34. 憧れの先に

34. 憧れの先に




 私はルナレットさんから話を聞いてから正直迷っていた。それは、王国特級任務依頼は危険な依頼だと言うこともあったけど、それより一番はあのおじさんのことだ。


 かつての仲間を失った王国特級任務依頼。それを受けてもいいのか。ここはきちんと話すべきだと思う。あのおじさんは今日は休みだから、私は依頼を終えてから家に向かうことにした。


 住所は念のために前にルナレットさんにこっそり聞いていたしね。私は目的の家まで歩いていく。閑静なところで、私の足音だけが響く。ちっ良いところに住んでる。独身貴族か……。


「あれ……ここさっき通ったような……」


 そんなことを思いながらグルグル歩いていると、突然誰かに呼ばれる。


「お前。不審者か?騎士団に通報するぞ?」


「あっブレイドさん!ここがブレイドさんの家なんですか。」


「何のようだ?」


「とりあえずお邪魔しますね」


 するとブレイドさんは身体で入り口を塞ぐ。


「オレに用があるならここで話せ」


「え?あー……女ですか。なるほど。そういうことですね。」


「そんなわけないだろ。」


「ならいいじゃないですか?問題でもありますか?お邪魔しまーす」


 私は強引にブレイドさんが塞ぐ入り口に向かっていく、さすがのブレイドさんも私に触れるわけにもいかず、そのまま私が家の中に入るのを許してしまう。ふふ。これが女子の特権(?)だから。


「意外と綺麗にしてますね。なんかこうもっと散らかっているイメージがあったんですけど」


「話をしたら帰れよ!ったく」


「まぁとりあえずコーヒーでも出してください。ほら気が利かないですね。それでも大人ですか?」


「……お前。ただやり返したいだけだろ」


 ブレイドさんはぶつぶつ文句を言いながらコーヒーをいれてくれる。そしてそれをテーブルに置いてくれる。しかもソーサーには砂糖が2つ。私が苦いのを飲めないって知っているからだろう。このおじさん私のこと好きでしょ?本当に素直じゃない。


「それでなんだ?わざわざ来たんだから何かあるんだろうな」


「その……ルナレットさんから聞きました。『閃光』の過去。シャーリーさんのことも」


「そうか。」


「ブレイドさんはどう思ってるんですか?王国特級任務依頼のこと。私がリーダーだから決めろとかじゃなくて、ブレイドさんの気持ちを聞きたいんです!」


 私がそう言うとしばらくブレイドさんは黙っている。そしてゆっくり口を開く。


「そうだな。あの時シャーリーは死んだ。オレはそれが悔しかった。オレのせいで死んだようなものだからな」


「でもそれはブレイドさんが悪いんじゃ……」


「いや、その想定が出来なかったのはオレの落ち度。そしてその時の『閃光』は過信していたのも事実。慢心が生む悲劇なんていくらでもある。それに気づかされた。だからオレは二度とパーティーは組まないと思ったんだ」


 私はそれを聞いて何も言えなかった。だってブレイドさんの言うことは正しいから。でも私はもうブレイドさんとパーティーを組んでいる。いつもは私が助けてもらってばかり。だから今回は私がブレイドさんを……過去の縛りから救ってあげたい。


 だって私は……村のみんな、困っている人を救ってくれたシャーリーさんに憧れてギルド冒険者になったんだから。


「ブレイドさん。実は私。故郷の村が盗賊に襲われた時、『閃光』のシャーリーさんに助けてもらったんです。その姿は今でも忘れられないし、私がギルド冒険者になったのも、憧れたからです」


「……そうだったのか」


「だから私は王国特級任務依頼を受けようと思います。困っているロデンブルグの人たちを見捨てることなんてできない!」


 すると私の発言を聞いたブレイドさんは、いつものように何も変わらなく同じ言葉を私に言ってくれる。


「リーダーはお前だ。お前が決めたことなら従うだけだ」


 私はその言葉を聞いて、ブレイドさんが私を信頼してくれているのがわかった。だからこそ応えなければならないと思う。素直に嬉しいけど、そんなところブレイドさんに見せるのは嫌なので、平然を装う。


「当然ですよ。この最強無敵のギルド冒険者の美少女の私がリーダーですからね!」


「またお前は……」


「だから……私を守ってくださいブレイドさん。私たちは一心同体ですから!」


「……ばーか。一蓮托生だろ。それにお前は守らんでも大丈夫だろ『壁』なんだからよ」


「は?どこ見て言ってんですか!?この豊満な胸を持つ私のどこが壁なんですか!」


「……何言ってんだお前は」


 本当に失礼なおじさんだ。とにかく、こうして私は王国特級任務を受けることになった。



 それからエルンが帰った後の1人の部屋。いつも通りの晩酌。だけど今日だけは違った。あの時エルンが言っていた後思い出したのだ。シャーリーが盗賊から助けたあの日のこと。


(ねぇねぇブレイド君。これ見て?お花もらっちゃった!)


(お前はそれより、オレたちに言うことがあるだろ、勝手に行動して)


(また説教?もう18のクセにおじさん臭いなぁ。それよりこのお花くれた女の子ね。私みたいになりたいってさ!もしさその子が本当にギルド冒険者になったら私が面倒見る!だって私に似てる気がするし!)


(……できるのかお前に?どうせオレに面倒を寄越すだけだろ。勘弁してくれ、お前がもう一人とか)


(失礼な。でも……きっとなれると思うんだ。あの子の目キラキラ輝いててすごく素敵だったからさ!)


「シャーリー……やっぱりお前はオレに面倒を寄越すんだな。まぁお前らしいか……」


 そう。一人お酒を飲みながら、過去のことを思い返しているブレイドは、どこか懐かしそうな顔をしていたのだった。

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