第98話 彼女へのご褒美

 そして、そんな綾香の言葉を聞いた一輝は、


「えっと、甘やかして下さいと言いましたが、綾香さんは具体的に何をして欲しいのですか?」


 一輝が遠慮がちにそう質問をすると。


「それは一輝くんが考えて決めて下さい、そうじゃないと、私のご褒美にはなりませんから」


 綾香は笑顔を浮かべたまま、そんなことを言ったので。


「えっと……それなら」


 そう言って、一輝は頭を悩ませたが、それでもヘタレな一輝の頭の中には一つの答えしか浮かばなかった。


 なので、一輝は意を決すると、自分の目の前に座っている綾香の顔を観て。


「……えっと、それじゃあ綾香さん、行きますね!!」


 一輝が力強くそう言うと。


「ええ、一輝くん、来て下さい」


 綾香はそう答えたので、一輝は床から立ち上がると、数歩前へ歩いて、綾香の目の前へとやって来た。


 そして、一輝は自分の右手を綾香の前に差し出すと、ゆっくりとその手を綾香の頭上へと持って行った。そして、


「……えっと、綾香さん、よく頑張りました」


 一輝は少し恥ずかしそうにそう言うと、綾香の頭をゆっくりと撫で始めた。しかし、


「……もう、一輝くん、これだけですか?」


 綾香はかなり不満そうな口調でそう言ったので。


「いえ、その……僕としても何処までやって良いのか分かりませんし、それに綾香さんは以前、頭を撫でられるのが好きだと言っていたので、これで良いのかなと思いましたが」


 一輝がそう答えると。


「確かに、私は一輝くんに頭を撫でてもらう事は好きですが、これだけ仲よくなった今なら、私のことを思いっきり抱き締めるくらいの事はして貰っても良いんですよ」


 綾香は一輝に頭を撫でられ続けられながら、一輝のことを上目遣いで見つめてそう言った。すると、


「あっ、えっ……その!!」


 その言葉を聞いた一輝は、綾香の頭から慌てて手を放すと、かなり狼狽えた様子で、少しの間その場で混乱していたのだが。


「……分かりました、それなら今から綾香さんのことを抱き締めますね」


 数秒経つと、一輝は綾香の目を見てハッキリとそう言った。すると、


「そうですか、それなら一輝くん、よろしくお願いします!!」


 その言葉を聞いた綾香は、とても嬉しそうな笑顔を浮かべてそう言った。


 そして、そんな彼女の反応を見て、一輝は内心滅茶苦茶ドキドキしているのに、綾香は余裕そうなんだなと、少し複雑な感情で綾香の事を観ていたのだが。


「……あれ?」


 数秒経って、綾香はそんな可愛らしい声を上げた。そして、


「えっと、一輝くん、今なんと言いましたか?」


 綾香はそんな事を聞いて来たので。


「今から綾香さんの事を抱き締めると、そう言ったんです」


 一輝は改めて綾香に向けてそう言った。すると、


「そうですか、私のことを抱き締める、と……えっ? ええっつ!?」


 綾香はかなり驚いた表情を浮かべて、そんな声を上げると、綾香は自分の体を守る様に胸元を両手で隠した。


 そして、そんな綾香の反応を観た一輝は、


「あっ、すみません、綾香さん、今の言葉は冗談でしたよね……」


 肩を落としながらそう言うと。


「あっ、いえ、違います!! 一輝くんに抱き締めて欲しいのは本当です、ただ、一輝くんが素直にOKしてくれるとは思っていなかったので、少し驚いてしまっただけです」


 綾香は慌てて、そんな事を言った。なので、


「えっと、それなら、今から本当に綾香さんの事を抱き締めても良いのですか?」


 一輝が改めてそう質問をすると。


「……ええ、良いですよ」


 綾香は頬を真っ赤に染めながらも、満更でもなさそうな表情でそう言ったので。


「分かりました……」


 一輝はそう答えると、一歩前に進んだ。そして、


「……えっと、それでは綾香さん、行きますね」


 かなり緊張した面持ちで、一輝がそう言うと。


「……ええ、来て下さい、一輝くん」


 頬を真っ赤に染めたまま、綾香もそう答えたので。


 そのまま一輝は、綾香に向けてゆっくりと両手を広げると、そのまま彼女の腰周りに自分の腕を回して、彼女の事を力強く抱き締めた。すると、


「……一輝くん」


 綾香がそう言うと、一輝と同じように彼の腰回りに自分の腕を回して、一輝の事を抱き締め返して来た。

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