人 夢

 全ての恋人たちは 幻の中で死を待つ


 愛ほど不確かなものはない


 生きている限り 知っているはずなのにもかかわらず


 彼らは 生きている間には 知ろうとはしない


 されど 現実に死してさえ


 真実は 常に 彼らの背中側に立ち続ける




 演奏者は 聴こうとはしない


 殊に 優れた技巧を持つ者ほど


 決して 耳を傾ける事はない


 うつしの通奏低音は転調を許さない


 遅れて来た夢見人だけが


 純正律を信じたがる




 全ての幻は 恋人たちの間から生まれ出づる


 現世において 愛ほど不確かなものはない


 知る事 そして経験も 存在から始まる歌


 旋律こそ確かなれど その詩は永遠に知り得ない


 限りなく澄んだ 乙女らの瞳だけが夢を映し出す


 乙女らだけが 虚ろなる影を追う事を許される




 知った事のない者のみが


 知ろうとする事ができる

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