第3章 初デート?
第15話 土曜日、本屋にて
3人でアミューズメント施設に遊びに行ってから1週間程が経った日の土曜日、佐藤一輝は平日では相変わらず、学校では立花綾香とは全く関わりのない、ただの同級生として学校生活を送りつつ、夜には彼女に電話を掛けて他愛のない雑談をするという生活を送っていた。
ただ、そんな一輝だが、最近になって再び悩みが出来ていた。それは、
「立花さんとのデートは何処へ誘えばいいのだろう?」
一輝はそう呟いた。先週に颯太と綾香と一輝の3人で遊びに行って、綾香から次はデートに誘ってもらっていいと言われたので、一輝は綾香との初めてのデートを何処にしようかと、今週中はずっと悩んでいたのだが。
中々いい案が思い浮かばず、一輝は気分転換にと、昼前に本屋へと訪れていて、その日もライトノベルのコーナーに居た知り合いの女性とライトノベルに付いて話をしながら買い物をしたのだった。
そして、2人は店を出ると、
「お願いします山下さん!! 僕の相談に乗って下さい!!」
駐輪場にて、一輝は頭を下げて今まで一緒に買い物をしていた、山下夏月に向けてそうお願いをした。すると、
「……もう、仕方がないですね」
夏月はそう言って、少し苦笑いを浮かべつつも一輝のお願いにOKした。
その後、2人は本屋を離れ、今日は近くのメックナルドに来ると、一輝はダブルチーズバーガーのセットを頼み、夏月は月見バーガーのセットを頼んで2人は席に付いて、各々ポテトやハンバーガーを食べ始めた。
そして、夏月が4分の1程、月見バーガーを食べ終えると。
「それで佐藤くん、今日はどういった恋愛相談を持ってきたのですか?」
夏月はそんなことを一輝に聞いて来た。なので、
「よく恋愛相談だと分かりましたね」
一輝はそう答えたが。
「だって佐藤くんが私に相談することなんて他に思いつきませんから」
夏月は当然のようにそう言った。なので、
「まあ、そうですね、他のことで相談したことはありませんからね」
一輝もそう言った。そして、
「それで、相談の内容なのですが」
「ええ、何ですか?」
夏月がそう聞くと。
「彼女と最初に行くデート先は何処がいいですかね?」
一輝は夏月に対してそう質問をした。すると、
「成程、そういうことですか……分かりました、私でよければ相談に乗りますよ」
夏月はそう答えた。そして、
「それで、佐藤くんはデート先に付いて悩んでいると言いましたが、佐藤くん的には何処に行きたいという希望は何かあるのですか?」
夏月はそんなことを聞いてきたので。
「そうですね、実は先週、彼女と僕と僕の友人の3人で遊びに行ったのですが、彼女はどうやらあんまり騒がしい所は好きではないようで、山下さんと同じで静かな所が好きなようですが……」
そこまで言うと、一輝は言葉を止めたので。
「えっと、佐藤くん、どうかしましたか?」
綾香がそう質問をすると。
「あっ、すみません、ただ山下さんが僕の彼女と雰囲気が似ているなと、何となくそう思ったので」
一輝はそう言った。すると、
「えっ!? そうですか?」
彼女は少し驚いた様子でそう言ったので。
「ええ、そうですね、僕の彼女も黒髪のロングヘアですし、話し方も似ていて、声は山下さんの方が少し高いですが……」
そこまで言うと、一輝は一度話すのを止めて。
「って、すみません、彼女と山下さんを比べるようなことをしたら失礼ですよね、今の言葉は忘れて下さい」
一輝はそう言って山下夏月に謝ったので。
「いえ、そんな、気にしないで下さい」
夏月は一輝に向けてそう言いつつも。
「……やっぱり私に気付いてはくれないのですね」
一輝には聞こえないよう小声でそう呟いた。すると、
「えっと、すみません山下さん、何か言いましたか?」
一輝はそんなことを聞いてきたので。
「いえ、何でもないですよ」
山下夏月はそう言って、一輝の質問を誤魔化した。そして、
「それで、お話の続きですが」
一輝がそう言うと。
「ああ、そうですね……えっと、何の話をしていましたっけ?」
一輝は夏月にそう質問をしたので。
「最初のデートで佐藤くんが何処かに行きたいという希望があるのかというお話ですよ」
夏月はそう答えた。なので、
「すみません、そうでした……えっと、僕としては彼女と初めてのデートなのでいきなり遠出はせず、本屋でお互いに好きな本の話をしたり、服や小物を買いに行ったり、カフェのようなところでのんびりと食事をしたりするような、そんなデートが出来たらいいなと、そう思ってはいるのですが」
一輝がそう言うと。
「へー、素敵じゃないですか」
夏月はそう言ったのだが。
「ただ、それには問題がありまして」
一輝はそう言ったので、
「問題ですか?」
夏月がそう聞くと。
「ええ、こういうデートをする場合なら、家の近くにあるショッピングモールに行けば大体解決すると思っています。あそこから、服屋に本屋にカフェなど、僕がデートで行きたいと思っている店は全て揃っているので。ただ」
そこまで言うと、一輝は一度言葉を切り。
「山下さん、僕がオタクであることを彼女に話しても大丈夫だと思いますか?」
一輝は夏月にそう質問をした。しかし、
「……えっと、すみません佐藤くん、いきな話題が変わり過ぎていて、正直話に付いていけてないです。なので、もう少し詳しい話を聞かせてもらえませんか?」
夏月は少し困惑した表情を浮かべながらそう言った。なので、
「まあそうですよね、すみません」
一輝も苦笑いを浮かべてそう言った。そして、
「僕は去年、彼女と同じクラスだったので分かったのですが、彼女は休憩時間によく本を読んでいたので、多分読書好きなのだと思うのです。なので、本に関する話題で話が出来れば、彼女と共通の趣味が出来て、今以上に彼女との距離が縮まるかもしれないと、そう思っているのですが」
そこまで言うと、一輝は一度、言葉を切り。
「ただ、本に関して言えば、僕は漫画やラノベしか読まないので、彼女と話が合うのかについては分からないのです、彼女が読書好きなのは間違いないですが、オタク方面の知識があるのかは分からないので、そういう話をしても大丈夫なのか、そこだけが不安なんです」
一輝はそう言った。すると、
「それなら、彼女さんに直接そういう話題を出しても大丈夫か聞いてみたらいいのではないですか? 今の時代はオタク文化に対する偏見も大分減って来ているので、彼女さんも佐藤くんがオタクだと言っても、そこまで気にしないと思いますよ」
夏月はそう言ったが。
「まあ確かに山下さんの言うことも分かるのですが、偏見かもしれませんが、僕の彼女はあまりオタク趣味を持っているタイプの女性には見えないので、もしオタクという人種をあまり好まないタイプの人だった場合、それで距離が開くのが怖いんです。でも、もし彼女がオタク趣味を理解してくれる人なら、そういう趣味も一緒に楽しみたいですし、共通の趣味があれば恋人関係も長続きしそうだなとも思うので、僕としてはアニメやラノベが好きだということを彼女に話してもいいのか、とても悩んでいるんです」
一輝はそう言った。そして、その言葉を聞き終えた夏月は、
「……成程」
短くそう答えた。ただ、実際はそんな心配事は杞憂であると、相談を受けている彼女自身は分かっているのだが。
そのことを正直に伝えるわけにもいかず、彼女は一輝に山下夏月として何と答えてあげるべきか真剣に考えてみたが、直ぐに答えは出て来て。
「大丈夫ですよ、実は佐藤くんの彼女さんが隠れてオタク趣味を持っているという可能性も十分に考えられます。それにもし、彼女さんが佐藤くんの趣味を理解できなかったとしても、それくらいのことで佐藤くんのことを嫌いにはならないと思いますよ。佐藤くんは以前、彼女さんのことを自分では釣り合わないくらい素敵な人だと話していましたが、そんな彼女さんが何故、佐藤くんの恋人になったのかというと、恐らく佐藤くんの優しい内面に惹かれて付き合ったのだと思います。なので、多少趣味が合わないことがあっても、それくらいで佐藤くんのことを見捨てることはないと思うので佐藤くんは安心してそういう話をしてもいいと思うのですが……その、すみません、長々とお話をしてしまって、こんなこと、佐藤くんの彼女でもない私に言われても信じられませんよね」
そこまで話をしてから、夏月はそう言って謝った。すると、
「いえ、そんなことはないです、寧ろこんな相談に乗ってもらえた上、山下さんなりの考えが聞けて、僕はとても嬉しいです。それに」
「それに、何ですか?」
夏月がそう質問をすると。
「山下さんに言われると何故か、僕の彼女もそう言ってくれるだろうと思えて安心するんです。だから、山下さんの言う通り、僕の彼女に電話でオタクっぽい話題を上げても大丈夫か聞いてみることにします」
一輝はそう答えた。なので、
「そうですか、そう思えてもらえたのなら、私は今日、佐藤くんの相談に乗れてよかったです」
夏月もそう言った。すると、
「……正直、僕は自分がオタクであることを彼女に隠しておいた方がいいかなと思っていたので、このデートの案は没にして、今日は山下さんの意見も聞きながら新しいデートプランを練られたらいいなとそう思っていたのですが、山下さんに色々と話をしていて、このことを打ち明けても大丈夫だろうとそう思えました。なので、山下さん、今日は僕のつまらない相談に乗ってもらってありがとうございました」
一輝はそう言って、夏月にお礼を言った。すると、
「気にしないで下さい、私としても佐藤くんの力になれているのなら嬉しいですし、佐藤くんと彼女さんには今後も上手くいって欲しいと本気でそう思っていますから。なので、今後ももし何か悩み事が出来たら、遠慮せず私に話をして下さいね」
彼女もそう言って、今日の一輝の恋愛相談は無事終わりを迎えた。
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