otome no namida

 ぼくは道化師


 あんた達のために 歌わせてもらうよ


 そう かつて愛は自由だった


 いや 愛ほど自由なものはほかになかったんだ


 愛し合うふたりが 男であれ女であれ 親であれ子であれ


 何ら 障害はなかった


 それも 当然の事さ


 原初の楽園には 飢えも老いも死もなく


 財産や階級なんて概念も存在しなかったんだから


 人々は皆互いに「トモダチ」だし「キョウダイ」だったわけさ


 時は流れた


 知恵を得た人々の間には 家族とか血族とか階級とか


 いろいろ厄介な概念が生まれ浸透していった


 そして それらによって生じた物的な病 心的な不都合を回避するのに


 法とか 倫理 道徳とかいう概念が新たに


 半ば必然的な形で生まれていったわけさ


 ただ それらの道理は 愛から自由という伴侶を奪い去っただけでなく


 愛というものの姿形をも歪めてしまったんだ


 誰が言った言葉だったかな 生めよ殖えよ地に満てよ


 子を生み出す事のない結婚は背徳にほかならなかった


 男同士 女同士は言わずもがな


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■近親婚をも背徳とされた


 何故だい? 愛って子供を持つ事かい? 家族を作る事かい?


 ふたりの愛のために どうして彼らの子供や両親の介入が必要なんだい?


 ふたりの愛は ふたりだけのものなんだ


 ほかの誰のためのものでもない それなのにどうして


 たまたま同じ屋根の下に生まれたというだけで 結ばれちゃいけないのさ?


 一緒に育ってきた 愛を育んできたふたりが


 こんな形でしか結ばれる事ができないなんて ぼくには納得できないよ!


 ……ごめん もう一度繰り返させて


 ふたりの愛は ふたりだけのもの


 これが あんた達に送る鎮魂歌さ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る