第94話 綾香の両親との対面
次の日の日曜日、自宅で昼ご飯を食べ終えた一輝は自転車を数十分漕いで、綾香の家の玄関前まで来ていた。そして、
「……よし」
一輝はその場で一度だけ呼吸をすると、そう言って覚悟を決めた。そして、
「ピンポーン」
一輝はゆっくりと玄関にある呼び出しボタンを押すと、そんな音が家の辺りに響き渡った。そして、一輝が数十秒間その場で黙って待っていると。
「……ガチャ」
そんな風に鍵が開く音が鳴り、その後、家のドアがゆっくりと開いた。そして、
「一輝くん、お待ちしていました」
そう言いながら、玄関から綾香が顔を出して一輝のことを出迎えた。なので、
「ええ、お待たせしました、綾香さん、今綾香さんのご両親は家に居ますか?」
一輝が綾香に向けてそう質問をすると。
「ええ、約束通り私の両親は二人揃って、一輝くんが来るのを待ってくれていますよ」
綾香は一輝に向けてそう言ったので。
「そうですか……それなら今から僕は綾香さんのご両親に挨拶をしますね」
一輝はそう言ったので。
「ええ、よろしくお願いします」
綾香は笑顔でそう言うと、そのまま一輝を自分の家の中へと迎え入れた。そして、
「私の両親はリビングに居るので、私たちもそこに行きましょう」
綾香はそう言ったので。
「……ええ、そうですね」
一輝がそう答えると。
「一輝くん、もしかして緊張していますか?」
不意に綾香がそんなことを聞いて来たので。
「ええ、そうですね、情けない話ですが僕は今、物凄く緊張しています」
一輝は正直にそう答えた。すると、
「そうですか、それなら一輝くん、私が一輝くんの緊張を少し解して上げましょうか?」
綾香は唐突にそんな事を言ったので。
「えっ、緊張を解すって、綾香さんは一体何をするつもりなんですか?」
一輝が綾香に向けてそう質問をすると。
「こうするんです!!」
嬉しそうな笑みを浮かべて綾香はそう答えると、自分の左手で一輝の右手を恋人繋ぎで握って来たので。
「えっ、綾香さん!? いきなり何を!?」
突然の彼女のそんな行動に驚いて、一輝がそう言うと。
「もう、そんなに驚くことですか? ただ手を繋いだだけですよ」
綾香はそんな事を聞いて来たので。
「いや、だって今はその……恋人繋ぎをしていますし……」
一輝が少しオドオドした口調でそう答えると。
「それくらい別にいいじゃないですか、別に初めての事では無いですし、私たちは恋人同士なのですからこれくらい普通のことですよ、一輝くん」
綾香は何でもない様にそう言ったので。
「……そうですか、まあ、綾香さんがそう言うのなら僕はそれでもいいですが」
一輝が渋々といった様子でそう答えると。
「ええ、そうですよ、それでは早速リビングへ行きましょう」
綾香がそう言うと、一輝は綾香に手を引かれて家の中へと通された。そして、
「さて、一輝くん、このドアを開けると部屋の中には私の両親が待っているのですが、一輝くんは心の準備は出来ていますか?」
リビングに入るドアの前で綾香は一輝にそんな事を聞いて来た。なので、一輝はその場で小さく深呼吸すると。
「……ええ、大丈夫です」
一輝は短くそう答えた。すると、
「分かりました、それでは早速リビングへ入りましょう」
綾香はそう言って、リビングのドアを開けようとしたのだが。
「あっ、待って下さい、綾香さん!! 僕たちはまだ手を繋いだままですよ!!」
一輝は慌ててそう言って、綾香の行動を止めようとしたのだが。
「別にいいじゃないですか、この姿を観てもらって私たちは仲の良い恋人同士だということを私の両親にきちんと分かってもらいましょう!!」
綾香はそう言うと、一輝の静止も振り切って勢いよくドアを開くと一輝の手を引っ張ってリビングへと入った。すると、
「お久しぶりですね、いらっしゃい、佐藤一輝さん」
リビングのソファーには以前一輝が見かけた、綾香が後十年くらい経つとこれくらい美人に育つだろうと一輝が思っている綾香の母親が座っていて、そんな彼女の隣には、
「……」
静かに一輝たちの様子を見つめている、いかつい見た目の男性が座っていた。
ただ、正確には、その男性は室内なのにも関わらずサングラスを掛けていたので、彼が何処を観ているかははっきりとは分からなかったが。
一輝はこの男性からかなりの圧を感じていたので、一輝は間違いなく、今この男性に睨まれているのだろうと内心そう思っていた。すると、
「……なあ、綾香」
サングラスを掛けている男性は低い声で、綾香にそう呼びかけたので。
「何ですか? お父さん」
綾香がそう返事をすると。
「今日、お前が彼氏を連れて来るという話は聞いていたから、お前の隣にいる男がお前の彼氏だということは、私もよく分かっているつもり何だが……だからといって、わざわざ手を繋いでリビングに入って来る必要は無かったのではないか?」
綾香の父親は低い声で、そんな当然の疑問を口にした。すると、
「えー、別にいいじゃないですか、お父さん、私たちはもう何ヵ月も付き合っている仲の良いカップルなのですからこれくらい普通の事ですよ、それに」
そこまで言うと、綾香は一輝の方を振り向くと満面の笑みを浮かべて。
「一輝くんは今日、私の両親と会うことに凄く緊張していたので、今日はずっと私が一輝くんの手を握ってあげて、一輝くんのことを勇気付けてあげようと思っているんです!! そうですよね、一輝くん?」
綾香はそう言うと、一輝の手を強く握ったまま一輝にそんな事を聞いて来たので。
「……ええ、そうです」
綾香の父親の視線から若干目を逸らしつつ、一輝はそう返事をした。すると、
「……そうか、まあ、二人がそれで納得しているのなら、私は別に文句は無いが」
感情が読めない声で綾香の父親はそう言った。すると、
「それよりも二人とも、いつまでもそんな所に立っていないでソファーに座ったらどうですか?」
綾香の母親がそう言うと。
「ええ、分かりました、一輝くん、私たちも座りましょう」
「ええ、そうですね」
綾香にもそう言われ、一輝は相変わらず彼女と手を繋いだまま席に付いて、一輝はようやく綾香の両親との対面を果たした。
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