Round9 やっぱり神様なんていなかったね


 確定役を引いた後の特殊ステージにて放心中。


 神を引いたら100ゲームの上乗せ。そしてプラスαで3回の審判ジャッジメントがもらえる。要するに可能性の塊ってワケ。


「俺、冥王様の子供になる」

「大きな息子ができちゃったわね〜」


 イエスユア

 信じるものは救われる…………なんか2つ前の章がそんな話だったような気もするが、まぁいい。


 出玉は500枚を超え、ようやく投資の1/6を取り戻した。しかしまだ生きた心地はしない。まさに首の皮1枚が繋がった状態だ。


 手に入れた神は、善神にも悪神にもなり得る。どちらになるかはヒキ次第である。


「頼みの綱は冥府の加護か……」

「ね? ね? ケルちゃんたちすごいでしょ⁉︎」


 自分、冥界入りいいっすか? まだ死んでないけど。


「ま、この後次第かな」

「イケるイケる〜」


 冥王の右肩上がりのグラフは止まることを知らない様子。乗るしかない、このビッグウェーブに。


 そして何事もなく100ゲーム消化。神降臨の余韻を十分堪能した次は、俺の審判である。


「頼むぞケルちゃんベロちゃんスーちゃん!」


 あと3000枚! できれば10000枚! 

 眼下の毛むくじゃらたちは、ひりつく俺の背中など関係なくじゃれている。


「ハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスハーデスゥゥッ……ママ────ッ!」


 審判の時。

 お祈り打法よろしく、冥王の再臨を願った。登場シーンのBGMと画角で誰が来るかは分かる。


 デデンデンデデン────

 某ターミネーターのような音と共に、獣の咆哮がこだまする。


 上乗せとしては1番弱い、ケルベロスである。

 膝の上の毛むくじゃらではない。約5ゲームの間に上乗せするシステムとなっている。威圧感のある容貌に、ファンシーさは皆無だ。


「まぁ、大人のケルちゃんたち⁉︎」

「あんまり会いたくなかったなぁ…………」

「あらあら〜こんなに可愛いのに」


 可愛いのと出玉性能は別だ。

 画面の犬に求めるのは100ゲーム以上の余裕!


「吼えろ、ケルベロス!」

「ガウッ!」

「お前たちじゃぁないっ!!」


 直後、画面奥にいる地獄の番犬は鋭い爪を振るい爆発を起こす。しかし冥王、その妻と比べると上乗せは貧弱だ。


 ────60ゲーム。


「ガキの小遣いじゃねぇんだぞ」


 貴重な貴重なひとつ目が全く伸びない。こうなると残り2回が肝となる。


 そして2度目の審判。

 ────アオーンと、こだまするは犬の声。


「もういいって。犬は膝のだけでいいから」


 70ゲーム。ちょっぴり伸びたね。


「もう1回来ないかしら」

「あんまそういうこと言わないでくれ」


 ホントに来るから。

 そして3度目の審判。これで伸びなかったら終わりだ。2度目のGODなどない。


「キャウ〜ン」


 まるでケルちゃん達に呼応するように、3つ首の獣はまたまた現れた。


「ほらぁ〜! 冥王様が言うからぁ〜っ」

「うふふ、かわいいわよねぇ」


 せめて100ゲーム、ATでチャンスを伸ばすきっかけとなってくれ…………!


 ────60ゲーム。現実にママみはない。

 これにて3回の審判は終了、3回の開封すべてケルベロス。ほぼ最低保証で終わりだ。


「ハッ、駄犬どもが! 役に立たねぇなぁ!」

「ガゥーッ!」


 3体同時に俺の頭にかぶりつく。


「あだだだだだっ⁉︎」

「だめよぉそんなの食べたらお腹壊しちゃう」

「そんなの⁉︎」

「ガーッ!」

「くそ、何が冥府の縁起物ヘル・チャームだ! クーリングオフしてやる」

「おかえり〜」


 ケルベロスをつっ返して投資分を取り戻す。こっからは実力だッ!


 などと言いつつ。


 当然、残り190ゲームで何かを引けるほどのヒキはなく。約1000枚獲得という、なんとも微妙な結果で幕を閉じたのである。


 やっぱり神様なんていなかったね。

 なにがイエスユアマザスティだ。



 ◇ ◇ ◇


 

「ん〜っ、楽しかったぁ!」

「そりゃよござんした」


 冥王様は満足そうに端玉でもらった飴玉を舐めている。飴玉が珍しいのだろうか。


「マオちゃんがハマるのもわかるわぁ〜」

「はぁ、ご満足頂けたようで」

「また来るから、よろしくねぇ!」


 ケルベロスを抱えたまま、冥王は異世界に繋がる扉へ消えていく。結局隣の爆連を見届ける羽目になった俺は、財布の中身を3分の1にして終わった。


 やはり異世界の奴らと打つと碌な事にならない。久々に味わう確かな敗北は、想像以上にダメージが大きい。


「5号機なんて過去に縛られてちゃいけない。時代はスマートだッ!」

 

 やはり還らなければならない。

 母なるパチンコへ…………


「あの5号機、明日には稼働停止しますよ」

「うぉっ⁉︎」


 薄くなった財布を眺めていると、見慣れたローブ姿の魔女が現れた。


「いたのか」

「到着したのはつい先ほどです。誰かといましたか?」

「まぁちょっとな」

「兄弟子ィッ!」

「うぉっ、パート2」


 突然足首を掴まれたと思いきや、下を見れば上半身だけアスファルトから出した黒髪の魔王がいた。


「う〜ら〜ぎ〜り〜も〜のぉ〜!」

「復活演出ですか」

「びっくり系の復活演出は苦手なんだよなぁ」

「いいから…………上げてほしい、ぞぃ」


 

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