第5話 魔王討伐のお触れ
《そろっているようじゃな。……さて。国を憂う諸君らには既に承知とは思うが、異次元へと封印されたはずの魔王が、近頃頻繁に自らの幻影体を我が国に送り込み、甚大な被害を出してきておる。民の平穏と安寧のためには、一刻も早くこの暴挙を止めねばならん》
そうして、どこか重々しい空気で始まった国王の演説は、雰囲気そのままに、かなり切迫した内容だった。
中庭を見下ろせるバルコニーに立ち、野太い声でそこまで語った国王は、ふとそこで横の宰相へ顔を向ける。すると宰相は一歩前に出た後、直前の流れを汲みながら続きを話し始めていった。
《しかし、幻影体はその名の通り実態を持たない存在であるため、倒しても特に本体には影響がありません。……そこで我が王はついに、魔王の封印自体を解き、直接本体の討伐を命じる決断をなされました》
その言葉を聞き、中庭がにわかにざわつき始める。
だが次に国王が放った発言は、それとは比較にならないぐらい、一同に衝撃を与えるものだった。
《今から諸君らに、魔王討伐を命ずる! そしてその見返りとして、無事魔王を討伐できた者には――我が娘を娶る栄誉を与えようぞ‼》
《……っ、お、お父様……⁉》
後ろで控えていたお姫様が、思わず国王の下へ駆け寄る。……その反応を見るに、この話は事前に伝えられてはいなかったのだろう。
《此度ここに招集されているのは、我が国きっての英傑達ばかりです。どなたが姫の伴侶となられましても、お相手に不足はないかと》
《お前も良い歳じゃ。今回のことは将来を考える上で、良い機会ともなろう》
《……。……はい》
そんな説得を受け、幾ばくか沈黙を挟んだお姫様は、結局それに静かに頷くことしか出来なかった。国王はそれを見て満足したような表情を浮かべた後、群衆へと向き直る。
《しかし英傑達よ、魔王へと至るには幾重もの試練を乗り越えなくてはならん!》
《……詳しくは私からご説明致します。まず魔王の封印を解くためには、古より伝わるアルティメットブレイドが必要です。ですがそのアルティメットブレイドもまた、先の勇者によって、刃と柄にそれぞれ封印を施されております。よって、封印を解く鍵を合計二つ得た上で、かつアルティメットブレイドからも清き心の持ち主だと認められなければ、魔王討伐はおろか、彼奴と対峙することすら叶いません》
《うむ。しかし諸君らならば必ずや、この試練を乗り越えてくれると信じておる!》
国王はそういうと、黒い珠がついた杖を高らかに掲げながら、言い放った。
《――ゆけ! 勇者達よ! 今度こそ魔王の息の根を止めてくるのじゃ!》
――ウオオオオオーー‼‼
そんな男達の叫び声が木霊し、集められていた者達が我先にと中庭から飛び出してゆく。
……いやその叫び声、絶対姫と結婚するぞという下心から発せられてないか……?
などと、バルコニーから引き上げてゆく国王を眺めながらぼーっと考えていると、あらかた人が出払った後で、横からまたキザったらしい声が聞こえてきた。
《おや、ぼうっとしていていいのかい? この国で最も美しい女性を手に入れられるチャンスだというのに。……まあ僕としてはそうしておいて貰える方が、ライバルが一人減って助かるんだけどさ》
そんな発言の後、金髪は悠然と俺の脇を通り抜けていく。
と、そうして中庭に誰もいなくなり、足音も全く聞こえなくなったところで、時乃がゆっくりと近づいて来た。
「……とゆーお話です」
「説明全てを丸投げしたって感じのセリフだなおい」
思わずジト目で見つめてしまう。だが時乃は悪びれる様子もなく答えた。
「だってわたしの口から説明するより、絶対今の見た方が分かりやすかったじゃん。ちなみに、これ以上覚えておくべきことはないから安心してね。後はさっき言ってた内容を順番にこなしていけば、自然とストーリー追えるようになってるから」
「なるほどな。……なあ、ちょっと良いか?」
「なに?」
「王様の横にいた奴のセリフ、長すぎて全部忘れた」
それを聞いた途端、時乃がギャグっぽく肩から崩れ落ちた。
「あのねえ……」
「だって仕方無いだろ? お姫様かわいそうだなーとか、絶対これ魔王の封印解き放っちゃダメな奴だろーとか考えたりしてたら、イベント終わってたんだよ」
「全くもう……それじゃ、もう一度おさらいするよ? まず、封印の鍵があるダンジョン2つを攻略。で、アルティメットブレイドの封印を解きに行ったら、魔王が封印されてるダンジョンに行って、魔王と対峙。これがひとまずの攻略チャートね」
「つまり……ダンジョンはいくつあるんだ?」
「封印の地には敵がいないから、実質3つだね。……まあ、DLCではダンジョン化するんだけどさ」
「DLCではダンジョン化」
思わず言葉を繰り返してしまう。……DLCって確かダウンロードコンテンツの略だったよな? いずれにしても明らかにメタな解説である。
「そ。ちなみに各ダンジョンの詳しい位置なんかは、本来あそこの宰相に聞く必要があるんだけど……わたしもいるし、特に聞きに行かなくても大丈夫だからね」
そんな解説にふと振り返れば、確かに国王が引き上げたバルコニーには、まだ宰相とお姫様が残っているのが見えた。
「……お姫様、うつむいちゃってるじゃんか。かわいそうに」
「ん、そう思うなら、様子見に行く? 話しかけたら、慰めてあげられるよ」
「そうなのか? じゃあ折角だし、話してみたいな。めちゃくちゃ好みのタイプだし」
そう口にしながら、バルコニーへと上がる階段を探そうと辺りを見渡していると、時乃が何故か急に声を張り上げる。
「……‼ あっ、えっと、す、ストップストップ!」
「……いきなり何だよ?」
「いや、やっぱり話しかけちゃいけなかったの! その……好みだって言うならなおさら‼」
「なおさら? ……どういうことだ?」
「あっ……えっと、その……」
そこで口ごもると、かなり言いづらそうにしながら、時乃は続きを口にしていった。
「……話しかけたときに出る選択肢によって、エンディングが変わっちゃうってこと、思い出してさ。だから……」
「……変わると何か問題があるのか?」
「むちゃくちゃ問題なの!! ……その……ば、爆発! お姫様爆発しちゃうから!」
「何でだよ」
思わずツッコミを入れるが、しかし時乃はそれを聞き流しつつ俺の背後に立つと、ぐいぐいと背中を押し中庭から外へ出そうとしてくる。
「とにかく、ダメなもんはダメなの! はい、寄り道する暇あったらさっさと先に進もう! ほらほら!」
「……これまで散々寄り道させてたのはどこの誰だよ……?」
そうぼやきをいれるが、しかし時乃の反応は変わらず。
……まあ、ここまで時乃が意固地なのには、何かしら理由があるんだろう。
結局俺はそう納得し、半ば強引に押される形で、そこから立ち去ったのであった。
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