第90話 少しだけ熱烈な彼女

 そして、綾香のそんな言葉を聞いた一輝は、


「えっと……それは勿論したいでのですが」


 少し歯切れが悪くそう言ったので。


「ですが、何ですか?」


 綾香がそう聞いて来たので。


「その、今綾香さんとキスをしてしまうと、多分僕はこの後の試験勉強に集中できなくなってしまうと思うんです。だから綾香さん、折角そんな嬉しい提案をしてもらったのに申し訳ありませんが、今キスをするのは勘弁して下さい」


 一輝は非常に勿体ないと思いつつも、そう言って綾香の提案を断った。すると、


「そうですか、分かりました、それに一輝くんの言う通り、私も今一輝くんとキスをしてしまったら、この後の試験勉強に集中できなくなってしまいそうです。だから、今一輝くんとキスをするのは我慢することにします」


 綾香はそう言ったので。


「ありがとうございます、綾香さん」


 一輝がそう答えると。


「いえ、気にしないで下さい、一輝くんの言う事は正しいと私は思いますから、でも」


 そこまで言うと、綾香は改めて一輝の顔を見上げると。


「そういう事なら、今日私が家に帰る前にはキスをして下さいね、それなら試験勉強は終わっているので、問題は無いですよね?」


 綾香は一輝に向けてそう言ったので。


「……ええ、勿論です」


 一輝がそう答えると。


「ふふ、その言葉を聞けて安心しました、それなら早くケーキを食べ終えてから、数学以外の勉強も頑張りましょう」


 綾香はそう言ったので。


「ええ、分かりました……その、綾香さん」


「何ですか?」


 綾香がそう聞いて来たのだが。


「……いえ、何でも無いです、午後からの勉強も頑張りましょうね」


 一輝はそう言ったので。


「ええ、勿論です!!」


 綾香はそう言った。その後、一輝と綾香はケーキを食べ終えると、少しだけゆっくりしてから、今度は英語の勉強を始めた。


 しかし、数学の勉強では一輝の方が綾香に勉強を教えていたのだが、今回は立場が変わり、一輝はあまり英語が得意で無かったこともあり。


 一輝が問題を解けずに悩んでいると、綾香がよく話しかけてくれて、その度に彼女に英語の勉強を教えてもらっていた。


 そして、英語の勉強を始めてから約2時間後。


「……はあ、疲れました、綾香さん、今日の勉強会はこれくらいにしませんか?」


 一輝がそう言うと。


「ええ、そうですね、分かりました、それなら私はそろそろ家に帰りますね」


 綾香は自分の教科書とノートを鞄にしまいながら、そう言ったので。


「分かりました、それなら今日は外まで見送りますね」


 一輝もそう答えると、一輝も教科書などを片付け始めた。そして……






「えっと、一輝くん、今日は勉強会に誘ってくれてありがとうございました」


 一輝の家の玄関前で綾香がそう言ったので。


「いえ、気にしないで下さい、それに僕の方こそありがとうございました、綾香さんのお陰で苦手な英語の勉強もいつもより効率よくこなすことが出来ました」


 一輝がそう言うと。


「それを言うのなら、私の方こそ一輝くんに数学を教えてもらえて助かりました」


 綾香はそう言って言葉を止めた。そして、


「……あの、一輝くん」


 綾香がそう言ったので。


「何ですか?」


 一輝がそう答えると。


「その、勉強会も終わったので約束通り、今から一輝くんとキスをしてもいいですよね?」


 綾香は上目遣いで一輝の事を見つめながら、少し遠慮がちにそう聞いて来たので。


「……ええ、勿論です」


 一輝はそう答えると、綾香は嬉しそうに微笑んでから。


「ありがとうございます、一輝くん、えっと、それではお願いします」


 綾香はそう言ったので。


「分かりました……それでは綾香さん、いきますね」


 一輝はそう言うと。


「ええ、どうぞ」


 綾香はそう言って静かに目を閉じたので、一輝はゆっくりと綾香と軽くキスをした。


 そして、今回も数秒間だけキスをして終わるだろうと、一輝はそう思っていたのだが。


(……ん!?)


 今回はそうはいかず、一輝は自分の口の中へなにかが侵入してくる感じがして……






 そして、いつもよりも長く少し熱烈なキスが終わり、綾香の唇がゆっくりと一輝から離れると。


「ふふ、一輝くん、キスをしてくれてありがとうございました」


 頬を赤く染めながらも、綾香は満足そうな笑みを浮かべながら一輝に向けてそう言った。しかし、


「えっ、あの、綾香さん、どうして……」


 突然の出来事に頭が追い付かず、一輝が何とかそう言葉を絞り出すと。


「どうしてと言われると、そうですね……試験勉強を頑張ったので一輝くんと、それから私へのご褒美でしょうか、ただ、一輝くんは突然こんなキスをされるのは嫌でしたか?」


 綾香はそう答えると、少しだけ不安そうな表情で一輝のことを見てきたので。


「いえ、嫌では無いですし、寧ろ僕としてはとても嬉しいのですが……すみません、突然の事に驚いて感情が追いついて無いんです」


 一輝が正直にそう答えると。


「そうですか、でも、嫌ではなかったのなら、私も少しだけ勇気を出してよかったです」


 綾香は頬を赤く染めたまま、それでも満足そうに可愛らしく微笑んだ。そして、


「えっと、それでは一輝くん、私はもう家に帰りますね」


 綾香はそう言ったので。


「えっ、あっ、はい、分かりました」


 一輝がそう言うと。


「それでは一輝くん、さようなら、それと明日もまたよろしくお願いします」


 綾香はそう言うと、一輝に背を向けて庭に置いておいた自分の自転車を押して歩きながら、一輝の家を後にした。しかし、


「……」


 先ほどのキスの衝撃から抜け出せず。


 一輝は暫くの間、玄関前でボーとしたままその場に突っ立っていたのだった。

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