原神の遺産Ⅳ
はい? 今なんと?
「私、聞いたことがあります。ありとあらゆる事件を解決する警察とは別の存在。探偵。フィクションの職業だと思っていたのですが、実在したのですね」
待て待て待て。何? 探偵? 俺が? 何それ初耳なんですけど?
探偵って言えば、古典小説や漫画でよく見る職業。昔は実在していたらしいが今現在そんな職業は存在しない。だから、フィクションの世界だけのものだと言われてきた。
で、そんな探偵が……俺? 何故そうなった。
「レムナントはこの世界では職業に就くことすら出来ないと聞きます。だから、あなたは自分で新たな職業を作った。それが探偵ですよね。でも、レムナントが勝手にそんなことをすれば世間からのバッシングは避けられない。その為、あなたはその正体を隠し、紫苑さんを通じて、様々な事件を解決していったのではないですか?」
確かに俺は事件解決の為に紫苑に手を貸したことは何度かある。でも、あれは何もせずに養われるのが申し訳ないという気持ちから手を貸しただけであって、そんな探偵と言う裏の顔があるからではないんだよなぁ。
でも待てよ? 探偵って言うのは意外といいかもしれない。
だって、名乗るだけなら自由だもんな。どこかの許可を得なければいけないわけじゃない。無職というよりは幾分かマシ、いやむしろカッコいい。
「ふっ、流石、エルフヘイムの王女様と言ったところか」
俺は意味深に笑い、現実味を醸し出す。
「そうさ、俺は……探偵だ」
よし、俺は今日から探偵になろう。
ヒモだけど。
「やはりそうだったのですね!」
俺が探偵だと名乗った瞬間、アンリエッタは目を輝かせ始めた。
「あの、サインください!」
あんだって? サイン? なんで? ん? どうしてそうなる?
いや、ここで動揺を見せてはいけない。
俺は何でも見通すカッコいい探偵だからな。
「仕方ないな。1枚だけだぞ」
俺はメアリーから色紙を貰い、適当にサインを書く。
うむ、ぶっつけ本番にしては上手くかけた気がする。
そして、色紙をアンリエッタに渡す。
「ありがとうございます! 一生大切にします」
アンリエッタは俺のサインが書かれた色紙を大事そうに抱える。
そんな光景を隣に座る紫苑が不思議そうに見ていた。
「伊織、いつの間に探偵に……」
「紫苑、お前にこれをやろう」
紫苑が余計なことを言いそうだったので、俺は先程運ばれて来たデザートのケーキを紫苑の前に差し出す。
「いいの!? ありがとう!」
よし、餌付け成功。
これでしばらくは大人しくなるだろう。
「私、推理小説が好きで、特にシャーロック・ホームズが大好きなんです」
なるほど、アンリエッタはシャーロキアンなのか。
1000年も前の小説なのによく知っているな。しかも別世界の。
それともエルフヘイムではブームなのか?
「っと、すみません。私の話なんてどうでもいいですよね」
テンション上がってしばらく一人で語っていたことに恥ずかしさを覚えたのか、我に返ったアンリエッタは顔を赤らめ下を向く。
「アンリエッタ様」
そんなアンリエッタにアリアが何やら耳打ちをする。
「そうでした。伊織さんにはまだ聞かなくてはいけないことがありました」
「いいでしょう。俺に答えられる範囲であれば」
他に聞かなきゃいけないこと……多分、あれか? あれだな。あれしかないな。
でも、あれくらいなら答えてもいいか。
「ToneCodeについてです」
やっぱりか。
「ToneCodeはエルフヘイムでも極秘情報。例えその存在を知っていたとしても、その暗号を解読する方法は軍の幹部クラスか王族だけしか知らないはずです。それを何故、あなたが解読できたのですか?」
ま、当然だわな。こんなのが敵国に漏れていたのだとしたら、国家の一大事である。
なので、その情報の出どころだけははっきりしておかないと一国の王女としては危機感を覚えるだろう。
「こいつがDDD序列1位なのはもう知ってるな?」
俺は隣に座る紫苑を指さす。
「ええ、それはもちろん」
「DDDにあるアーカイブには、この世のあらゆる情報が集まっている。それはこのセントラル以外にも仕事で得た異世界の情報も含まれる。ToneCodeも例外じゃない」
「で、では、DDDの方たちには私たちの暗号情報が筒抜けなのですか!?」
「落ち着け。いくら情報があるって言っても、誰でも見れるわけじゃない。アーカイブには閲覧制限がかかっていて、局員が見れる情報なんてごく一部のことだけだ」
「では、なぜ……あ」
どうやら、アンリエッタは気が付いたみたいだ。
「そ、アーカイブに制限なくアクセスできる権限を持った人間が二人だけ存在する。一人はDDDの局長。そして、もう一人……」
そこでアンリエッタは俺の隣を見た。
「DDD序列1位にもアーカイブの全権限が与えられている。つっても、こいつの場合、その手のことに疎いからな、こいつのアカウントは俺が管理している」
「いいのですか、他人が勝手にそのようなことをして」
「バレなきゃ、犯罪じゃないんだよ」
「そうかもとは思っていましたが、あなた、意外と悪い方なのですね」
んだよ。別に悪用はしてないんだからいいだろ。
「でも、そう言うことだったのですね」
アンリエッタは納得してくれた様子。
あぁよかったよかった。面倒なことにならなくて。
「あなたがToneCodeを知った経緯は分かりました。けれど」
けれど? え? 今けれどって言った? このタイミングでけれどはよくない。悪い予感しかしない。
「アーカイブの情報はDDD本部でのみ閲覧可能で外部からのアクセスは出来ないはずですよね。そうなるとあなたはToneCodeの暗号方式を全て覚えていたことになりますが、そんな安易に覚えられ様なものではないのですよ? 私でも全てマスターするのに一年はかかりました」
「あ、何だそんなことか」
変に勘ぐって損したじゃねぇか。
「それなら簡単だ。単に俺の記憶力が良かっただけのことだ。これでも記憶力には自信があるんでね。というか、むしろそれしか取り柄がないまである」
「記憶力が……そう。……うん、分かった。じゃあ、そう言うことにしておきましょう」
まだ納得いっていないようだが、一旦は飲み込んで受け入れたようだ。
「とりあえず、これ以上は詮索しないわ。けど、その代わりにあなたのその知識を頼らせてもらってもいいかしら?」
「もしかして、それが俺たちを、いや、俺を呼んだ本当の理由なのか?」
「そうよ。そして、私がこの世界に来た理由の一つでもあるの」
エルフヘイムの王女がいきなり来日すると聞いた時から、別の何か目的があるのではないかと予想はしていた。
「“原神の遺産”。私はそれを探しに来たのです」
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