エルフヘイム
「ごめーん、クロエさん。ダンスホールの方、まだちょっとパニクっちゃってるみたいだからお願いしていい? 私、無理やり抜けてきちゃってさー」
「ここでいなくなっちゃうと私の出番の少なさが気になるけど、いいわ。紫苑ちゃんの尻拭いもハンドラーの仕事の内だものね」
「ありあとー!」
ということで、クロエさんは紫苑に言われた通り、ダンスホールの方へと向かった。
そんな紫苑を見て、アンリエッタはさらに不機嫌になっていた。
「おい! なんでアタシを無視してんだ!」
「あれー? アンリエッタはなんで寝たままなの? てか、口調悪くなってない? どういう状況?」
「ああ、俺が麻酔ぶち込んで動けなくなった。んで、なんかキレた」
「なんだ、その雑説明」
「え! アンリエッタ動けないの! じゃあ、何しても抵抗できないってこと!?」
「なんで今の説明で疑問もたねぇんだよ! っておい、ちょっと待てその手をワキワキさせんな! バカ! やめろ! こっちくんな!」
「良いではないか良いではないか」
紫苑はじりじりとアンリエッタに近づいていく。
「!」
そんな紫苑に一本のナイフが飛んでくる。だが、紫苑の重力操作によって、そのナイフは紫苑に届く前に地面に突き刺さった。
「それ以上、アンリエッタ様に近づくな」
紫苑に吹き飛ばされたはずのアリアは何もなかったかのように立ち上がっていた。
「アリア? もしかして……嫉妬!? 大丈夫、この後ちゃんとアリアともイチャイチャするから」
いや、そうじゃねぇだろ。
「アンリエッタ様の命により、あなたを今ここで、殺す」
そう言い終わる前に、アリアは紫苑の背後を取っていた。
ナイフを逆手持ちにし、紫苑に斬りかかる。
でも、それじゃあ、ダメだ。
「う……!」
紫苑の喉元にナイフが突き刺さる前にアリアは吹き飛ばされる。
「これなら……」
アリアは体勢を立て直し、仕込みナイフを投げつける。また、それに合わせ、アリア自身も瞬時に紫苑の背後へと回る。
飛んでくるナイフと合わせて、挟み撃ちの形となる。
それでもまだダメだ。
「っく!」
ナイフもアリアもまとめて吹き飛ばされる。
その後も、アリアは自前のスピードを活かして紫苑への攻撃を試みるがそのどれも紫苑へは届かない。
紫苑の前では速さは意味がない。
あいつは見てから反応するのではなく、反射的に感覚で異能力を使っている。どれだけ速く攻撃しようが、全方位から攻撃しようがその全てを弾き飛ばす。
「はぁはぁ、はぁはぁ……」
流石にエルフヘイム最強の戦士でも息が上がってきたか。
となると、来るか。
「アリア、メアリー。許可する、やれ」
「承知いたしました」
「りょ、了解です」
アンリエッタに命令された2人はこくりと頷きながら、手を結ぶ。
「ちょ! 何あれ!? 急な百合展開!!!!! いいぞーもっとやれー」
そして、当たり前のようにその2人を見て、紫苑のテンションが上がっていた。
そんな紫苑を気にする素振りを見せず……いや、メアリーの方はめっちゃ恥ずかしがってんな。
顔を赤らめたメアリーにいつもと変わらない表情のアリアがそっと口づけをする。
「きゃああああああああああああ!!!!!!!!!! ファンサだ!!!!!!! シャッターチャンスシャッターチャンス!!!! 伊織はそのまま撮って! 私はローアングルからちょっと撮ってくる!!」
興奮が最高潮に達したのか、紫苑は鼻血と涎をだらだらと垂れ流していた。
ったく、なんも知らねぇやつは能天気でいいな。これはただのサービスシーンじゃねぇんだよ。
「いぎででよがった…………」
こいつ、ついに涙まで流し始めたぞ。
「おい、ちょっと待……」
俺が紫苑と止めようとした瞬間、アリアとメアリーが光の球体に包まれる。
「まずいな。しお……ん?」
「うっ! 尊さで前が見えない……!」
「いや違うから。実際に発光してんだよ」
「ごめん。私、ここで死んじゃうのかも」
「ふざけてんな。今すぐあいつら外へ吹き飛ばせ」
「な! 私にそんな非人道的なこと出来るわけないじゃん!」
「いいからやれ。じゃないと、ここにいる連中、全員死ぬぞ」
「ん……」
紫苑は倒れているアンリエッタにチラッと視線を向けた後、俺の方を見る。
「それは困る」
「じゃあ、頼んだ」
「うん」
紫苑が右手を前に突き出した瞬間、アリアとメアリーを包んでいた光ごと、外へと吹き飛ばした。
すると、光の球体は急速に巨大化していき……。
ピキっ……。
「なに? なんか出てくる?」
光の球体にどんどんひびが入っていく。
そして……。
「グガアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
それは叫び声と共に光の球体の中から出てきた。
けど、それはもう人の姿をしてはいなかった。
50メートルはゆうに超える巨体。殺傷能力が高そうな牙に爪、はためかせるだけで嵐かと思わせるほどの強靭な羽、俺の身長ほどの太さがある圧迫感のある尻尾。血を思わせる真紅の瞳、触れるだけで皮膚が裂けそうな白銀の鱗。
「ははは! どうだ。あれがあいつらの真の姿だ」
アンリエッタは自慢げに笑っていた。
「アタシの世界で最強と呼ばれる生物。その名は……」
「
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