。
彼が
⦅『若さゆえ直ぐ
怒りに身を任せれば、勝てる闘いも勝てなくなるぞ。
くれぐれも冷静さを失わないよう鍛錬を積むがいい。
さすれば術の精度も上がり、お前の技も美しく完成するだろう……』
確か師匠はそう言ってたっけ……。
完成させんのは無理そうだけど、橋姫を助ける為にはやるしかねえか……⦆
覚悟を決めた気狐は蝉丸に後を託す。
『蝉丸。
オレ今からアレやるんで、あと頼むわ。
何としてでも橋姫を連れて帰れよ。
それから師匠に言っといてくれ。
出来の悪い弟子でごめんな、って。
じゃあな蝉丸。
お前の出世をあの世から応援してるぜ……』
気狐が死ぬ気だと知り、取り止めるよう懇願する蝉丸。
『早まってはいけません!
その技は未完成の筈。
下手をすれば犬死にですよ!
僕が何とか脱出方法を探しますから。
気狐、お願いですからそれまで待って……』
三鈷槍を元の三鈷杵に戻し、腰の
蝉丸の忠告を無視して三密加持に入った。
内縛し、右手の親指を立てる形の
『――オン・アロリキャ・ソワカ――』と
「
既に展開している風天・自在法で水面と自身とを繋ぐ
両掌を広げて伏せ、両親指の側面を付けて並べる。
両親指は僅かに曲げ、中指、薬指、小指は緩やかに曲げた。
人差し指は第二関節から深く曲げ、先端同士を付けるは
『――ナウマク・サンマンダ・ボダナン・アニチャヤ・ソワカ――』と
「
金剛薩埵の種子字を唱えた気狐が三鈷杵を構えると、再度三鈷剣が生成された。
但し今回の三鈷剣は無色透明で綺麗に透き通っており、外光を溜め込んでは、
剣の内部からは七色の輝きが溢れ、神話や
魔法の三鈷剣が震え始める。
三鈷剣の振動を察知し、警戒の念を
何故ならば、その振動が天芭 史郎が使用した秘術と同種のものだったからである。
日天・焦光法は、電磁波を照射して対象を加熱する秘術だ。
外吮山での闘いの際、焦光法で水を加熱された瑠璃家宮 陣営は大打撃を
それが目前で展開されているのだ。
警戒しない訳にはいかない。
蔵主は橋姫をいたぶっていた手を止め、気狐の
⦅うぅ~ん……。
ここに満ちている邪念水を沸騰させようとしているのでしょうかぁ?
でも水量は膨大ですからねぇ。
流石にあの天芭 史郎でも無理でしょう。
じゃあいったい何の為にぃ……ん?
邪念水ぃ、じゃなく剣が熱くなってますねぇ。
何の為にそんな事をぉ?⦆
狙いを見抜けない蔵主を余所に、気狐は三鈷剣周囲の空間に細工を施す。
剣周囲の空気から、酸素、二酸化炭素、
アルゴンは反応性の低い不活性
電球や蛍光灯に封入されているのもアルゴンだ。
気狐はこのアルゴンで三鈷剣の刀身を包み、焦光法で加熱しているのである。
何故そのような事をするのか。
それは刀身の材質に理由がある。
刀身の材質は
それも今まで使用して来た多結晶
元より
その
そう、気狐はいま生成している三鈷剣を一般的な刀剣として利用したいのではない。
単結晶
高まる振動と熱に比例し、魔法の三鈷剣は更に輝きを増す。
それは外光によってだけでなく、焦光法による放電で周囲のアルゴンも発光し始めたからだ。
アルゴンは通常無色だが、高圧電場下に置かれると紫色に発光する。
しかし、三鈷剣周囲の発光色は青紫色。
その意味を理解した蝉丸は、気狐を必死に説得する。
『気狐⁈
霊力が残っていないから寿命を削っていますね!
そんな状態でアレを使ったら、たとえ命が助かったとしても術者としては再起不能になるかも知れませんよ!』
『……かも知れねえな。
覚悟を決めた気狐は、三鈷剣を振り
風天・自在法を駆使し後方へ空気を噴出する事で、強引に水中での推力を得ていた。
気狐の接近に気付いた〈
〈
〈
斬り結ぶ。
擦れ違った〈
橋姫は水中で活動する力を失い、もはや
身体の自由が利かなくなった橋姫を右肩に担ぎ、左掌の裂け目をグパァ……と捲った蔵主。
出現した掌棘を橋姫の
そして言葉の意味が解るよう、
『こんなにプリプリしたオケツわたくしも欲しいですぅ。
それにぃ、お
若いって素晴らしいですねぇ♪』
「オレの怒りは……爆発寸前!」
気狐は、姦悪なる異形をその剣で焼き尽くさんと飛び出した――。
◇
※演出の都合上デーヴァナーガリー文字を使用していますが、縦組み表示では正確な象形が表示できません。
正確な象形を確認したい方は、横組み表示にてご確認ください。
対象のデーヴァナーガリー文字は〔
契約三昧 後半 その四 了
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