探偵の初仕事Ⅰ
「こねぇな~」
「伊織、何してるの?」
「ん~。探偵ってアイディア良かったから、専用のサイト作ったんだが、1件も依頼来ない」
リビングのソファーに寝っ転がりながら、サイトのPVを確認していたが、未だに0のままだった。
「それはそうじゃん」
「色んなサイトに勝手に広告出したりしてんだけどな~」
「危ないサイトだと思われてそう」
「あ、そうだ。依頼来ても紫苑は手を出すなよ」
「え~なんで~」
「お前の手柄にされるじゃん」
「ちぇ~」
ぷーと頬を膨らませながら、不満を漏らす。
「で、お前はさっきから何してんだ?」
紫苑は服やら日用品やらをあちらこちらから持ってきて1か所に集めている。
「旅行の準備」
「旅行……あ~」
思い出した。
そう言えば、クロエさんから温泉旅行のチケット貰ったんだった。
俺も準備……しようと思ったけど、あれだな。そもそも俺、旅行行ったことないから、それ用のでかいバッグないや。
「バッグ欲しい」
「私も欲しいのあるから、一緒に行きたーい」
「いいぞ」
と、言った瞬間、1通のメールが届いた。
「ちょいまち」
「なに?」
「メールきた」
「友達いないじゃん」
「仕事のだよ」
「無職じゃん」
「探偵のやつ」
「いたずら?」
「っぽくはない」
俺も最初はいたずらかと思ったが、依頼主の名前や住所がちゃんと記載されていた。
調べてみた感じ、偽名や適当な住所ってわけじゃなさそう。
「緊急みたいだな。今から行ってくる」
「ちょっと待ってよ! 私と仕事どっちが大事なの!」
「仕事」
「さいてー!」
うーうーと涙を流しているが、まぁ嘘泣きだろう。
相手にするのもめんどいので、俺は紫苑をガン無視して家を出た。
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「っと、ここだな」
俺は依頼主の家がある南麻布までやってきた。
俺と紫苑が暮らしている家と同じ港区なので結構近くだった。他県とかだった、多分来なかったわ。
「にしても、流石高級住宅街。デカい家ばっか」
とは言っても紫苑の家もあれはあれでバカでかいからな。
あいつの資産的に考えたら小さく抑えた方だけど。
確か紫苑の総資産は世界で5本の指に入ってた気がする。
その辺どうでもよくてあんま覚えてないけど。
「いやいや、今はそんなことどうでもいいんだよ」
俺はためらいなくインターホンを押す。
しばらくしてから、玄関の鍵が開き、慌てた様子でおばさんが出てきた。
なんか、けばいおばさんだな。
出迎えに来たってことは家政婦だと思うけど。
「ちょっと! あなた遅いじゃない!」
なんか怒られたんだが? 依頼が来てから1時間も経たずに来たのにその言い方はないんじゃない? しかも、家政婦のくせに偉そうだし。
「早くは言ってちょうだいな」
おばさんに手招きされたので、一応軽くお辞儀をしてから、中に入れてもらった。
「あなた、探偵なんですってね」
「ええ、まぁ、そうですけど……」
え? 何? 玄関で話すんすか?
家の中に入って扉が閉まった瞬間、話し始めたんだが?
「それなら今すぐ
「樹斗ちゃん……? あの、依頼主の方は?」
「私です! 見て分からないのですか!」
えぇ~、この人家政婦じゃないの? そうなるとこの家主の婦人すか。
全然分からんかった。
「失礼しました。それで依頼は人探しでよろしいですか?」
「そうです! あなたの異能力を使って早く見つけてくださいまし!」
「異能力? 何の話です?」
「私、聞きましたのよ。探偵と言う方は異能力で何でも分かるのだと」
「いや、そんな異能力なんて持ってないですよ」
「では、あなたは何が出来ますの?」
何がって……。
ハッキング? とかはおおっぴろげに言えないし。
「頭を使うことなら大体出来ますけど」
「何を言っていますの? 異能力について聞いたのだけれど?」
「あ~」
異能力か。どうしよう。これ、なんて答えればいいんだ? 無能力者だとは言えないだろうし。
と、口をつぐんでいたら、
「あなた、もしかして
「あ、え……」
俺が何も答えずにいると、そのおばさんはそれで確信を得たのかさっきよりも険悪な雰囲気で怒り出した。
「ここはあなたのようなものが歩いていい場所ではありません! さっさと出ていってください!」
「はいはい! すみません!!!!」
うっわ、めっちゃ怒られた。こえぇ~。
下手したら殺されかねない雰囲気に負け、俺は急いで扉を開け、外に逃げた。
「あーあ、やっちまった」
初依頼が来て、舞い上がっちまった。
そうだよな。俺、
バレたら当然、依頼は破棄。
うっかりしてたわ。もったいねぇ。
「しゃーない。帰って、紫苑と買い物行くか」
やっぱりこの世界は
帰るか~と敷地の外に出あおうとした時、
「待ってください」
さっきのおばさんとは違う声に呼び止められ、後ろを振り返る。
そこにいたのは高校生くらいの赤毛の少女だった。
「母が失礼しました」
少女は深々と頭を下げる。
「別にいいよ。慣れてるし」
「そう言うわけにもいきません。どうしても、弟を助けてほしいですから」
「聞いてたんだろ? 俺は
「分かっています。けど、一人でも多く探してくれる人がいるならそれにすがりたいじゃないですか」
俺は
そういうやつがどういう扱いを受けるのか、身をもって知っている。
だから、彼女の目を見た瞬間に、思った。
この子は
「何が起きているのかさえ、聞かせてもらえなかった。まずはそこから情報が欲しい」
「はい! ありがとうございます!」
なら、断る理由はないよな。
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