第4話 恋愛相談

 その後、二人は自転車を少しの時間漕いで、今日は珍しく山下夏月が希望した喫茶店へと移動した。そして、


「カランカラン」


 そんな鈴の音と共に、二人が店内に入ると。


「いらっしゃいませ、二名様でよろしいですか?」


 恐らくアルバイトである、大学生くらいの綺麗な女性店員にそう言われたので。


「はい、そうです」


 一輝がそう答えた。すると、


「こちらの席へどうぞ」


 女性店員にそう言われ、二人は大きな窓際にある店の奥の席に着いた。そして、メニューを見て、二人が注文を済ませると。


「佐藤くんは、始めてここに来た時のことを覚えていますか?」


 唐突に夏月は一輝にそんなことを聞いて来た。なので、


「ええ、勿論、僕と山下さんが初めて会った日に山下さんが連れて来てくれましたよね」


 一輝がそう答えると。


「ええ、そうです、今から丁度一年くらい前に、ナンパされて困っていた私を偶々傍にいた佐藤くんが助けてくれて、そのお礼にと、私が佐藤くんをこの喫茶店に連れて来ました」


 彼女はそう言ったので。


「ええ、そうでしたね。でも、山下さんにライトノベルという僕と共通の趣味があってよかったです、恥ずかしながら、僕には親しい女友達が居たことがなかったので、同い年の女の人とどういった話をすればいいのか分かりませんでしたから」


 一輝がそう答えると。


「それは私も同じです、私もあまり歳の近い男性とお話をしたことはありませんでしたから。それに、同じライトノベル好きということもあって、佐藤くんみたいな素敵な方と今みたいに仲良くなれて、私は良かったと思っていますよ」


 彼女は笑顔でそう言った。なので、


「僕はそんなに大層な人間ではないですよ。でも、そう思ってもらえたのなら嬉しいです」


 一輝はそう返事をした。そして、


「それで、本題の悩み相談なのですが……」


 一輝がそこまで言うと。


「ええ、何ですか?」


 彼女はそう言って、自分のグラスに入っている水をゆっくりと飲み始めた。なので、


「……実は、僕は昨日ある女性に告白して、そして彼女が出来たんです」


 一輝は変に誤魔化さず、彼女に正直に真実を告げた。すると、


「ごはっつ!?」


 急にそんなことを言われて彼女はとても驚いたのか、水を喉に詰まらせて、思いっきり咳き込んだ。なので、


「山下さん!? 大丈夫ですか!?」


 一輝は驚いてそう言うと。


「ごほっ……ええ、すみません、突然そんなことを言われて少し驚いてしまいました」


 彼女は咳き込みながらも、少しずつ落ち着きを取り戻しながらそう言った。そして、


「でも、おめでとうございます佐藤くん、告白が成功して良かったですね」


 彼女はそう言ったので。


「ええ……ありがとうございます」


 一輝はそう返事をした。すると、


「……あれ、えっと……」


 彼女は少し困惑した様子でそう言った。なので、


「あの、どうかしましたか?」


 一輝がそう聞くと。


「……ええ、折角告白が成功したのでしたら、普通はもっと喜ぶと思うのですが、佐藤くんは何だかそんなに嬉しそうではないので……もしかして、その女性に告白したことを後悔しているのですか?」


 彼女は何故か少し不安そうな表情を浮かべてそう言った。なので、


「あ、いえ、決してそんなことはないです!! 寧ろ彼女は僕なんかじゃ釣り合わないような、とてつもない美少女で、あの人と付き合える男の人は世界一の幸せ者だと僕は思います!!」


 一輝は慌ててそう言った。すると、


「えっ、そんな……さすがにそこまで言われると照れてしまいますよ」


 何故か彼女は少し頬を赤くしてそう言った。なので、


「えっと……何で山下さんが照れているのですか?」


 一輝が少し困惑した様子でそう言うと。


「あっ、すみません、何でもないです!!」


 彼女は慌ててそう言った。そして、


「こほん、ただ、もしその彼女さんがそんなに素敵な方なのなら、佐藤くんは一体どんな悩みがあるのですか?」


 彼女は一輝に対してそう質問をして来た。なので、


「僕の悩みは大きく分けて二つあります、一つ目は……」


 一輝がそこまで言うと。


「お待たせしました、パスタ定食です」


 女性店員がそう言って、二人が注文していた昼ご飯を持ってきたので。


「あ、こっちです」


 山下夏月はそう言ったので、彼女の目の前にパスタ定食が置かれ、その後直ぐに、一輝が頼んでいたハンバーグ定食がやって来た。そして、


「えっと……取りあえず、折角ご飯が来たので、食べながらお話をしませんか? 折角の美味しいお昼ご飯が冷めてしまったら勿体ないので」


 彼女はそう言ったので。


「分かりました、そうしましょう」


 そう言って、二人は昼ご飯を食べ始めた。そして、二人は暫くの間、静かに食事を続けると。


「それで佐藤くん、そろそろ悩みの内容を聞かせてもらってもいいですか?」


 パスタを4分の1くらい食べ終えたところで、山下夏月は一輝に向けてそう言った。なので、


「ええ、そうですね」


 一輝はそう言うと、フォークを机の上に置いて。


「僕の一つ目の悩み、それは彼女がどうして僕の告白をOKしてくれたのか分からないことです」


 一輝はそう言った。すると、


「……成程、そういうことですか」


 彼女は何故か納得した様子でそう言った。そして、


「因みにですが、佐藤くんは何故その彼女さんが告白をOKしたのか、何か心当たりはあるのですか?」


 彼女はそんなことを聞いて来た。なので、


「いえ、それが全くないのです、僕は去年、彼女と同じクラスだったのですが、殆どまともに話をしたこともなかったので……それに、彼女はとてもモテていて、僕以外の男子から何度も告白されていたのにも関わらず、それらを全て断っていたので、どうして僕の告白だけはOKしてくれたのか、正直、自分でも全く心当たりがなくて、今は嬉しいというよりも困惑した気持ちの方が強いんです」


 一輝は正直にそう答えた。そして、


「だから、同じ女性の山下さんなら、その女性がどう思って僕の告白に答えてくれたのか、何か分かるかもしれないと思ったのですが……この話を聞いて、山下さんはどう思いましたか?」


 一輝は彼女にそう質問をした。すると、


「……そうですね、正直、その話を聞いただけだと、どうしてその女性が佐藤くんの告白をOKしたのかは正直よく分かりませんが……もしかたら、佐藤くんが過去にその女の人を助けて、彼女さんがそのことをずっと恩に感じていたとかそういった可能性はありませんか? 佐藤くんはとても優しいので」


 彼女はそんなことを言った。しかし、


「いえ、さすがにそれは無いと思いますが……あんなに綺麗な人を助けたら、どんなに些細な出来事でも間違いなく記憶に残ると思うので」


 一輝はそう言って、彼女の言葉を否定した。しかし、


「どうでしょう、普段は目立つ彼女さんでも、オフの時は地味で目立たない格好をしていて、佐藤くんが気付かなかっただけだとか、そういった可能性もあると私は思いますよ」


 彼女はそう言って、一輝の言葉を否定した。すると、


「……まあ確かに、その可能性もありますね、僕は誰かが髪を切ったりしても、誰かに言われないと気付かないくらいには鈍感なので」


 一輝は彼女の言葉を否定しなかった。すると、


「そんなに気になるのなら、彼女さんに直接聞いてみたらいいのではないですか?」


 彼女はそう言ったので。


「そうですね、そうしたい気持ちもあるのですが……」


「あるのですが、何ですか?」


「……これは僕の二つ目の悩みなのですが、付き合いたてのカップルというのはどういった内容の会話をすればいいのでしょうか?」


「……え?」


 一輝にそう質問されて、彼女は言葉を詰まらせた。すると、


「非常に恥ずかしい話なのですが、僕は今まで誰とも付き合ったことがないので、彼女とはどんな話をすればいいのか、正直全く分からないのです。なので、どういった話をすればいいのか、山下さんなりのアドバイスをもらえませんか?」


 一輝はそんなことを山下夏月に言った。しかし、


「そう言われましても……私も今まで男の人とお付き合いをしたことはないので、私には分かりません」


 彼女はそう言った。すると、


「そうですか……でもそうなると、彼女に電話するのはもう少し話す内容を考えてからになりそうですね」


 一輝はポツリとそんなことを呟いた。すると、


「あ!! でも、そうですね……取りあえず、趣味とか好きな食べ物とか、デートをするのなら何処に行きたいのかとか、そういった無難な内容で問題ないと私は思いますよ!!」


 彼女は慌てた様子で少し早口にそう言った。すると、その話を聞き終えた一輝は、


「えっと、そんな内容で本当に大丈夫なんですかね?」


 少し不安そうにそう言った。なので、


「ええ、きっと大丈夫だと私は思いますよ、お二人はまだ付き合い始めたばかりで、お互いのことを殆ど知らないでしょうから、なので、まずは少しずつお互いのことを知って行きましょう!!」


 彼女は一輝を元気づける様に力強くそう言った。そして、その言葉を聞き終えた一輝は、


「そうですね、ありがとうございます、山下さん、お陰で彼女に電話をする勇気がもらえました。家に帰ったら早速、彼女に電話をしてみようと思います」


 一輝はそう言ったので。


「それなら良かったです、頑張って下さいね」


 彼女は笑顔を浮かべてそう言った。 

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