ルナティック・イン・ザ・スカート・ウィズ・ドリアンズ

 四丁目に住んでる 西家デリックさんは


 何やら ド派手な格好で町内をブラブラしているので


 結構 誤解され易いのだ


 十五夜の夜に 私は彼を波止場で見かけた


 彼はオカリナを 淋しそうに吹いていたよ


 でも曲は クシコスポストだったけど


 私は 思いきって訊いてみたよ


 「貴方は運送屋?」


 すると彼は「うん。そうや」と答えた


 その口ぶりとユーモアセンスからして 関西の人かと思いきや


 実は彼は ノルウェー生まれのモロッコ育ちだった


 父親はイラン人の中華料理人で 母親はブラジル人のデンマーク体操教師


 彼自身はバスク語を話すのだが


 フォルクローレを歌う時だけは広東語なのだ


 小さい頃はブロードウェイを目指して


 インド人歌手にシャンソンを習っていたのだが


 相手がロシア語しか喋らないのに嫌気がさして 国外逃亡し


 オーストラリアを放浪した後 フィリピンで出会ったのが


 セネガル国籍のクロアチア人女性だった


 その人と結婚し しばらくアルゼンチンにいるブータン人の親戚の所で


 ピッツァ職人の修行にはげんでいたのだが


 ある日 ブルガリア人の空手家にモンゴル相撲で負けた上に


 妻を寝取られてしまい ショックでコスタリカまで走ったんだってさ


 その後 チリ経由でオーストリアに渡ったんだけど


 そこで始めたベトナム料理屋が鳴かず飛ばずで またもや逃亡


 辿り着いたジャマイカでデスメタルを流行らせた功績が


 スウェーデン国王に認められて 親善大使になったはいいが


 間もなく雅楽に傾倒し始めた事で人気が下がり 三度逃亡を試みるが


 それを阻むウクライナ在住のケニア人の熱狂的ファンに刺され入院


 その病院で現在の妻であるハンガリー人女性と出会い


 ハネムーン先の韓国でプロレスラーとしてデビューして


 遠征先のルーマニアでパパラッチともみ合いになり


 裁判ざたになり有罪が確定 


 服役中 牢仲間のニュージーランド人とささいな事からケンカになり


 またもや意識不明の重体となってしまうが 夢の中で


 イスラエル人とカンフー映画で共演するという不思議な体験をした事から


 出所後 メキシコに渡り ■■■教に改宗しようとしたが


 危うく割礼をされそうになり 身一つでアメリカへと逃げる


 流れ着いたユタ州で 今度は■■■■教に改宗を試みるものの


 クリスチャンネームをまんま「クリスチャン」にされた事に腹を立て


 修道院長をはり倒してしまい破門 タイ人の親友を頼ってカナダへ出国


 しかし親友はすでに


 満州語を話すガーナ人のテコンドーファイターに殺されていた


 復讐を誓い 仇を追ってアイスランドへ飛んだ彼は


 そこでチロリアンダンスと出会う


 踊る事の素晴らしさに目覚めた彼が 次に目指したのはバリ島だったが


 現地のダンス教師に一方的に金星人呼ばわりされ 仕方なく帰る事にした


 ところが 行き先を間違えてアイルランドへと行ってしまい


 途方に暮れていると どこからか現れたポルトガル風の女が


 「日本に行けば?」と エスペラント語で言ってくれたのを機に


 福井にやって来たんだってさ


 現在 仏教徒の彼の座右の銘は「だめだコリャ」らしいよ


 ……というドラマをこの前観た。

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