第31話 監禁生活。−2

 この暗闇の中でどれだけの時間が経ったのかすら分からないまま…、花田さんに捕まっていた。それでもまだ俺のことを彼氏だと思って、朝から夜までちゃんとした食事を食べさせてくれた…。いい子にしていたら外してくれるその話は本当なのか、なんか花田さんのペットになったような気がする。


「な———おくん!」

「うん…」

「こっちおいで!」

「どこ…?」

「こっちだよ〜」


 今は目が見えないから、前から聞こえる声に頼るしかなかった。

 そしてさりげなく首筋を噛む花田さんが、静かに自分の欲求を満たしていた。彼女は朝食から夕食まで、食事を食べさせるたびにこんなことをやってくる…。俺は何も見えないこの部屋で、花田さんにずっとずっとやられっぱなしだった。


「へへ…、ここにいるのがもっと楽しいよね…?」

「……」

「だよね? 尚くん!」

「うん…」

「元気ないね…。大丈夫、私と一緒にいると元気が出るはずっ!」

「うん…」


 しばらく静寂が流れた後、片頬に痛みが感じられた。

 もしかして返事が気に食わなかったのか、平手で俺の頬を打った花田さんはそれから何も言わなかった。目が見えないから彼女の表情は分からない…。ただ、怒っていることだけは分かったいた。


 そしてまた静寂が流れた。


「彼女が前にいるのに、それしかできないの?」

「……ごめんなさい…」

「ごめんなさいじゃなくて…、もっと明るい声で答えるべきでしょ?」

「……うん」

「私がどれだけ頑張ってるのか知ってるの? いつも尚くんのために料理してるし、服もちゃんと洗濯して着せてあげたよ…? それと…」


 床に何を置くような音…。

 見えないから分からないけど、もしかして動画を再生したのか…? いや、これは動画っていうよりニュース…?


『1月1日、大手コスメメーカーの令嬢木下エルさんが未成年に対した………。』


 これは…、木下さん…? ニュースで木下さんの名前が出てるのか…?

 未成年を脅かし、それに…あんなことを犯した罪で今…逮捕されたと…?


「尚くんをいじめた人は私が全部排除したからね…? 心配しなくてもいいの」

「一体、何をしたんですか!」

「ううん…。自分が犯したことを動画で撮って、あっち側に渡しただけ?」

「……」

「私と尚くんの世界に入ろうとする人は…、こうなるんだからね…? 尚くんも注意して…、私以外の女は全て敵だから」

「木下さんはあんなことをしても…実際いい人だったから、ちゃんと話せば聞いてくれるかもしれないのに…」

「フン…。あの人ね…。尚くんのことを裏で調べて、わざと会いに行ったのは知ってるの?」

「えっ…?」

「人のことを消耗品扱いする女だから…。元々、腐った人なのよ」

「そんな…」


 足の手錠を外してくれたから少しずつ動くようになったけど、ここから逃げる方法などなかった…。スマホも没収されたし、今は冬休みだから疑われる余地もない…。


「もう食事も終わらせたし! 尚くん、久しぶりにキスしよう…!」

「えっ…? なんで…?」

「なんでって…、恋人とキスするのは普通でしょ? 違うの?」

「そうだよね…? でも、目が見えないから…」


 眼帯を外したところには俺のシャツを着ている花田さんがいた。


「……」


 下着が見えそうな姿勢をして、俺と目を合わせた彼女は頭を撫でながら微笑んでいた。すごく怖かった…。こんなに綺麗な人が、そんなことを起こすとは思わなかったから…。そして、この前まで何もなかったこの部屋になぜか寝床が作られていた。


「あっ、これ? ずっと一緒に寝てたからね…」

「……ぜ、全然覚えていない」


 なぜ…、俺は何も思い出せないんだ…?

 ずっとそばにいたはずなのに、どうして頭の中が真っ白になってるんだ…?


「……っ」


 何気なく唇を重ねる花田さんに、俺は慰められるだけ。

 精神的にはもう崩れたかもしれない…。ここにあるのは花田さんとの快感…、それだけだった。


「私の体熱いよね…?」

「うん…」

「昨日、尚くんとくっついてたから…ちょっと汗臭いかもしれない…」

「ううん…。菜月はいつもいい匂いがする…」

「へへ…、尚くん好き…」


 知らなかったけど…。俺の体には花田さんがつけたキスマークがいっぱい残っていて…それは醜いほど、俺の上半身を汚していた。首筋から感じられるこの痛みも、彼女に噛まれたからだろ…? 最初から逃げられない場所だった。


 俺は確実に監禁されている。


 もう…、いい。


「な、尚くん…。頬痛い…?」

「ごめん…。俺が悪かったから、打たれたかも…」

「尚くんが私に冷たくなるのが嫌だったから…、私は尚くんのことが大好きだよ…」


 そして俺の前で涙を流す花田さんに体をくっつけた。


「また私のせいで彼氏がいなくなるのは嫌だから…。だから…、守りたかったよ…」

「うん…」

「尚くんが私のそばにいてくれるって約束すれば、私もこんなことしないから…」

「うん…。もう菜月が嫉妬するようなことはしないから…、ずっと菜月しか見ていないよ…。木下さんに襲われた時も、菜月のことが好きって言ってあげた」

「本当に…?」

「うん…」


 花田さんがこんなことをする人って、知っていても何も変わらない。

 どれだけ足掻いても無理だったから、この現実を受け入れるしかなかった。


「あの…」

「うん」

「私たち…、な、仲直りしたよね…?」

「怒ってないし…」

「嫌な顔をしていたから…」

「それは勘違いかも…」

「じゃあ…! 今日は尚くんとエッチなことがしたい…!」

「うん…? それはちょっと…、手錠がかけられたから…」

「大丈夫! 座ったままやってもいいよ? 私がリードするからね…! 気分を高める程度でやってあげる!」


 また眼帯をつける花田さん。

 俺は真っ暗な世界で彼女と肌を合わせていた。


「はあ…」


 激しい動きが感じられる中で、俺を強く抱きしめた花田さんが爪を立てる。

 そして彼女は俺の耳元でこう囁いた。


「どこにも逃げられない…。尚くんの居場所は私のそばだよ」


 今日が何日なのか…、どれくらい監禁されたのか…何も知らず。俺は真っ暗な世界で彼女とエロいことをしていた。


「ひひひっ…、気持ちいい! 尚くん…」


 俺が覚えているのは彼女と肌を合わせた時の感触だけ…。

 それだけだった。

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