44 サクラ
ソーラーパネルが欲しくて、色々と調べていた。
PCを動かせるようなものがほしいが、そんな金はない。
せめてスマホの充電ができるくらいのをと探してみたが、これまた俺の予算をオーバーしていた。
そんなある日、通販サイトで随分と安いソーラーパネルを見つけた。
レビューもそれなりに多いので安心だろう。
俺はそのまま購入した。
しばらくして届いたそれはなんとも微妙な代物であった。
壊れたりはしないが、とかく使い勝手が悪い。電気はなかなか溜まらないし、蓄電池の性能も良くないらしくて、せっかく溜めた電気もすぐに放電してしまう。
値段に惹かれて買ったわけだし、動いている以上、文句を言う筋合いもないわけだが、それでもなんとかならないものか。
そういえば、届いたときに「お客様がレビューを作成した場合、私たちは商品価格の50%ギフト券をお客様に提供することが可能です!」というメッセージが入っていた。
ここから半額ならば、まだ許せるだろう。
そう思って心にも無いレビューを書く。「心にも無い」より「心もない」のほうが正確かもしれない。
生成AIに書かせたのだから。
レビュアー:モロ出しキャンパー
★★★★★ この値段でびっくり
最近キャンプ用に購入した卓上ソーラーパネル、本当に素晴らしいです!小型なのに思った以上の出力で、スマホはもちろん、ポータブルバッテリーも問題なく充電できました。以前使っていた製品では曇りの日にまったく充電できませんでしたが、この商品は曇り空でもちゃんと動いてくれます。
さらに、軽くて持ち運びやすいのが本当に助かります。キャンプやアウトドア好きの友人にも勧めたくなる商品です。購入を迷っている方は、ぜひ試してみてください!
商品はなんともいえない代物であったが、ギフト券は本当にくれた。
まぁ、俺のレビューに騙されたやつがいたら、ご愁傷さま。
半額返ってくるから、せいぜい、あんたもレビューを書いてくれ。
◆◆◆
それにしても通販サイトというのは面白い。
正規のメーカー品とどこのものともわからぬいかがわしい代物が混じるこのサイトは、昔旅行で行った偽物市場とお硬いデパートが同じ敷地内に同居しているかのようなところだ。
俺は性懲りもなく偽物市場側のほうに惹き寄せられてしまう。
もちろん、俺にだって学習能力は多少ある。
サクラレビューばかりで偽装した商品をチェックするサイトを使うようになっていた。
だから、探していたデジタルフォトフレームが【危険度95パーセント】と表示されても驚かなかった。
同じような日付に似たような褒め言葉だらけのレビューが多数並ぶ。
それでも注文ボタンを押してしまったのは、販売者が前と同じだったからだ。つけられた値段とそこからさらに半額になるのではないかというしょうもない期待。
あれだけレビューがついているのだから、もう半額バックみたいなことはやっていないかもしれない。そのことに気がついたのは注文した品の発送メールが表示されて後のことである。
ただ、これは杞憂に終わった。
届いた品は、前回と同じく微妙な代物だった。
「お客様がレビューを作成した場合、私たちは商品価格の50%ギフト券をお客様に提供することが可能です!」という微妙に不自然なメッセージが入っているのも前回と同じ。
俺も前回と同じくAIにレビューを書かせた。
レビュアー:モロ出しキャンパー
★★★★★ 家族みんなが笑顔になりました!
最近、リビング用に購入しましたが、このデジタルフォトフレームは本当に感動ものです。設置も簡単で、Wi-Fi接続を使えばスマホからすぐに写真を送れます。特に年末年始、離れて暮らす両親が孫の写真を毎日更新して楽しんでくれています!
解像度が高く、写真がとても鮮明に映るのも素晴らしいポイントです。さらにスライドショー機能もあり、見ているだけで幸せな気持ちになります。もっと早く買えばよかったと思っています。お値段以上の価値がありました!
写真を飾る場所に困っている方や、大切な思い出を家族と共有したい方におすすめします。
俺は独り身だし、入れてる写真もネットで拾ったグラビアアイドルの写真だけどな。
あの値段からさらに半額だったら安いものだ。
◆◆◆
その後もいくつか同じ会社の商品を買い続け、AIレビューで半額バックをしてもらうことを繰り返していると、会社からのメッセージが届いた。
少し怪しげな日本語だが、まぁ、意味はわかった。
俺は優良レビュアーだから、商品をタダで送ってくれるのだそうだ。
タダより高いものはないなんて嘘っぱちだ。
レビューはAIに書かせて、使えるものは自分で使い、使えないものはネットオークションで二束三文で売り払えば良い。
そもそも購入記録がないとレビューもかけないのではないかと思ったが、どういうわけか書けてしまった。
微妙に使い心地の悪いタブレットPCをもらって、エロ動画閲覧用にした。スマホよりは画面が大きいし。
よくわからない懐中電灯付きラジオをもらって売り払う。
微妙な使い心地の風呂用テレビは一度使ってから売り払った。俺はほとんど風呂に入らない。
いかにも微妙そうなポータブル電源を送ってもらって、未開封で売り払った。そもそも、重すぎるんだわ。
微妙な……微妙な……微妙な……。
品物を確認するとその場で生成AIにレビューを書かせる。
AIレビューはすべて通販サイトで購入済みという扱いで表示される。
それにしても、どういう仕組みかわからないが、悪党というのは知恵が回るものらしい。
その割には、AI丸投げの俺を優良レビュアーとか思っちゃうのだから、どこか抜けている。
向こうは俺を騙して使っているつもりかもしれないが、俺は向こうを利用している。
俺は鼻を鳴らして笑う。
けっこういい小遣い稼ぎになるのだ。
ある日、会社が送ってきたのは、どうにもこまる代物だった。
こんなもの送られてきても嬉しくないし、売れるのか定かではない。
捨てようにもこんなものがゴミ袋から透けていたら、誤解されそうだ。
レビュアー:モロ出しキャンパー
★★★★★ ユニークで驚きのアイテム!
最近、インテリアとして購入した猿の生首フィギュア、これが想像以上に面白いアイテムでした。まず、細部まで非常にリアルに作り込まれており、まるで本物のようです。特に毛の質感や表情のリアルさには驚かされました。
サイズも程よく、リビングや書斎の棚に置くと一気に個性的な雰囲気が出ます。友人が家に来た際には「これ何?」と必ず話題になるほどです。少し奇抜ですが、ユニークなインテリアを探している方にはぴったりだと思います。
特に、ホラーやダークな雰囲気が好きな方にはたまらないアイテムです。ぜひ試してみてください!
いつものように一分で作ったレビュー、今回はどういうわけかコピペしながら笑ってしまった。
「ぜひ試してみてください!」という文句、生成AIちゃんも俺の気持ちをよく酌んでくれてる。
まじで、俺のところのこのゴミ、誰か始末してくんねぇかな。
ある日、件の会社から冷凍便が届いた。
冷凍便が必要な商品なんて扱っていないのに、どういうわけだろうか。
外国から発送だと思っていたけれど、日本に会社があったのだろうか。
そもそも、外国から冷凍便を送ることが可能だとしても、通販サイトで安いパチモン物商売しているようなところに利益を見込めるような商品があるものか。
様々な疑問が頭の中をぐるぐるとめぐるが、こんなこと考えるだけ無駄だった。
この会社はおかしい。
ただそれだけだ。
俺は箱の中から冷凍された猿の生首
フィギュアだって趣味が悪いのに、本物とかどうなってんだよ。
思わず放りだしたら衝撃で、どういうわけか閉じられていたまぶたが開いた。
腰が抜けるという経験ははじめただった。
捨てるに捨てられないし、かといって、解凍されて腐り始めたらやっかいだ。
幸いなことに――いや、幸いではないが、冷凍庫に頭を放り込むスペースがあった。
生首を放り込んで、ガムテープで冷凍庫スペースの扉を封印すると少しだけ落ち着いた。
誰がこんなものにレビューを書くんだよ。
俺は通販サイトを開く。
レビューは二つだけだった。
★☆☆☆☆ やってられるか! 通報するぞ!
★☆☆☆☆ おかしいです、この会社!
気持ちは痛いほどよくわかるが、まったく参考にならない。
俺はスマホを置く。
昔買ったデジタルフォトフレームが目に入る。
好きなAV女優の顔アップで猿の生首を思い出してしまう。
スマホを投げつけようと思ってから、思いとどまって、カップラーメン用の湯を沸かそうとだしていた小鍋を投げつけた。
液晶が割れ、女の顔にヒビが入る。
俺も罵倒の言葉を書きちらしてやろう。
そう考えて、サイトを開くと、先程あった低評価のレビューがなくなっていた。
正確に言えば、編集され、どちらも最高評価になっていたのだ。
もちろん、文面も異なっていた。
★★★★★ 最高の品でした(さきほどのレビューはまちがいです)
先程のレビューは、乗っ取り被害にあったためのものです。
このような素敵な商品が届いたにもかかわらず、お店の方には大変申し訳なかったと思っています。
昔見た映画で、私もこれがほしいと思って探し続けて数十年、ようやく見つけたこの品、映画と同じ場面を再現しようか、それとも加工して永久保存版にしようか、迷い中です。
いっそのこと、普段使い用、保存用、布教用の三つ買っても良いかも!?
★★★★★ これから書き直すから助けてください
子どもがいたずらをしておかしなことになりました。
これからちゃんと書き直します。
レビューするためにはしっかり味あわないといけないので、少し時間がかかります。
だから、もうちょっと待ってください。本当にお願いします。
気味が悪かった。
さすがに罵倒の言葉を書く気はなくなっていた。
どうにも罵倒をしたり、レビューを書かないで放置していると良くないことが起こりそうだ。
とはいえ、こんなもの、どうやって書けばいいんだ。
レビューというものは、使ってみて使い心地を他者に伝えるものだ。
使い道もわからないもの――冷凍された猿の生首の使い道を知っているやつがいたら、それは変人を通り越して、人じゃないだろう――にどんなレビューを書けばよいのだ。
ああ、もうAIに書かせよう。いつものようにAIに任せればよいのだ。
レビュアー:モロ出しキャンパー
★★★★★ 驚きとインパクトの強い…冷凍品?
この商品は、正直言って説明が追いつきません。まず、届いた瞬間から驚かされました。冷凍状態で非常に丁寧に梱包されており、品質保持のこだわりが感じられます。
本物の猿の生首という、非常に珍しいアイテムで、リアルさを超えて圧倒的な存在感を放っています。インテリアやコレクション用途としては一部の人には強く訴えるものがあるかもしれませんが、日常使いにはやや奇抜すぎるかもしれません。
特に、動物解剖学や文化的研究の分野での利用には適している可能性があります。冷凍保存技術の高さに驚かされましたが、購入前には用途をよく考えた方が良いでしょう。
AIも困惑するのだろう。
レビューなのかどうかよくわからない代物ができあがった。
それでも、投稿するしかない。投稿してこれっきりにしよう。
とりあえず、温かい風呂に入って寝てしまおう。
温まった身体で布団にもぐりこむと、すぐに眠くなる。
……メダ……ダメダ……。
衣擦れの音と囁き声で目を覚ました。
音がやむ。
興奮状態で眠りが浅かったのかもしれない。
布団を被って目を瞑る。
ダメダダメダダメダ。
再び囁く声、どういうわけか布団の中から聞こえる。
太もものあたりに氷をあてられたような冷たさ。
反射的に身をよじり、布団をはねのける。
冷凍庫にしまい込んだはずの猿の頭がこちらを向いている。
閉じられていたはずの目が見開き、こちらを見る。
霜で覆われた口が囁く。
ダメダエーアイワツカウナヤリナオセカキナオセダメダダメダ
◆◆◆
今日も何かが届くだろう。受取拒否をしても、「置き配」されるのだ。
クレームをいれても、相手は要領をえない返事をするだけ。
俺は逃げられない。
書かなくては。心をこめて書かなくては。
皆の目に留まる素敵なレビューを書かなくては。
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