第14話 だって女の子だよ……

ようやくあたしは、冷静になれていた。


 一樹が豚塚殴って、学校中が大騒ぎになって、どうしてか冷静になれた自分がいた。


 やっぱ、あれだな、廻りが取り乱すと、取り乱していた自分が冷静になれるよな。


 冷静に、正確に適格に適正に思い出せるようになっていた。


 あたし、鮫島 優はやってしまった。やらかしてしまった。


 あの時の、よりにもよって、親友の一花の旦那、一樹にキスしてしまったという、もう忘れられないような事実。


 そう事実。だから現実。よって夢じゃないって事だ。


 事実なんだけど、その事実にしてしまった行動する為の気持ちというか思考というか、感情が、まるでついてこない。


 本当に空っぽだったんだ、あたし。


 いや、無意識に一樹の唇を奪ったって事なの?


 なんで?


 どうして?


 Why????


 誰か教えて!!


 答えて!!!


 散り散りになる心に、理解不能な自分の行動。


 考えても考えても、アップで10キロ、本気で15キロ、クールダウンで10キロ走っても、雨がふりそうだったので、テルテル坊主をつるしても、なんの答えも出てこない。


 もう考えるのをやめるか!ってなると、ボーっと油断すると、今度はあの時の一樹の唇の感触がさ、いや、ホント、忘れたいのに、鮮明に思い出してしまう。


 寝るか!


 って布団をかぶっても、全体的にも鮮明に記憶がよみがえってきて、うああああああああ!!! って叫びたくなる衝動を抑えて身もだえる日々が続いた。


 そんな時、そんな日、そんな夜に、あたしは、一花からの呼び出しをうけたんだ。


 ああ、来たか。


 なんか、もう、処刑台に上がる気分だった。


 もちろん行く。


 行かせていただく。


 次の日、あたしは親友の一花に呼び出されて、二人だけだけど『女子会』という尋問を受けていた。


 だから、ここは一花の家。


 だから、一花の旦那、一樹の家でもある。


 前から思ってたけど、ちょいちょい、呼ばれて来るたびに思っていたんだけど、ここ二人で住むにはちょっと広いなあって、一花の部屋でそんな事を考えていた。


 家の造りの所為かな?


 古いんだ。


 いや、違うな、なんていうか、こう、あれだ、つまり、古いってのは悪い方向じゃなくて、あ、そうだ、そう、歴史があるって感じだ。


 確か、築3000年???がどうとか言ってた気がする。


 数値的に間違っている気がする、30000年は言い過ぎかもだけど、そんだけ古いんだ。


 そんな家がさ、どこにでもある地方都市の、この住宅地にあって、こう、家とか住宅の事ってよくわからないけど、一言でいうなら、『豪』って感じ?


 あの広い玄関に上がるたびに、『庄屋さん?』、ほら、あるじゃん、村で一番でかい家って、昔話とかでさ? 村長さんが住んでる家? みたいな感じ。


 だから、天井も高いんだよなあ、一花の部屋。


 この上にもう一部屋つくれそうだ。


 なんて考えてると、


 聞いてるの? 優?」


 って、一花にしては割と高い声で、急に話しかけてくるから、その内容もうわのソラナあたしは適当に答える。


 「うん、ああ、そうかな?」


 絶対に質問の類だって思ったからさ、そんな感じの答えを返しておけばいいんだろうって思ったんだ。


 「やっぱ、聞いてないじゃん、ちゃんと答えて」


 私は、一花のベッドに座って、一花を見る。


 一花は、自分の勉強机の前に立って、私を見下ろしていた。


 迫力あるなあ、って思ったよ。


 「だから、一樹の事好きなの?」


 って聞くから、


 「いいや、そんなことは無いよ」


 正直な話、そうなんだよな。特に異性として見た事は一回もないな。


 だいたい、あいつ、頼りないんだよなあ。


 いっつも、なよなよしててさ、何言ってお怒んないしな、もちろんそれは一花案件以外だけど……。


 それにこの前の日直の時だって、あたしがさ、図書館ボックス、図書館に返すための本な、うちのクラスはそれまとめて図書館に返すからさ、日によっては結構な重さになるから、あの時も重かったんだよな。

 

 で、だいたい教室の仕事をてきぱきやってる一樹だったんだよ。


 本当に、あいつ、作業とか得意なんだよな。嫌がらないし、将来、絶対い仕事できる男になるなあ、なんて見てて、じゃあ、雑なあたしは、図書館ボックスでも持ってくか、なんて思ってたんだよ。


 で、持ち上げようとするとさ、一樹のヤツが、


 「今日のは重いから、僕が持ってくよ」


 なんていいやがんの。


 だから、


 「なんだよ、あたしの方が一樹より力はあるだろ?」


 背も高いしな、背筋力も、多分校内一だぞ。


 そしたらさ、一樹がいうんだよ。


 「いや、だって、優は女の子じゃん」


 ほんと、はあ?


 だったよ。


 お前……。


 未だに私を女の子扱いするのって、親父と、県外に住んです祖父くらいのもんだぜ
?


 で、呆れてるあたしをほっておいて、ふらふらしながら図書館ボックス持って行くんだよ。


 ホント、爆笑しかけて、胸がドキドキしたよ。


 だから、無いって、よりにもよって一樹を好きになるなんてないからな。


 ホント、一花もあたしもどうかしてるよ。


 全く、一樹のヤツときたら、


 困ったヤツだよ……


 

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